第136話




「ヴァレリアンがそれだけお兄様を重要視していれば、ありえない話ではないと思うわ」


 ……どうだろうな。

 俺のスカウトのためにヴァレリアンが来る、という可能性は……恐らく内部事情を知らない人からすればそう見えるかもしれない。


 だが、俺としては疑問符が浮かぶ。それは、ジェンスたちとの別れ方があんなものだったからだ。

 向こうが先に仕掛けてきたとはいえ、俺と【スターブレイド】の関係はとてもではないが良好的なものではない。

 例えば、あと少しで俺をスカウトできそう……というのであれば、最後のダメ押しでリーダーが直接話をしにくる、というのは考えられないことではない。


 だが、明らかに俺と【スターブレイド】は喧嘩別れをしている。

 ……俺が仮に【スターブレイド】のリーダーならば、ここで日本へ渡航する理由は――もみ消し。


 ジェンスたちの洗脳魔法は表には上がってこないような代物だ。

 そして、俺はそれを知ってしまった。その秘匿されていた情報を持つ人間を、生かしておくだろうか?

 

 答えはノーだ。

 始末、あるいは捕らえるか……だ。

 ……手段を選ばない可能性もあるな。

 向こうが麻耶を人質にしようとしたように他の誰かを狙う可能性もある。

 ……あまり、ふざけた真似をするようなら――


「お、お兄様?」

「なんだ?」

「怒ってらっしゃる……?」

「……まあ、少しな。【スターブレイド】のスカウトのやり方はあまり好きなやり方じゃなかったからな」


 正確に言えば、ジェンスはアメリカの冒険者協会にも所属しているという話だったから、そっちが本命か。


「まあ……その、私にできることがあればなんでも言ってちょうだい! それこそ、タクシー替わりに呼んでくれてもいいわ!」

「……まあ、それはありがたいがあまり毎回のように使ってもな。シバシバの時間もあるだろ?」

「そんなこと気にしなくていいのよ! むしろこき使われることに快感さえ覚えているわ! お兄様に私の時間を浸食されている! そう思うだけで興奮が止まらないわ!」

「それ聞いたら絶対タクシー替わりにだけは使う気が起きなくなったな」

「その冷たさが私の心に突き刺さるぅ!」


 どうすりゃいいんだこの子は……。そんなこんなで、少しの休憩のあと、俺たちはまた戦闘を開始した。




 今日は流花と水着を買いに行く日だ。俺もまだ準備していなかったので、ついでに一緒に購入する予定だ。

 駅近くにあるショッピングモールで水着を見て回る、ということで俺たちは駅前の集合となっていた。


 それにしても……暑いな。本格的に夏を迎えた、という感じだ。

 暑い夏の日差しが街を照りつけ、その熱が建物やアスファルトに吸収され、さらにそこから熱を発しているんだろう。

 時々吹き抜ける風が、温風を届けてくれる。空気がじりじりと燃えているような感じだ。


 集合場所につくと、流花は何やらそわそわした様子で周囲を眺めていた。

 夏らしい服装だ。ただ、上には俺が渡した隠密用の上着を羽織っていたが、それを合わせてうまくおしゃれをしている。

 ……周囲の人に気づかれている様子はないな。元々流花は隠密行動が得意なようで、気配を消すのが特に上手だ。その技術だけでいえばSランク冒険者に並ぶほどだ。


 俺だって、油断すれば見失いそうになる。魔力までは消しきれていないので、魔力を含めて探知しているわけだ。

 麻耶の周りの子が順調に成長しているのは喜ばしい。

 それだけ、麻耶の安全が確保されるってわけだからな!

 俺は流花に近づき、声をかけた。


「流花、おはよう」

「……あっ、おはよう、迅さん」


 こちらの声に気づいた彼女は笑顔を浮かべた。

 なぜか彼女は少し頬を染めている。

 体調が悪い……とかではなさそうだが、まあ、いいか。


「今来たのか? 俺時間ちょうどに来ちゃったけど……もしかして待ったか?」

「ううん……大丈夫。そんなに待ってないから」


 ……待ってない、というわりには汗をかいているように見えるが。

 まあ、あまり突っ込んでも仕方ないか。


「とりあえず、店に行くか」

「うん」


 流花はこくりと小さく頷き、俺たちは並んで歩く。そしてそのまま目的地に向かって歩き出した。


「水着買うって話だけど、何か検討はついたのか?」

「ううん……ていうか、迅さん。もしかして凛音とかに聞いた?」


 少し頬を膨らましてこちらをじっと見てくる流花。

 子どもらしく頬を膨らませる彼女だが、どうやら聞かないほうが良かったようだ。

 

「俺に他人の水着を選ぶセンスとかないからな。事前に皆に聞いておいたほうが参考になると思ったんだけど、流花も先に相談とかしてたよな」

「……そうじゃないんだけど。とにかく、私は……その、お兄さんと一緒に出掛けたかったというか……その、一緒に選んでもらえたらと思って誘ったから。お兄さんが見て、似合いそうだと思ったものを教えてくれればそれでいいから」

「そうか? まあ、それでいいなら」


 果たしてそれでうまく行くのだろうか、という疑問はある。

 俺たちは水着を買うため、街の中心ともいえるショッピングセンターに到着した。


「ふう……涼しい」

「……だな。帰りはシバシバの空間魔法で帰ろうぜ」

「……うん」

「ていうか、最初からここに集合すればよかったんじゃないか?」

「……そ、それはその……待ち合わせして、一緒に目的地に向かいたかった」


 むっと流花は何やらこちらを見てくるが、その感情の変化は良く分からない。



―――――――――――

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