第185話

 子どもの頃に見た、ヒーローショーでも見ているかのようだった。

 迅の圧倒的な戦闘を前にして、レイネリアはただただ呆然と眺めていることしかできていなかった。

 ゴルドがあっさりとやられたことで、レイネリアは災害級への信頼が薄れていたため、迅に対して冷たく当たってしまっていた。


 だが、目の前の戦いを見て、レイネリアは自分がどれだけの無礼を働いてしまっていたのかを痛感させられた。

 ブラックブレードマンティス相手に、一歩も怯むことなくむしろ圧倒している姿。

 それはまさしくゴルドとは別物だった。


「……これが、本物の災害級」


 驚きのあまり誰に言うでもない呟きに、武藤が反応した。


「……Sランク冒険者の上のランクも必要だと思っていましたが、災害級の中でもまたランク分けが必要なのかもしれませんね」


 呆然と武藤がそのように呟き、レイネリアも同じ意見だった。


 だが、現在ある測定器では、Sランク相当の力までしか測定できないため、結局正確な力を測る術がないことから災害級とひとまとめにしてしまっていた。


 だが、その災害級の中でも明らかに迅はずば抜けていた。

 世界ランキング一位のルーファウスが戦っている姿を見たことはなかったが、果たして今の迅と比較してどちらが強いのか。

 レイネリアがそんなことを考えた次の瞬間だった。


 ブラックブレードマンティスが咆哮をあげた。

 それからすぐだった。レコール島に散らばっていたブレードマンティスの魔力が動き出し、そして……集まりだしていた。


「……この魔力は――」

「ブレードマンティスたちが動き出しているわ……っ」


 武藤と御子柴が叫ぶと、異常なほどの魔力が動き出す。

 それらは数秒の間にブラックブレードマンティスの周囲へと集まっていく。

 まるで、王に仕える兵のように。

 あまりの数に、改めて今回の迷宮爆発の規模を理解させられる。

 絶望的な光景が広がる中、それでもレイネリアは叫んだ。


「皆さん……っ! 戦闘準備をしてください! 鈴田さんがブラックブレードマンティスとの戦いに集中できるよう、せめて我々で露払いだけでもしないと!」


 レイネリアの叫びに集まっていた冒険者たちは武器を手に取る。

 これだけの魔物の前に皆震えはあったが、それでも迅がいるということが背中を押していた。

 

 すぐに援護するため動き出したレイネリアたちだったが、それより早くブレードマンティスたちが動き出す。

 ブラックブレードマンティスの指示に合わせ、迅へと襲い掛かる数多のブレードマンティスたち。


 レイネリアが慌てて走り出そうとした次の瞬間だった。


 ブレードマンティスたちが、迅の周囲で跪いていった。

 正確に言えば、迅が生み出す魔力によって潰されていく。動こうとした魔物たちは悲鳴をあげながらさらなる魔力の圧力に潰されていく。


 何が起きているのか理解できていなかったレイネリアは、困惑したままその光景を眺めていた。


「な、なにが起きているのですか?」

「お兄様が魔力で全員を潰しているんです……っ! ああ、凄いですお兄様っ! 私も潰してほしいですぅぅぅ!」

「…………魔力、のみで」


 レイネリアは驚いていた。シバシバの性癖にではない。

 迅の圧倒的な強さにだ。

 通常、数的不利というのは致命的なものになりかねない。

 だというのに、迅にとってはどれだけの兵が集まったところで障害となることさえないのだ。


「……格が、違いすぎる」

「お兄様……素敵ですぅ……」


 極まった表情で歓喜の声を上げていたシバシバに、驚きと喜びの混ざった複雑そうな笑みを浮かべた武藤が小さく言葉をこぼす。


「……今の彼には、あのブレードマンティスたちは……あの程度、なのですね」

「……そう、みたいですね」


 レイネリアの呟きに、武藤が頷いた。

 ブラックブレードマンティスと向かい合った迅に、もはや何の不安もなかった。


 迅へと攻撃を仕掛けようとしたブラックブレードマンティスが、口から酸を吐き出した。

 しかし、迅はそれを完璧にかわし、逃走しようとしたブラックブレードマンティスを叩き潰した。


 これが、鈴田迅。

 世界ランキング二位にして、災害級と呼ばれる冒険者。

 圧倒的すぎる戦闘に、気づけばレイネリアも魅了されていた。


「……鈴田さん……いえ、お兄様」


 レイネリアはただただその戦闘に見とれ、そして一つのことを考えていた。

 ――お兄様のチャンネルを登録しなければ。



―――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!



新作始めました。よければ読んでください。

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