第140話

「分かったけど……凛音。なんでそんな険しい表情してるんだ?」

「……し、していませんが」


 凛音はひきつったような顔でこちらを見てくる。その後ろでは流花が玲奈の背中にクリームを塗りながら、ちらちらこちらを見てきていた。

 ……向こうは向こうで何やらちょっと怖い顔をしているな。

 まあさっさと終わらせて泳ぎに行くとしようか。


 こちらに背中を差し出してきた凛音に向けて、俺はクリームを塗り始めた。


「ひうっ」


 触れると凛音はびくっと体を震わせる。

 それからさっと塗り広げていく。

 まっすぐに伸びた背中はまるで鉄板のようだ。気分はお好み焼き屋で油をしくような感覚。

 さっと綺麗に塗ると、凛音はそのまま寝そべるようにしてきた。


「あ、足もお願いします」

「了解」


 太ももに触れると……結構しっかりとした弾力が返ってきた。

 ちゃんと鍛えているのがよくわかるな。最近では魔法の扱いも上達しているし、凛音がどんな冒険者になるのか楽しみだ。

 そんなことを考えながら塗り終えると、何やら凛音は疲れた様子で息を切らしていた。


「前も塗るか?」

「そ、それはダメです! 変態ですか!?」

「冗談だって。ほら。あとは自分で塗りな」


 俺は渡されていたクリームを彼女に手渡すと、凛音は頬を赤らめながらこちらを見てきた。


「お兄さん、どうでしたか……? 感想とかないんですか?」

「感想って……いい太ももだったぞ?」

「へ、変態!?」

「聞いておいてそれか?」

「い、いや……でも、そのはっきり言われるとそう思ってしまう心もあるんです!」

「ダーリンは太もも好き、と」

「……太もも好き」

「お兄ちゃん太ももがいいの?」


 じとーっと三人の視線がこちらに向いたが、どうやら盛大に勘違いされたようだ。


「冒険者としてしっかり鍛えてるなって思っただけだぞ? ただ、あんまり背筋はなかったけど、背筋は全部の動きを支える上で必要だから、もうちょっと意識するようにトレーニングしたらいいんじゃないか?」

「…………そ、そういうことですか。分かりました、ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げてきた。

 ひとまず全員の日焼け止めも塗り終わったところで、俺たちは浮き輪などをもって海へと駆け出した。



 海で遊び終わった俺たちは、近くの借りているホテルに集まっていた。

 時刻は夕方。

 今日のこれからは自由行動なのだが、花火大会があるそうなので俺たちはそれを見ることにしていた。

 ホテルの屋上もこの日は開放されるらしく、俺たちはそこで見る予定だたのだが……女性陣は皆何浴衣に着替えるそうだ。

 俺はいつも通りの格好の予定なので、今もホテルの自室で休憩をしていた。


 特にやることはないので、部屋で麻耶の配信を垂れ流しにしていると、スマホが震えた。

 電話か。相手は……会長か。

 こんなときに一体どうしたのだろうか?


『迅さん、少しよろしいでしょうか?』

「なんですか? 迷宮攻略の件でしょうか?」


 会長が連絡してくるとしたらそれくらいしか思いつかない。


『いえ、そちらは特に大きな問題はありません。無事、迷宮の消失も確認しましたし、ありがとうございました』

「いえいえ。それでは別の件ですか?」

『……【スターブレイド】のリーダー、ヴァレリアンが日本に来たそうです。表向きは、日本への旅行ですが……念のため、お伝えしておこうと思いまして。以前、あんなこともありましたし』


 ジェンスによるスカウトの件か。

 少し苛立ってきてしまったが、今は楽しい旅行中だ。

 すぐに怒りを吐き出し、冷静に返事をする。


「そうですか。まあ、別に何もなければいいんですけどね」

『……そうですね』


 その含みのある間が、すべてを物語っているような気がした。

 ……会長も、きっと何かを感じているからこそ俺に連絡をしてきたのだろう。


「一つだけ確認したいのですが……仮に向こうがこちらに何か手を出してきた場合、反撃してしまっていいんですよね?」

『……それは、問題ありません。ただ、相手は……世界ランキングでも二位の方になります。くれぐれも、気を付けてください』

「もちろんです」


 ……本当にただの旅行ならばいい。

 だが、ジェンスの一件もある。

 警戒しておくに越したことはないだろう。


 通話を終えたところで、部屋がノックされた。

 凛音だ。扉を開けると、そこには浴衣姿の凛音がいて、どこか恥ずかしそうにしていた。


「もう着替え終わったのか?」

「は、はい。私が一番乗りみたいですね」

「ああ」


 とりあえず俺の部屋で集合という話なので、ここに集まってもらっている。


 浴衣に身を包んだ凛音はちらちらとこちらを見てくる。どうにも、評価が欲しいというような視線である。



―――――――――――

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