第138話



 ショッピングセンターでの水着選びは、滞りなく終わった。

 俺と流花は少し疲れた体を休めるため、静かな場所に移動していた。

 買い物自体は午前中に終わっていたが、そのまま帰ってもということで昼を食べ、いくつかの店をウィンドウショッピングしていたからだ。

 今はもうすべて終わり、俺は空間魔法を使い、流花の家付近に繋げる準備をしていたのだが、


「無事、選び終わったな」

 

 魔法を準備しながら声をかけると、流花は小さく頷いた。


「うん……あとはイベントまでに痩せないと」

「十分痩せてないか?」


 麻耶もそうだが、女性は時々痩せているのになぜかさらにダイエットを行おうとするときがある。

 あれは一体何なのだろうか?

 多少の気遣いを込めて尋ねると、彼女は微笑みながら答えた。


「……それでも、ちょっとでもお腹が出たらそれは恥ずかしいから」


 まあ男でももちろんぽっこりお腹を恥ずかしいと思うのだが、今日の流花の水着姿を思い出してみても、そのぽっこり感はなかったと思うが。


「迅さん。……もしかして思い出してない?」


 恥ずかしそうにしながらもじっとこちらを覗いてくる。

 どうやら俺の表情から、試着しているときのことを思い出していると判断したらしい。

 いい洞察力だ。


「まあ、そうだな。別に太ってなかったと思ってな……とにかく、無理すんなよ? 夏なんだし、ちゃんと食っておかないと倒れるからな」

「うん……今日は付き合ってくれてありがとう」


 イベント前にぶっ倒れでもしたら、それが一番皆にとって悲しい出来事になるだろう。

 「リトルガーデン」の子はもちろん、ファンたちもそんな姿は見たくないだろう。


「いや、俺も水着を買えたし、楽しかったからな」

「た、楽しかった?」

「ああ。流花は人を楽しませる才能があるよな。さすが、大人気配信者だ」


 ぐっと親指を立てると、流花は照れくさそうに頬をかいていた。

 そして、静かな空間の中で、俺は魔法の準備をしていると、流花が俺の手を控えめにつかんできた。


「流花?」

「……私も……その、楽しかった。また今度……一緒に、その二人で出かけたい……から、また誘ってもいい?」

「ああ、別にいつでも呼び出してくれ。だいたい暇してるからな……あっ、でも麻耶の配信がある時間は勘弁な」

「うん、分かった」


 流花はくすりと笑って頷いた。

 俺の使用した空間魔法を見て、流花は立ち上がりそちらに進んだ。

 黒い穴へと入る間際、流花はこちらをちらと見てから控えめに微笑み手を振ってきたので、同じように返してから魔法を閉じた。

 さて、俺も家に帰るとするか。




 今回、「リトルガーデン」は海を貸し切り状態で使えるらしい。

 一体いくら使ったのか……というわけではなく、今回の一件は協会から『リトルガーデン』に対して依頼が出されていた。


 それは、海近くにある迷宮の攻略依頼だ。

 今月に入ってから迷宮が成長を始めたらしく、ぼちぼち攻略したほうがいいかもしれないということになった。

 そのため現在、この迷宮と浜辺付近は万が一の可能性があるため立ち入り禁止とされているのだが、今回『リトルガーデン』で攻略するために自由に使用しても良い、ということになった。


 というわけで、迷宮攻略に一日、念のため予備日として明日までを『リトルガーデン』は無償で貸し出し状態で使えるというわけだ。


 その迷宮攻略に関してだが、俺と玲奈で行うことになっている。

 もちろん俺は了承した。麻耶の水着姿を拝めるわけだからな。


 麻耶は海やプールは嫌いなため、俺としては麻耶の水着姿を拝めるときが少ないのだ。

 ただ、事務所のイベントとなれば話は別だ。

 あまり乗り気ではないようだったが、麻耶もこれを拒否するということはなかった。


 そういうわけで、俺と玲奈はさくっと迷宮を攻略し、それから今日と明日は貸し切り状態で使わせてもらえる状態、というわけだ。


 生配信は明日になる。

 現在配信のための設営などは事務所の人たちが行っているが、どこか皆の空気は和やかだ。


 俺も裏方よりではあるが、俺の仕事は迷宮攻略。すでにそれは完了しているので、俺のやることはもうない。

 事務所に所属する他の配信者の人たちと一緒で、今日は自由にしていていいそうだ。

 夜には近隣で祭りも開かれるようで、非常に楽しみだ。


 そして現在。

 俺はパラソルの下でイルカの浮き輪に空気を入れていた。これは麻耶のためのものだ。

 さらに溺れないよう、いくつかの浮き輪を準備してあるので麻耶もきっと大丈夫だろう。


 それらの準備をしていたが、まだ女性陣が来る様子はない。

 女性陣は着替えの関係もあって結構時間がかかるんだろう。

 そんなことを考えながら、膨らませたビーチボールを指に乗せて回して遊んでいると、


「あっ、お、お兄さんですか!?」


 声をかけられた。事務所に所属している子だ。

 ……普段俺が関わっている子以外にも、実は結構所属している子がいる。

 麻耶たち含め、全部で三十人くらいいるのだから……むしろ俺が関わっている子たちのほうが人数的には少ないだろう。


「初めまして……私はとして活動させてもらっています」

「は、配信みました! お兄さんに憧れて、私も応募したんです!」

「こ、今度新しくデビューするんです」

「ああ、そうなの? 頑張ってな」

「「「は、はい……っ」」」


 キラキラとした目を向けられる。



―――――――――――

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