第51話


 迷宮が世界に発生したのに合わせ、日本の北側に一つの島が出現した。

 謎の島だった。

 古代文明がどうたら、ムー大陸がどうたら……などなど色々な話が出てきてしばらくはそういった界隈に興味を持つ人たちを楽しませたが……原因は迷宮だった。

 

 現在では、蒼幻島(そうげんとう)と呼ばれるその島には、Sランク迷宮の一つ「七呪の迷宮(しちじゅのめいきゅう)」があった。

 あまり大きくはない島だ。

 体力に自信のある人なら徒歩でも島一周することはできるのではないだろうか?

 ただ、ここはその島の規模以上に人であふれている盛り上がっている。


 迷宮以外特に目だったもののないSランク迷宮のおかげだ。

 Sランク迷宮、といっても「黒竜の迷宮」と同じ構造で1階層はGランク迷宮程度、90階層より上にいくとSランク迷宮程度の魔物が出現するようになる。

 さらに転移石も迷宮内に存在するため、移動もラクに行える。


 本来、冒険者は全国に点々とある迷宮の中から、自分にあったランクの迷宮を攻略する必要がある。

 だが、蒼幻島の「七呪の迷宮」はここ一つですべてのランクに対応できる。

 こういった迷宮は人気だ。


 俺の自宅付近にある「黒竜の迷宮」だって、あまりいい噂こそないが、なんだかんだいって冒険者たちに人気だ。


 さらに言えば、迷宮内は魔力が濃いらしく、一度の戦闘でより多く成長を感じられるそうだ。

 科学者たちの研究によるとおおよそ1.2倍程度……とかなんとか言っている。微々たる差だが五日も入れば一日分くらいお得になる……らしい。

 まあ、人によって個人差もあるので実際どのくらい影響があるのかというのは判断が難しいところだ。


 とまあ、冒険者たちにとっては理想的な環境なので、この島に定住する冒険者も少なくない。


 俺もそんな蒼幻島に、一軒だけ家を持っている。

 迷宮が一望できるような位置の物件で、たまたま手放す人がいて、購入できたというわけだ。

 冒険者の多くは迷宮前に家を買うし、なんなら大手ギルドなどがだいたいの物件を押さえてしまっているため、今では一般人で買うのは非常に難しい。


 そんな蒼幻島の別荘に、今俺は一人家にいた。


 麻耶は今日、凛音と…………玲奈と配信だ。

 コラボ配信でちょっと迷宮攻略に行くらしい。


 最近麻耶もかなり力をつけてきている。凛音ももともと持っていたスペックを出せるようになってきているので、問題はないだろう。


 麻耶と凛音で比べると……残念だが、凛音のほうが強い。

 だが……まあ、麻耶は可愛い。


 凛音も可愛い子だとは思うが、麻耶はそれとは別種の可愛さを兼ね備えている。その魅力で戦闘能力はカバーできるだろう。

 そういうわけで、麻耶が家にいないとなれば俺も家にいても仕方がなかったので、久しぶりに蒼幻島にある別荘の整理をしにきたというわけだ。


「お荷物お届けです!」


 部屋の掃除をし終えたところで、ちょうこの別荘に依頼していた荷物が届いた。


「ありがとうございます……」


 蒼幻島にある俺の二階建ての建物は、一度大規模なリフォームをしたためかなり綺麗だ。

 運ばれてきた荷物は段ボールで五つ分。今回は、結構少なかったな。


 それを家に担ぎ込んだ俺は段ボールを開ける。

 そこには麻耶のタペストリーやフィギュアなどのグッズが入っている。


 そう、ここは迷宮に挑戦する際の家としても使ってはいるが、この別荘の本命は――麻耶グッズ保管倉庫。


 麻耶も利用することがあるため、リビングと麻耶の部屋以外に飾っていっているわけだ。部屋はいくつもあるが、そろそろ今のグッズたちでもいっぱいになるので、またどこかに倉庫を用意したほうがいいかもしれない。

 そんなことを考えながら、二時間ほどかけて運ばれてきたグッズたちを飾っていった。

 綺麗に片付いた部屋を見てから、俺は額の汗をぬぐう。


「ふー、終わった終わった」


 近くのコンビニで購入したジュースで水分補給をしながら、部屋の時計を見る

 ……まだ麻耶たちの配信まで時間に余裕あるな。

 少し迷宮に潜って、それから家に帰っても問題ないか。


 俺も次は流花との迷宮での配信がある。


 Aランク迷宮に入る予定なので、それほど大変なことはないが……まあ迷宮に入らない日があるとそれだけ勘が鈍る。

 これでも、麻耶が学校に行っている間などは迷宮に潜って体を動かしている。

 今日はまだ迷宮に潜っていなかったので、俺はSランク迷宮へと向かうため、フードをかぶって外に出た。



―――――――――――

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