第165話


「へい、もしもし。どうしたんですか?」

『鈴田さん! 今いいですか!?』

「あー、大丈夫ですよ」

『外で計測したところ、たったいま、Sランク迷宮相当にまで急成長しました……っ! 危険があるかもしれないので一度帰還したほうが――』

「なるほど……その影響か」


 俺は三体のサムライリーダーたちをじっと見る。


「ちょっとタンマです。下原さん。配信みてます?」

『見ています……っ! ですから連絡したんです! サムライリーダーは一体でもかなりの強敵です! 迷宮の成長によって、その危険性はさらに増しています! 今すぐに避難を――』

「……下原さん、ちょっと思ったんですけどいいですか?」

『なんですか!?』

「リーダーが三体いたら、誰が本物のリーダーなんですかね?」


 皆リーダー……なんて今時のお遊戯会じゃないしな。

 純粋に浮かんだ疑問をぶつけると、下原さんが怒ったように声を張りあげた。


『そんな呑気なこと言っている場合じゃないですよ! さっきも言いましたが、そいつらはAランク迷宮でも限りなくSランクに近い能力を持っているんですよ!』

「そうみたいですね……ああ、それで下原さん。ちょうど話したいことがあったんですけど」

『また変なことじゃないですよね!?』

「ええ――下原さん、今近くに怪しい魔力を持った奴がいるみたいなんで、そいつ押さえてください」

『え!? ど、どの人ですかってこの魔力でつぶされている方ですか?!』

「ええ、そいつです。なんかこの前の違法薬物使っている連中と同じ魔力を感じたんで、止めておきました。詳しい事情はそいつから聞いてください」

『わ、わかりました』


 ……外にいたときからこそこそと動いていた不気味な魔力だが、迷宮が成長し始めるのに合わせ、大きな魔力を発していた。

 もしかしたら、今回の迷宮の成長にも関係している可能性がある。

 とにかく、外は下原さんに任せればいいだろう。


〈い、いったい何が起きてんだ?〉

〈テレビ見ていたんだけど……なんかお兄ちゃんの魔力で押しつぶされているやつがいて草〉

〈え? マジで……?〉

〈迷宮攻略しながら外の様子もうかがってたのかよ……〉

〈”日本の冒険者……凄すぎるな”〉

〈ていうか、お兄ちゃん、今超遠距離攻撃したのか?〉

〈相手の魔力の位置さえわかれば攻撃できるとか……?〉

〈いや、それ恐ろしすぎるだろ……〉


 コメント欄が盛り上がっている。そういえば、外の様子はテレビで生放送中だったんだっけ。

 俺はカメラに向けて、にこりと微笑みながら言ってやった。


「おうそうだぞ。だから、麻耶のアンチが魔力を放てばすぐにつぶせるってわけだ」


〈草〉

〈アンチの潰し方(物理)〉


 そのコメントを見た瞬間だった。

 警戒するようにこちらを見ていたサムライリーダーたちが突っ込んできた。

 速いな。これは、本来の迷宮のランクの魔物よりも強い……と思う。


 下原さんたちが心配する理由もよく分かる。

 一瞬で距離を詰められ、三つの刀が俺へと襲い掛かる。

 すべてかわしたつもりだったが、僅かに頬を切り裂いた。


 その瞬間、体をしびれるような感覚が襲った。


〈お兄ちゃんがかわしきれなかっただと!?〉

〈おいおい、マジでやばいんじゃないのか!?〉

〈こんなのもうSランク級の迷宮じゃねぇか……〉

〈お兄ちゃん逃げて!〉

〈ていうか、サムライリーダーって確か刀に毒とか塗ってあるんじゃ……?〉

〈え!? マジでやばくねぇか!?〉


 コメント欄は慌てているが、俺としては……まだ魔力の出力をあげれば対応はできそうだと思っていた。


「ああ、毒なら大丈夫だ。免疫力を強化すればいくらでも治せるからな」

〈あっ……うん〉

〈ソウデスネー〉

〈いつもの〉

〈なんでこう心配した瞬間にその心配を軽く超えてくるんですかお兄ちゃんは……〉


 心配から一気にいつもの空気に戻ったコメント欄。


〈”……やっぱりこの人やばいって”〉

〈初見の毒にも抵抗力あるって……ほんとなにしたら死ぬんだよ……〉

〈もはや寿命も超越してるんじゃないか……?〉

〈なんか千年後もマヤちゃんの配信みてそうだぞ……〉


 ……コメント欄は盛り上がっているのだが、俺としては少し困っている。

 あとはもうサムライリーダーを仕留めれば終わりなのだが……それではな。

 たぶん、このくらいの相手だといつものように一撃で仕留められてしまう。

 

 ただ、それではせっかくの視聴者たちへのサプライズが見せられないだろう。


 俺も配信者だ。麻耶も言っていたが、時にはちょっとしたサプライズをしてあげるとよりチャンネルが人気になるらしい。

 つまり、俺がここでサプライズしてあげれば、マヤチャンネルの登録者数も増える可能性があるわけで……。


 いつものようにただ能力を強化して、で倒すのでは呆気ないだろう。

 映え、というのを意識してみようか。


「さっき電話ももらったし――少し、力を貸してもらうとしようかね」


 俺は以前の戦いの際に回収しておいた、ヴァレリアンの魔力を意識した。



―――――――――――

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