第139話



 ……俺に憧れるのはいいけど、俺の配信を参考にしてもらってもな。

 霧崎さんも良く口にしているが、俺が伸びたのは突発的すぎるらしいからな。


 今回のビーチバレー大会は事務所の子たち全員参加であり、この機会に事務所全体の登録者数を増やそうという作戦でもあるそうだ。

 そういった細々としたものについては、俺の把握できない場所なので自由にやってもらえばいいだろう。


 いずれは、俺も彼女らのうちの誰かとコラボすることもあるのかもしれない。

 俺はいい広告塔になるらしいし。


 まあ、別に俺もトークとかはできないが、迷宮に一緒に潜るとかなら別に断るつもりはないし。


 ひとまず、麻耶が来るまで俺は待機しながら、事務所の子たちに挨拶をしていく。

 ……たぶん、新しくデビューする子たちの次くらいに俺は若手だと思うのだが、皆すげぇペコペコしてくるな。


 年齢も皆より一回り上というのもあるのかね? なんてことを考えていたら、


「……ふう、海かぁ」


 ため息交じりにやってきたのは麻耶だ!

 彼女もちゃんと水着を身に着けている。とてもよく似合っている。天使だ。

 白を基調としたビキニスタイルの水着は、麻耶の綺麗な肌を覆っている。とても美しい姿に、俺は脳内のシャッターを切りまくった。

 しかし、浜辺に現れた天使はどこか陰鬱そうな表情で足取りは重い様子だ。

 パラソルの下にやってきた麻耶は海を見て、ため息をついていた。

 それはそれで、麻耶はとてもカワイイのだが、相変わらず海とかは苦手なようだ。


「まあ、泳げなかったのは昔の話だし、今は泳げるかもしれないだろ?」

「でも、それから学校のプールとかも全く泳げてないし……」

「まあまあ。砂浜でも遊ぶ方法はいくらでもあるしな。あっ、一応絶対溺れないように浮き輪は大量に用意したからな! どれでも好きなだけ持って行ってくれ!」

「ありがとう、お兄ちゃん。お兄ちゃんはまだ泳ぎに行かないの?」

「麻耶の泳ぎの訓練にでも付き合おうかと思ったんだけど、どうだ? この機会に練習でもするか?」

「い、いや……私は大丈夫」

「そうか? まあ、奥まで行かなければ深くないから安心しろ」


 麻耶が泳ぎの練習をしないのは残念だ。

 麻耶が一生懸命頑張っている姿を眺めて癒されるというのも一つの作戦だと考えていたのだが、


「あっ、ダーリン」


 そんな声が聞こえて振り返ると、玲奈がいた。

 玲奈の後ろでは、少し恥ずかしそうにしている流花と凛音の姿もある。

 流花は以前店で購入したオレンジ色の水着。凛音は水色。玲奈は赤色のもので皆似合ってるな。


「どうどう? あたしの水着姿に鼻血ぶーでしょ?」

「似合ってはいるけど、鼻血までは出ないぞ?」

「えへへ、似合ってる? 似合ってる?」

「ああ、そうだな。まあ、皆似合ってるよな」


 玲奈をなだめつつ、なんだか聞きたそうにこちらを見てきた流花と凛音にも伝えると、二人は僅かに口元を緩めていた。


「……うん、迅さんに選んでもらったし」


 選んだというか、流花が持ってきたものからいいと思ったものに返事をしただけなんだけどな。

 とりあえず、周りから大きく浮いているということはなさそうだ。

 そんなことを考えていると、玲奈が腕を掴んできた。


「それじゃあ泳ぎに行こうよダーリン!」

「その前に、日焼け止め塗ったほうがいいですよ……」

「あっ、そうだった。ダーリン、塗って縫って」


 凛音が声をかけると玲奈は持ってきていたポーチから日焼け止めを取り出した。


「自分で塗ればいいんじゃないか?」

「届かないところとかあるからねっ。ほら、ダーリン、お願いー」

「い、いや玲奈さん! そんなお兄さんに頼まなくても別に――」

「じゃあ、凛音は自分でね。あたしはダーリンにやってもらうから」

「いや、ちょっと待って。私も、塗ってほしい……」


 割り込んできたのは流花だ。控えめながらに手をあげた彼女に凛音が驚いたように声をあげる。


「る、流花さんまで!?」

「わー、お兄ちゃん人気だね」

「俺は麻耶のを塗るので忙しいんだけど……」

「私はここに来る前に塗ってきたから大丈夫だよ」

「なんだって? まあ、それならいいんだけど」


 麻耶のすべすべ天使肌が傷つかないのならそれに越したことはない。


「それじゃあ、皆で塗りあえばいいんじゃないか?」

「ダーリンに塗ってほしいんだよ!」

「ちょっと待ってください……っ! ……じゃんけんにしませんか?」

「え? もしかして、凛音もちゃっかり混ざろうとしてる?」

「そ、そうではなくてですね……っ。ほ、ほら、やりましょう! ちょうど偶数ですし!」


 凛音は頬を赤らめながら叫び、拳を差し出した。

 流花と玲奈は顔を見合わせたが、それから決心したようにそれぞれ構える。

 そして、じゃんけんが始まり――。


「……そ、それじゃあ……お兄さん、お願いします」


 勝ち残った凛音がこちらに日焼け止めクリームを差し出してきた。





―――――――――――

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