第168話



 俺は今、有原とともに迷宮内にいた。

 もちろん、有原を指導するために来たのだが、最近はその頻度が増えている。

 恐らくはこの前の【ブルーバリア】との合同迷宮攻略を気にしてなんだろうな。口には出さないけど。


 そんな有原は風魔法で周囲を薙ぎ払い、ちょうど出現した魔物たちを仕留めていった。

 ここは黒竜の迷宮の61階層。

 魔物の強さでいえばDからCランクに近いものが出てくるのだが、それらを相手に苦戦はしていない。


 何度も戦っていることもあり、魔物の癖なども把握してきているし、経験が活かされているな。

 とはいえ、有原が余裕で勝てるのは先程のように、魔力を多く使用する大魔法を使ったときだ。

 有原は魔法を連発するようにして攻撃をしていたのだが、やがて限界が近づいてくる。

 明らかに疲れ切った様子の彼女に、声をかける。


「いったん休憩にするか」

「……まだ別に大丈夫だけど」

「大丈夫な奴がする顔じゃないぞ? 焦ったって魔力が一気に増えるわけじゃないんだから、ほら休憩だ」


 頑固者の有原を休ませるにはこちらも強引に押し切る他ない。

 彼女の腕を引くようにして階段まで連れていくと、有原は頬を膨らませた状態で階段を椅子代わりに休憩を始めた。


 迷宮爆発でも発生しない限り、魔物たちが階段に侵入してくることはないので休憩するならここが一番だ。


 まったく。

 この弟子は負けず嫌いの頑固者だ。まあ、だからこそ成長速度も早いのだが、休息も大事だ。


「今日はまた一段と暴れてるけど、ちゃんと成長はしてるんだし……そう焦るなって」

「いや、今日はちょっと違う感じ」

「違うって……何がだ?」

「ストレス発散も兼ねて……みたいな?」


 むすぅっとした様子で息を吐いた彼女に俺は首をひねる。


「ストレス発散?」

「仕事でちょっとイラついたの。もう、聞いてくれない?」

「仕事ってモデルだろ? そんな変なことでもあったのか?」

「昨日の撮影でね、なんか現場が一緒だった男性モデルの人がやたらと距離近くて。連絡先も聞いて来ようとしてきて、断ってるのにマジ面倒だったんだよね。こっち興味ないのに……」

「……なるほど、そいつは大変だったな」


 俺はそんな経験ないが、興味のない相手から言い寄られるのは大変そうだよな。

 学生時代にも、クラスの人気者とかはそんな感じのことを話していた気がする。

 

 まあ、有原が言うような理由で冒険者活動をする人もいるので、どんな動機でも別にいいだろう。


 冒険者になる理由のいくつかに、ストレス発散のため、という人もいるらしいからな。

 「ゴブリンをむかつく上司に見立てて、ぶった斬ってやるんです!」とインタビューを受けていた人もいるからな。顔出しで話していたと思うが、あの人は会社にバレずに済んだのだろうか?


「だから今日は魔法の使い方がちょっと派手だったんだな」

「……そんなに違った? 一応制御するようにはしてたんだけど」

「結構違うもんだぞ。まあ、大技の練習も大事だし、別にいいけどな」


 ボスモンスターと通常モンスターとの戦い方はまるで違う。

 ボスモンスター相手では、大技で一気に倒すような戦いになることもある。

 逆に、通常モンスターは最小限の魔力でいかに倒すかという戦いだ。


 大技の練習は中々できるものではないので、今回のようにスカッとしたい日に使うのは肉体と精神のバランスからもちょうどいいだろう。

 この前、【ブルーバリア】と一緒に迷宮攻略させてもらったときも、うちのメンバーはどちらかというと通常モンスターとの戦い方で戦っていたからな。

 今後はその辺りの練習をしたほうがいいとも思っていた。


「うし、もう回復してきたし、まだいけそうだよ」

「まだもう少し休んでろって。魔力完全回復しないと何度も休憩挟むことになるんだし」

「……えー、でもあーしチーム『お兄ちゃんズ』のメンバーで一番弱いし。皆も訓練してるから、追いつくのは難しいけど……少しでも多くやんないとダメじゃない?」


 それは確かにそうかもしれないが……。

 彼女の考えに意見を言う前に、俺は引っかかった単語に問いかける。


「チーム『お兄ちゃんズ』? なんだそれは」

「ほら、あーしたちお兄さんに指導受けてる人たちのこと。命名はじゃんけんで負けた凛音ちゃん」

「……」


 にこりと微笑んできた有原は、スマホの画面をこちらに向けてきた。

 そこにはLUINEのグループが表示されていて、『お兄ちゃんズ』と書かれていた。

 麻耶、流花、凛音、玲奈、シバシバ、有原の名前がそこにあった。

 まあ、名称に関してはなんでもいいか……話を戻そう。





―――――――――――

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