第52話
蒼幻島のSランク迷宮は、「七呪の迷宮」と呼ばれている。
この迷宮の名称がついた理由は、100階層にいるボスモンスターからの由来だ。
このボスモンスターは、七つの剣を背後に展開している人型の魔物だ。
ただ、昔鑑定を行った人がいるそうだが、それによるその人間は七つの剣に呪われ、体を操られている、という感じらしい。
さすがにボスモンスターに挑戦するつもりはない。
今回はあくまで準備運動のようなものだ。
軽く七十階層くらいに行くとしようか。七十階層はBランク級のボスモンスターが出現する階層だ。
Bランク級とはいえ、ボスモンスターが出現する階層なので、軽い運動をするにはちょうどいい相手だ。
俺も次は流花とともにAランク迷宮に潜る予定があるしな。
Bランクのボスモンスターというのは、まさにうってつけだ。
目的の七十階層まで、入り口付近にあった転移石で移動すると、ちょうど冒険者たちが挑戦中だった。
七十階層のボスは、鬼兄弟と呼ばれている。
オーガジェネラルが二体いるのだが、右手に金棒を持っているのが兄鬼、左手に金棒を持っているのが弟鬼。
違いはその利き手くらいのもので、見た目は完全に同じだ。
一説では、こいつらは双子なのでは? とか言われているが、迷宮に関して深く考えても意味はないだろう。
そのオーガジェネラル二体に挑戦中の冒険者は、十名いる。
……鬼兄弟二体を分断するようにして、五人ずつで戦いを展開しているな。
他の冒険者パーティーが挑戦中にボス階層へと侵入することはマナー違反だ。
なので俺は階段を椅子代わりにして、戦闘の様子を眺めていく。
「タンク! 敵意がこっちに向きそうだ! 頼む!」
「任せろ!」
アタッカーと思われる男性が叫ぶと、タンクが前に出て突進する。
パーティーというのは役割をもって行動する。
アタッカー、タンク、ヒーラー。主な役割はこの三つ。
一応アタッカーには近距離と遠距離がいるし、ヒーラーがサポートも担当していたり、タンクがアタッカーを兼任しているなんてことは珍しくはない。
役割で呼び合うということは、もしかして現地で集まったメンバーとかだろうか?
蒼幻島には高ランクの冒険者が集まるので、掲示板とかで募集してその日ごとにパーティーが入れかわるということもよくある。
タンクが濃い魔力を放っている。……魔物を引き寄せるための魔力放出だ。
俺がAランク迷宮でミノタウロスを集めたときに使用したもので、本来はこのようにタンクが引き付けたい魔物にのみ向けて放つ使い方が正しい。
ただ、タンクの表情は険しい。そちらのパーティーは今、弟鬼と対峙しているのだが、かなり押し込まれている。
……弟鬼の動き、以前俺が戦ったときよりも少しだが動きが良い?
ボスモンスターにも多少個体差というのはあるのだろうか?
そんなことを考えているとタンクが大きく弾かれ、盾を持っていた腕がぐらりと垂れ下がる。それを見て、すかさずヒーラーが回復を行う。
……負傷していた腕が一瞬で治療されるが、ヒーラーの表情も疲れているように見える。
まあ、回復魔法はかなりの魔力を使うらしいからな。
他者を癒すことのできるヒーラーが持つ回復魔法は、特殊魔法に分類さえる。
魔法には八つの属性がある。火、水、風、土、氷、雷、光、闇……これらは属性魔法と呼ばれ、多くの人がこれに適応している。
それ以外の魔法はすべて特殊魔法と呼ばれている。回復魔法はその一つだ。
無属性魔法は魔力さえあれば誰でも使用できることから、特に分類などはないという状況だ。
弟鬼と戦闘をしていたパーティーは苦戦中。
では、兄鬼のほうはどうだ?
……そちらの五人も、かなり苦戦しているように見える。
それでも、どちらもじわじわとだがダメージは与えている。
現時点では、人間側に有利というところだ。
……だが、この七十階層のボスは、体力が減ってきたところで強化される。
俺のおすすめの攻略方は、強化される前に一気に仕留めることだ。
それも、二体同時に。
こいつら、片方がやられるともう片方が強化されるという面倒な仕組みになっている。
やるなら、同時に二体をまとめてぶっ倒す。
……まあ、もちろん難しいのは分かっているけど。
現実的なことで言うと、片方を倒してからもう片方を倒す、というのがセオリーだ。
やはり二体同時に相手どるというのは大変だからな。
「……ガアアアア!」
「……ボアアアア!」
……二体同時に体力が半分を斬ったようだ。二体から放たれる魔力が増幅していった。
金棒を地面に叩きつけると、地響きとともに岩が地面を這う。
タンクが盾で受け止めたが、弾き飛ばされる。
アタッカーがその隙に攻撃をするが、すかさず構えた金棒に止められ、アタッカーを殴り飛ばした。
アタッカーとタンクは壁に叩きつけられ、魔法アタッカー二名とヒーラーが顔を青ざめる。
それは、兄鬼のほうで戦闘していたほうも同じ状況だ。
……鬼兄弟。思っていたよりも頭もキレるんだな。
アタッカーとタンクを分断した鬼兄弟は、後方に控えていた者たちを仕留めに走り出している。
……厄介な高火力、回復役を潰す作戦だろう。
「ガアアアア!」
「ボアアアア!」
二体が同時に突進していき、残っていた人たちは青白い顔とともに逃げ出す。
……それは演技ではないだろう。
何か秘策があっておびき寄せているわけではなく、純粋に生きるために逃げ出している。
だが、その鬼兄弟は足を止める。俺が魔力を放出しながらボスモンスターのフロアへ向かって歩き出す。
鬼兄弟の視線がこちらに向く。
同時に、こちらへ逃げてきた六人たちと、よろよろと体を起こすアタッカー、タンクの人たちの視線も集まってくる。
「ガアアア!」
「ボアアア!」
鬼兄弟が怯んだのは一瞬。すぐに魔物としての威勢を取り戻し、俺へと突っ込んでくる。
俺は小さく息を吐いてから、地面を蹴りつけ、鬼兄弟たちの顔面を掴むように跳躍し、投げ飛ばす。
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