第134話


「そういうわけで、水着について悩んでいる」


 流花に戦闘している様子を見てほしいと言われ、彼女の訓練に付き合っていた俺は、帰り際にそう言われた。

 流花は色々と考えるところがあるのだろう。

 だが、その悩みは俺にはよくわからない。

 女性用の水着なんて、男である俺が知る由もないからな。


「ああ、今度のビーチバレー大会とかいうやつの関係か?」

「そう。どんな水着にしようかと思っていた……」


 流花は、腕を組んで真剣な顔で悩み始めた。

 しかし、水着か。

 そんなもん適当に選べばいいと思うんだが、そういうわけにはいかないのだろうか?

 流花は男性ファンが結構いるという話だから、ここでファンサービス、みたいな感覚もあるのかもしれない。


「ファンに聞いてみるとか?」

「前に聞いたら常識的に考えておかしいものとかも出たから却下」

「常識的におかしいもの……ってどんなものだ?」

「え、えっち……っ」

「なぜ」

「……ひ、紐とか……そ、そういうのだったから……っ」


 流花が顔を赤くして俯きがちに睨んでくる。

 こんなところを警察にでも見つかったら俺が捕まりそうである。

 俺は咳払いをして、考えてみる。

 どうしたものかな。

 

「……迅さんも、そういうのが、いいの?」

「いや、俺は別に……水着とかとくに考えたことないしな」

「考えたことない?」

「ああ、だから、流花が着たいものでいいんじゃないか?」

「うん……そこで、一つ提案なんだけど……」

「なんだ?」

「男性代表としての意見が欲しい。一応視聴者の目もあるから……だから、一緒に買いに行ってほしい」

「俺の意見? アテになると思うか?」

「別に、世間一般の人と違っても……迅さんの意見が聞きたいから」

「あれ、今俺世間一般からズレてるって言われてます?」

「一つの意見として……今度の休日とか一緒に買いに行かない?」

「ああ、別にいいぞ?」

「ほ、ほんと!? そ、それじゃあ約束! 次の土曜日に一緒にそので…………一緒に買い物行こう」

「分かった分かった」


 ぱっと表情を明るくし、子どものように興奮した様子を見せる流花。

 ……流花は他の子たちに比べると落ち着いているが、それでも買い物とかが好きなのだろうか? まるで子どものように大喜びだ。

 俺としてもまったく何も用事がないわけではないが、迷宮に入るくらいだったのでそれはいつでも可能だ。

 子どもの悩みを聞き、解決、あるいは自分なりの答えを出させるというのも大人としての仕事だろう。

 だから、流花の協力には惜しまないつもりだ。


 流花とはそこで別れ、俺は自分の家に戻る。

 そしてベッドの上に寝転がりながら、ふぅーと息を吐く。

 水着か……。

 女性用の水着とかあまり考えたことがなかった。


 というのもあまり海やプールに行く機会がないからだ。

 暑いし、人多いしなぁ……。そもそも麻耶が泳ぐの苦手だからな。

 そんな俺が、流花の水着選びを手伝うというのは何とも選出ミスの気がする。

 それにしても、流花のやつ随分楽しみにしてるみたいだったが、それほどビーチバレー大会が楽しみなのだろうか?


 となれば、流花が着るべきは動きやすいタイプの水着だよな。女性物の水着について軽く調べてみると、スポーツに向いたものなどもあるようだ。

 なるほどな……。でも、あんまり動きやすさを重視すると今度はファンが期待しているものを見せられないのだろうか?

 ……確かに、そうやって色々考えるとなると難しいな。


 というか、これは俺よりもマネージャーとか他の子たちに相談したほうがいいのではないだろうか?

 とりあえず、凛音とか玲奈に聞いてみるか。


『二人はどんな水着を着るんだ?』


 とりあえず、二人宛にグループを作り、メッセージを送ってみる。するとすぐに既読が付いた。

 しかし返信はすぐには来ない。

 そして、少し待った後、


『いきなりどうしたのダーリン? まさかあたしの水着姿が見たいとかそういうことなのかな!? そういうことならこれから着けてダーリンの家に行くね!』

『来なくていい。流花が悩んでいるみたいでな。一緒に買いに行ってほしいと誘われたんだよ』


 相変わらずの玲奈だが、基本無視だ。

 いちいち相手していたらキリがないからな。

 またもや返信まで時間がかかると、今度は凛音からだ。


『ちょっと待ってください! その買い物というのは二人きりで行くんですか!?』

『他には誘ってないからな。俺だけだとよくわからんし、二人も来るか?』

『……にぶちんダーリン』

『……それは、さすがに。流花さん、やりますね』

『何がだ?』


 何やら凛音と玲奈は通じ合っているようだ。

 俺の見えないところでやり取りしているのかもしれない。

 まだ何もアドバイスを頂けていないので、再度聞いてみることにする。


『それで、結局二人はどんな水着にするんだ? 参考程度に教えてくれないか?』

『それは内緒! ビーチバレーのときにお披露目してあげるから待ってて』


 それだとまるで参考にならないのだが……。





―――――――――――

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