第141話




「そういえば、浴衣とかって持ってきていたのか?」

「いえ……近くのお店で借りてきたものになりますね」

「そうか。似合うのがあってよかったな」

「……はい」


 嬉しそうに凛音が微笑み、俺たちは花火大会についての話をしていると、続々と皆が集まってきた。

 麻耶の浴衣姿が、本当に似合っている。今日ここに来て本当に良かった……。

 俺が麻耶に見とれていると、ずいっと玲奈が割り込んできた。


「ちょっとダーリン? 麻耶ちゃんばっかり見てないで、あたしたちはどうなの?」

「おう、似合ってるなー」

「投げやり! まったくもう……。それじゃあホテルの屋上いこっか。ここから花火見られるみたいだし」


 玲奈が腕を組んできて、俺はそれを引きはがしながら皆でエレベーターに乗った。

 それほど大きくはないホテルであるが、屋上に上がると結構な高さを感じる。

 俺たちと似たような客もちらほらといて、俺たちは隅のほうへと移動した。

 まだ花火大会が始まるしばらく時間はありそうだ。

 軽く伸びをしていると、ちらちらと周囲の視線が集まっていることに気づいた。


「……目立ってるな」

「まあ、仕方ない……有名税」


 流花はこういうのに慣れているようで、苦笑のようなものを浮かべる。


「まあ、あたしとか凛音はそこまで登録者いないから大丈夫だと思うけど、流花ちゃんからはちょっとまずいね」


 玲奈の視線が俺、麻耶、流花へと向けられる。

 ……といっても、玲奈も凛音も確か五十万人突破したとかなんとか言っていたような気がするが。


「そうですね……特にお兄さんは、一度注目されたら大変ですよね」

「……みたいだな」


 本当にここ最近は街中でも気が抜けなくなっている。

 外を移動するときは常に気配をたつ訓練ができるので、悪くはないのだが。


 いくつかの視線は依然として続いていたが、続々と『リトルガーデン』の人たちが屋上に集まってきて、スタッフ一同まで揃うと、さすがに声をかけられることはなかった。


 スタッフの人たちが屋台などで購入してきてくれたものなどをつまみながら、俺たちは綺麗な星々を眺めていた。

 その時だった。一つの線があがっていく。

 そして、大きな音とともに夜空に花が咲いた。


 その美しい光景に皆の息をのむ声が聞こえた。

 俺もまた、その光景に思わず頬が緩んだ。

 花火の美しさはもちろんだが……今までとは色々と変わっていた。

 いつもは麻耶と一緒に花火を見るくらいだったし、麻耶が友達と見にいくのであれば俺は特に見にいくことはなかった。


 だが、今は周りにこれだけの人がいる。……まさか、自分がこれほど多くの人と関わることになるなんて思ってもいなかった。


「ダーリン、今年も一緒に見られたね」


 玲奈がにこーっと笑ってこちらを見てくる。

 ……そういえば、去年は家に押し掛けてきたな。


「そういえばそうだったな」

「なんかダーリン、物思いにふけってる感じ?」

「去年の夏から、こんなふうに色々変わるとは思ってなかったからな」


 まさか俺まで配信活動をすることになるとは思っていなかった。


「あたし来年は大学生かー」

「おまえ、受験勉強は大丈夫なのか?」

「ダーリンなら知ってるでしょ? 身体強化って便利なんだよ?」

「……まあな」


 玲奈もまあ、問題はないだろうな。


「……羨ましい。私、そこまで使いこなせてない」

「……身体強化を勉強に使うのってちょっとずるいですよね」

「でも、禁止されてないからねー。皆も覚えて効率よく勉強するといいよ」


 玲奈の言う通りだ。利用できるものは違法じゃない限り使うに限る。

 そんなことを話していると、玲奈がちらとこちらを見てくる。


「あっ、でもあたしは大学に行くんじゃなくてダーリンの妻っていうのも選択肢にはあるんだよね。ダーリンはどっちがいい?」

「その選択肢を用意した覚えはない。自由にしてくれ」

「じゃあ、とりあえず大学にいこっかなー。シバシバとかミヤミヤも大学生活は楽しいって話してたし」

「そうなんだな」


 そんな話をしていると、再び花火が上がっていく。

 皆でその様子を眺めながら、俺は小さく息を吐いた。

 来年も同じように皆で笑いながら見られればいいな。




―――――――――――

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