第178話



 舞台袖から俺たちは様子を伺う。

 銀色のマイクが一本、会見のテーブルに立てられ、多くの報道陣がカメラを構えていた。


 会見場にはいくつものテーブルが並べられ、各社の報道陣がノートパソコンなどを広げて待機していた。

 下原さんに案内された場所には、すでに会長が待っている。

 後ろの方ではカメラマンたちも今か今かと待ち構えていて、それを見た会長が息を吐いた。


「それでは、私が呼びましたら三人とも入場お願いします。それと、軽い挨拶程度だけで構いませんから」


 俺たちはそろって頷いた。

 会長は舞台袖から歩いていくと、一斉にシャッターが切られた。

 マイクがおかれたテーブル前に到着すると、彼は両手でテーブルの端を掴むようにしてそれから声を張り上げた。


『皆さま、お集り頂きありがとうございます。冒険者協会会長の秋風と申します』


 テンプレートとも思われる軽い自己紹介をして、すぐに本題へと移っていく。


『今回、すでにご存じだとは思いますが……レコール島にて、Sランク迷宮の迷宮爆発が確認され……今も現地は大変なことになっています』


 会長の声には、力がこもっていた。

 自然、会場の空気も引き締まっていく。


『日本にも応援要請が来まして、日本からは二つのギルドと、一名の冒険者が参加することになりました』


 会長の視線がこちらへと向くと、そこでいよいよ名前が呼ばれた。


『それでは、武藤さん、御子柴さん……鈴田さん、お願いします』


 俺たちがスーツで歩いていくと、一斉にシャッターが切られた。

 集まっていた報道陣の視線が俺たちに集まり、俺たちは会長の背後へと立つ。

 そして、入れ替わるようにして挨拶を行っていく。まずは、武藤さんからだ。


『【雷豪】のリーダー、武藤です。レコール島で、少しでも多くの人を救助するため……尽力していきたいと思います』

『【ブルーバリア】のリーダー御子柴です。私も、武藤リーダーと同じく、少しでも犠牲者を減らせるよう頑張りたいと思います』


 というわけで、俺の番である。なんか、俺が一歩前に行った瞬間、一段と注目が集まったような気がする。

 まあ、今までこういった場に顔を見せていなかったしな。

 全員の険しい表情を見て、俺は会長と同じようにテーブルを掴むようにして手を伸ばした。


『リトルガーデン所属の鈴田です』


 最初は軽く挨拶をする。それだけでも、多くのシャッターが切られる。

 あとはまあ、軽く決意表明でもすればいいんだよな。


『今回、俺がこの戦いに参加した最大の理由は――』


 注目が最高潮に集まった瞬間、俺は宣言する。


『マヤチャンネルのためです』


 会場の空気が変わった気がした。


『自分には世界最推しの配信者マヤという子がいます。あっ、妹です』


『レコール島の人たちに何かあれば、将来の麻耶の視聴者が減ることになります』


『なので、俺が向こうについてからは誰も死なせません』


 俺は途中、呼吸を挟みながらも自分の伝えたかったことを言っていく。

 困惑した様子の記者もいたのだが、一部の記者たちは普段のシバシバと同じような顔になってシャッターを狂ったように押しまくっていた。


『あー、あと最後に。なんか、周りの人皆に心配されまくるし、事務所宛にも「参加しないでくれ」っていう感じのメッセージがめっちゃ来ているみたいですから、ここではっきり言っておきます』


『テレビの前の俺たちの視聴者へ』


『俺はマヤチャンネルが続く限り永久に不滅だ! 以上!』


『会長、そういうわけであと任せます』


 これだけ麻耶教信者ということを伝えておけば、英雄視されることもないだろう。

 俺はそういうのは苦手なので、ここではっきりさせておきたかった。

 あとついでに、マヤチャンネルの宣伝もしておきたかった。


『……はい』


 会長がにこやかに微笑み俺と入れ替わり、これからの流れの詳細について話していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る