第135話


『私も……まだ考え中ですので』

『そうか』

『アドバイスというか……純粋にダーリンが流花を見てぺろぺろしたくなるようなものを教えてあげればいいんじゃない?』

『……本当にしたら通報しますけどね』

『ダーリンの趣味嗜好をぶつければいいんだよ! 流花ちゃんなら何でもつけてくれるはず!』


 あいつらは俺をなんだと思っているんだ?

 結局、二人のアドバイスはあまり参考にならないな。

 メッセージのやり取りはそれで終わってしまい、俺は夕食の時間になったので一階へ向かう。


「あれ、どうしたのお兄ちゃん?」

「おー、麻耶。それがな、流花から水着を買いに行くのについていってほしいって言われてな。ほら、今度『リトルガーデン』で海にいくだろ? その関係でだ」

「あっ、そうだね。一緒に買いに行くんだ? お兄ちゃんが誘ったの?」

「いや流花からだ」

「だよね。それでお兄ちゃんは何を考えてたの?」

「いやー、ぶっちゃけ水着ってどれでもいいと思っちゃってるからな。流花に相談されても俺には何もできん! と思って凛音と玲奈にも聞いてみたんだが、ご自由に、みたいな感じでな。麻耶、どうすればいいんだお兄ちゃんは?」

 

 まるで門外漢だからな。

 俺が麻耶に相談してみると、麻耶はじろーっとこちらを見てきた。


「あー……なるほど。……お兄ちゃんそれね、流花さんはお兄ちゃんに相談したんじゃなくて一緒に出掛ける口実がほしいの。なぜかわかりますか、鈍感お兄ちゃん?」


 ……麻耶が珍しく説教モードになっている。

 俺はじっと考えてみる。 


 流花の目的は水着以外にある……?

 一緒に出掛ける……俺を外に連れ出すのが目的……つまり――


「――俺への奇襲か?」

「今お兄ちゃん、冒険者として脳をフル回転させた?」

「……答えは?」

「それはダメだよ。流花さんが直接伝えることだからね」

「なんだか麻耶冷たくない?」

「たまにはつーんとするときもあるのです。はい、夕食食べよう」


 結局理由は分からない。

 まあ、あとはなるようになるだろう。

 流花だってノープランではないだろうし、彼女が指定した中から適当なものを選べばいいか。






 シバシバのもとへいつものように魔力を頂きにきたついでに稽古をつけていた。

 稽古、というよりはシバシバの攻撃を俺が捌いていくという感じだ。

 シバシバの刀捌きは、かなりのものだ。そこに身体強化と空間魔法も交えての攻撃……。

 シバシバは「私はSランク冒険者の中でも弱いほう……」と話していたが、この変則的な攻撃は非常に厄介だ。

 ただ、シバシバはどうにも刀への魔力伝達が苦手なようだ。


 だから、刀の斬れ味をあげることがそこまでできないため、武器の性能に頼り切りになる。……確かにこの前のように高ランクで堅い装甲を持つような魔物が相手となると苦戦してしまうだろう。

 それに、シバシバはどちらかというと対人戦のほうが得意だよな。


 背後の空間が開き、シバシバの刀が迫ってきたが、それをかわしながらシバシバへと突っ込む。

 シバシバは身体強化を引き上げ、俺の拳に刀を合わせる。

 拳と刀がぶつかる。まるで金属同士がぶつかったかのような音が響いた後、シバシバが吹き飛んだ。


 すぐに立ち上がった彼女の眼前に立つと、シバシバは肩の力を抜いて刀をさげた。


「も、もう無理。さすがに限界だわ」

「んじゃ一回休憩にするか」


 そういうとシバシバが空間魔法を使い、ペットボトルをもってきてくれる。

 こちらに一つ差し出してくれ、俺はそれを口に運ぶ。

 ちょうど話したいこともあったので、そこで話を聞く。


「シバシバは水着とか着るのか?」

「突然どうされたのお兄様?」

「いや、今度うちの事務所で水着を着るようなイベントがあるんだけど……知っているか?」

「あー、そういえば先日のお兄様の配信でそんな告知してたわね。お兄様の水着はどうなの? 見られるの? 裸とか見られるの? お兄様の腹筋とか乳首とか!」

「……おまえ、怖いんだけど」

「ファンクラブの一人として、このくらいを期待するのは当然なの。お兄様、我慢して。それで、お兄様はどうなの?」


 抑えるべきなのは俺なのか?


「まあ、上を羽織りはするけど俺も水着で参加する予定だ」

「んはああああ!」

「急に叫ぶな。どうした」

「ごめんなさい……興奮した熱で暴走してしまったわ」


 ……シバシバが怖い。

 俺はそんなことを考えながら、シバシバを見る。彼女は胸元を押さえて息を整えている。

 そして、少しすると落ち着いたようなので、話を戻す。


「まあ、そういうわけだな。うちの事務所の人たちがどんな水着にするか迷っているんだけど、それじゃあシバシバは俺にどんな水着を着てほしい?」

「別に気にする必要はないと思うわ。推しの水着姿なら別に何でも。私は推しの肌の露出が増えるだけで勝手に興奮できるから、それだけでいいわ」


 ぐっと親指を立てる。

 それはある意味貴重な意見かもしれない。

 きっと流花のファンたちも似たようなものではないだろうか?

 最後は流花が着たいものを選んだとき、その背中を押せばいいのではないだろうか。


「なるほどな。だいたい分かった。ありがとなシバシバ」

「気にしなくていいわ……そういえば、お兄様。ちょっと気になる話があるのだけど、いいかしら?」

「なんだ?」

「お兄様は以前【スターブレイド】のスカウトを断った、と話していたでしょう?」

「そうだな」


 生配信を見て、シバシバは知ったのだろう。

 彼女も俺がアメリカに行くかもしれないと心配していたのかもしれないが、まだシバシバの表情は険しい。


「【スターブレイド】の人たちって、まだ日本に残っているらしいのよね」

「そうなのか? まあでも観光でもしているんじゃないか?」

「……いえ、それが、私アメリカのギルドに友人がいるのだけど、なんでも最近【スターブレイド】のリーダーが色々と仕事を断っているらしくて……何か時間を作っているようなの」

「……それで?」

「私も少し調べてみたのだけど、【スターブレイド】のリーダー……ヴァレリアンが直接お兄様のスカウトに来る、可能性もあるのではないかと思ったのよ」

「……ありえるのか、そんなこと?」


 この問いかけはシバシバに対してというよりも自分自身に対してだ。





―――――――――――

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