第167話
「出てきました! 鈴田さんです!」
俺の登場に合わせ、真っ先に反応したのはマスコミたちだ。
「どうやら、日本の災害級の冒険者が、無事今回も迷宮を攻略してきれたようです!」
「鈴田さん! 何か意見ありますか!?」
……かなり周囲の声がうるさいが、俺はひとまず下原さんを見る。
「さっき話していた怪しい奴はどうでしたか?」
「……例の魔力増幅薬を使っていました」
「やっぱり、そうでしたか」
「一応、警察機関が所持していた測定器で調べてみたところやはり、同じように変化していましたね」
「良かった、間違えてなかったみたいですね」
「凄まじい感知能力でしたね」
下原さんは頬を引きつらせながら、こちらを見ていた。
周囲を見てみるが、捕らえられた人はすでにこの場にはいないようだ。
まあ、細かい問題は警察や協会に任せておけばいいだろう。
俺としては今日の仕事を片付けたのだから、もうこれで終わりでいいだろう。
あんまりここにいても、マスコミたちの被写体にされるだけだしな……。
「……鈴田さん。とりあえず、迷宮攻略はありがとうございました。報酬に関しては振り込んでおきますが……帰りはどうしますか? こちらで車の手配も可能ですが、いかがしましょうか?」
「シバシバの魔法があるので、それで霧崎さんと一緒に戻ります。何か他にありますか?」
「……いえ、大丈夫です。鈴田さん、今回もありがとうございました」
「いえ、こっちこそネタを提供してくれて助かってます。それじゃあ霧崎さん戻りましょうか」
「……はい」
霧崎さんにそう声をかけてから、俺たちはその場からシバシバの魔法で逃げ出した。
立ち去る最後の瞬間まで、カメラの撮影音が響いていた。
「また失敗だが、次の手はどうする?」
そう宣言したルーファウスの言葉に、その場の全員が威圧され、震えていた。
ルーファウスもまた、そうなるように仕向けていた部分もあった。
現在、ルーファウスが管理しているこの組織では、迅を暗殺するために動き出していた。
すべてはルーファウスの指示だ。組織が本気になって追い詰めれば追い詰めるほど、より迅が成長してくれると考えていたからだ。
「迷宮を強化し、それでジンを暗殺する。その作戦は失敗に終わったようだな」
淡々と、しかし威圧的な声とともにそう告げていく。
それでも、圧倒的な魔力をぶつければ彼らは恐怖に支配される。
ここに集まった人たちは皆精鋭のメンバーだ。だが、ルーファウスにとっては取るに足らない程度のものだった。
「め、迷宮の強化は……うまくいきました。ですが、ジンはそ、その想定を遥かに超えていました……」
「みたいだな。それで、どうする?」
「つ、次はさらにもっと……強力な迷宮へと変化させます」
「――そうか」
ルーファウスはそう返事をした彼らに飽きていた。
彼の求めていた答えは、魔力増幅薬を使い直接ジンへと挑戦することだったからだ。
だが、彼らはあくまで自分自身の手は汚したくないはないときたものだ。
ルーファウスは、ここにいる精鋭皆が迅に挑み、そして敗北することを望んでいた。
曲がりなりにもルーファウスが集めた精鋭たちを退けることが可能ならば、迅も少しは期待できると思っていたからだ。
これならば、まだジェンスに期待したほうがいいかとルーファウスが考えていると部下の一人が声を荒らげた。
「レコール島に、Sランク迷宮があります。世界最高難易度と呼ばれる迷宮の一つですので、そこを強化しようと思いますっ」
「レコール島、か」
「は、はい……っ。レコール島は日本からも近いです。レコール島の冒険者たちが攻略不可能となれば、きっと日本にも応援要請が出されるはずです……っ。ですので、それでジンをおびき出し、仕留めます!」
「……なるほどな」
「い、いま……日本で不審な動きをすれば、すぐにジンに感知される危険もありますし……」
レコール島。
迷宮が地球に現れるようになってから出現した巨大な島だ。
【バウンティハント】と呼ばれるギルドが島の権利を所有し、治安維持などを行っている。
現在は一つの国と呼ばれるほどの規模となり、島の滞在者の多くが冒険者として活動している。
数多の迷宮があり、その島でしか取れない素材も多くあり、どの国にも属さない冒険者島として有名だった。
「分かった。まあ、精々頑張れ」
「は、はいいいい!」
怯えた様子で声をあげた彼らを送り出した。
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