第166話




 次の瞬間、体を黒い装甲が覆っていく。

 ヴァレリアンは白の装甲だったが、俺は黒の装甲だ。

 再現魔法をする際、相手の魔法を劣化コピーしただけではあまり使い勝手が良くない。


 だから、自分の魔力と組み合わせ、相手の魔法を上回るように強化する。

 その結果がこれだ。全身を覆うように展開された黒の鎧を確認した俺はそれから、カメラを胸の部分にセットする。

 黒の鎧を展開する際、いい感じにはめられるようにしておいたからな。


「というわけで、ヴァレリアンの力を少し貸してもらうからな。ヴァレリアン、配信見てたらそういうわけだから。これ、いいな。姿も隠せるし一石二鳥!」

〈ふぁっ!?〉

〈これ、マジでヴァレリアンの装甲魔法じゃねぇか!〉

〈変身しているシーンを全世界放送していては意味ないのでは?〉

〈草〉


 ヴァレリアンの装甲魔法を再現したはいいけど、使い方がよく分からないな。

 ただ、はっきりと身体能力が強化されているのは確かだ。

 先ほどまでと同じ程度の身体強化であるが、サムライリーダーの攻撃もすべてかわせるようになっているしな。


「余裕だな」

「……ッ」


 空気が変化した。

 サムライリーダーたちの身体能力がさらに強化され、一閃が振りぬかれた。


「悪いが、刀の相手は慣れているんだよ」


 居合だけでいえば、シバシバのほうが優れている。

 シバシバは最高火力をあげることに重点を置いて鍛えている。

 どんな強敵にも勝つために、一瞬の爆発力を高めているわけだ。

 だからこそ瞬間的な速度はシバシバのほうが上だ。


 まあ、このサムライリーダーたちは安定している。ゲームのステータスで例えるなら、すべての数値がバランスよく高いのがサムライリーダーで、速度と攻撃力のみ高いのがシバシバという感じか。


 欠点がない、というのは同格以下の相手には強い。

 ただ、俺だってオールラウンダーで戦えるからな。

 サムライリーダーの一閃をすべてぎりぎりまで引き付けてかわし、拳を振りぬく。


 殴り飛ばしたサムライリーダーとは別に、背後から刀を振り上げて襲ってくる。

 そいつを振り返りざまに蹴り飛ばし、最後に突っ込んできた奴を膨大な魔力で薙ぎ払う。


 倒れてもすぐに立ち上がるのはさすが侍魂というべきか。

 さらに身体能力を高め、迫ってくる。

 速いが――見切れる。


 突き出された刀を脇で挟みこみ、拳を振りぬく。

 殴り飛ばされたサムライリーダーは、仕方なくといった様子で刀を手放した。


 俺は奪い取った刀を意気揚々と、横からとびかかってきたサムライリーダーへと振りぬいた。

 魔力を乗せた一閃は甲冑ごといともたやすく切り裂いた。


 さらにその奥。そちらから迫ってきた。

 サムライリーダーが居合の構えで突っ込んでくる。


 奪い取っていた武器は時間制限もあり消滅してしまった。

 同時に、サムライリーダーが居合を放ってきた。

 高速の一撃。だが、俺はそれを白刃取りで掴んで見せた。

 片手で。


〈片手かよ!?〉

〈嘘……今のも見切れるのか〉

〈……一瞬声にならない悲鳴あげちまったよ〉

〈さすがお兄様ですぅ……〉


 サムライリーダーは抵抗するように刀を引いたが、俺は刀を片手で握りしめながら、右手に魔力を込め、サムライリーダーを思いきりぶん殴った。

 刀を手放せば死ぬ、と思ったのだろうがどちらにしろ終わりだ。


 俺の拳はサムライリーダーの甲冑を破り……しとめた。


「まあ、こんなものか」


 戦闘が終わったので装甲魔法を解除しつつ、俺は魔石を回収しさらにその奥の部屋へとコメントを見ながら向かっていく。


〈……お兄ちゃん、戦った相手の魔法を再現魔法で奪うようになってから化け物度が増したな〉

〈でも、これって訓練次第で全員ができる技術なんだよな?〉

〈”人の魔法を再現できるとは聞いていたが、まさかそこまでデタラメなことできるのかよ……”〉

〈……やばい。やばい、かっこよすぎだよお兄様……〉

〈今日もお兄様の無双が見れて私は感動です……〉


 一部変なコメントも目立つが、とりあえず問題はなさそうだな。


「そんじゃ、ここで配信は一旦終了だ。また今度な」

〈お疲れ……〉

〈いやぁ、濃密な時間だったな……〉

〈相変わらずお兄ちゃんの配信はぶっ飛んでたな〉

〈”お兄ちゃん、今日もありがとう!”〉

〈”めっちゃ楽しかったぞ!”〉


 俺は迷宮の核となる魔石を回収し、すぐにシバシバの魔法で迷宮の外にいた下原さんのもとへと移動した。



―――――――――――

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