第137話



 ショッピングセンター内は、エアコンがかなり効いているようで非常に涼しかった。外との差もあるからか余計にそう感じるな。

 店内はファッションブランド、アクセサリーショップ、化粧品コーナーなど、様々な店が続いている。流花の興味を引くものがたくさんあるようだった。

 ただまあ今回の目的は決まっている。

 いくつかの店の前を通ると、水着をずらりと並べている服飾店が多い。


 流花はその光景にどこか楽しそうにしているが、俺は圧倒されてしまった。

 ……水着って、多いな、と。

 基本的なものがあり、それの色違いの中から一つを選ぶくらいのものだと考えていたので、これはさすがに想定外だ。

 試着も可能なようで……これはまあ、かなり時間かかるな。


「それじゃあ、早速見ていこう」

「ああ、そうだな……」


 俺は早速流花とともに店へと入る。ここは女性物の専門店のようで、周りにいる人たちもだいたい女性だ。男女で買い物に来ている人もいるのだが、やはり男性はどこか彼女と思われる人に付き合ってきているという感覚のようだ。

 まあ、簡単に言えば、カップルが多いな。


「……迅さん、も、もしかしたら私たち今カップルとか思われているかもしれないけど、その……ど、どう?」


 俺がぼーっと周囲に眺めていると、流花がそんなことを言ってきた。

 俺も周りから認識されていればそんな風に思われるのかもしれない、と思っていたが……まあ、今は完全に気配を消しているからな。

 万が一流花がバレたとしても、俺だけは逃げきれる自信がある程度には気配を消している。


「まあそれならそのほうが誤解されなくていいよな」

「え!? ど、どういうこと!?」

「ほら、俺一人だとなんでここにいるの? とか思われるだろ? 流花の買い物に付き合ってる、のほうがいいだろ?」

「……そういう理由。じゃあ、今は……私と付き合っている……そ、その彼氏、としてちゃんと私の水着を選んで、ね」

「あー、了解了解」


 流花は顔を真っ赤にしながらそう言っていた。

 俺は適当に返事をしつつ、水着を見ていく。

 本当に色々なものがあるのだが、その中で流花は一つの水着を手に取った。

 ビキニタイプのものだ。


「やっぱり、ビキニが無難……?」

「まあ、そうだな」


 たぶん、多くの子がこれにするのではないだろうか? 他にも様々な種類はあるのだが、流花はその中から水色のものとオレンジ色のものを手に取る。

 どちらも、可愛らしく小さなリボンがついてある。


「迅さん、ちょっと試着してくる」

「おう、いってらー」

「迅さん……?」


 もちろんついていきますとも。

 流花とともに試着室へと向かい、邪魔にならないよう隅のほうで壁に背中を預けしばらく待つと、カーテンが開かれた。


「ど、どう……?」


 彼女は水色の水着を身にまとい、少し照れくさい表情を浮かべていた。華奢な肩から見える肌が涼しげだ。

 まあ、店内で着るとなるとエアコンの影響もあって少し寒いか?

 なんてことを考えながら、冷静に彼女をじっと見る。


「似合ってるな……ていうか、やっぱり素材がいいからだいたい何着ても似合うよな」

「……素材って水着の?」

「いやいや流花のほうだっての。もっと自信持てって」


 別に男性である俺の意見をわざわざ聞かなくても、流花はだいたいどれを着ても似合う。

 これが容姿の整っている人のずるいところだよな……。

 同じものを着ても、容姿で変わるんだからな……。


「……っ」


 流花は顔だけでなく全身を赤くしながらカーテンをばっとしめた。


「流花?」

「つ、次着るから、ちょっと待ってて」


 ……だそうだ。

 流花の水着選び、時間自体はそれほどかからなそうだな。

 色々な水着があるとはいえ、あとは値段と流花の好みで選べば問題ないだろう。


 そんなことを考えながら、俺は再びカーテンが開かれるのを待った。






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