第184話


 ブラックブレードマンティスが必死に逃げようとしたが、俺は拳を握りしめる。

 ブラックブレードマンティスから息を吸い込むような短い悲鳴が漏れると同時、俺は思いきり腕を振りぬいた。


 吹き飛んだブラックブレードマンティスだが、やはりまだ魔力の反応は消えない。

 崩れた瓦礫に埋もれていたブラックブレードマンティスだが、それらをはねのけるように立ち上がった。


「……貴様」


 ブラックブレードマンティスはそれまで通りの怒りを見せながらも、どこか冷静な様子でこちらを見ていた。

 俺はじっとブラックブレードマンティスを睨みながら、周囲の異変を感じ取る。

 魔物が、集まってきている。


 恐らくは、ブレードマンティスだろうが……そいつらが一斉にこちらへ集まってきているのが分かった。


「シャアアアア!」


 ブラックブレードマンティスが雄たけびをあげた瞬間、俺の周囲を囲むようにしてブレードマンティスたちが現れた。

 ブラックブレードマンティスに比べ、知性はなさそうに見えたが……こいつらはリーダーの言うことを理解し、集まることは出来る様子だ。


 迷宮のボスには魔物を召喚するタイプのもいるが、それとは少し違うようには感じる。

 やはり、ブラックブレードマンティスは特殊なモンスターだ。

 俺を囲むように集まったのは、数多とも思えるほどのブレードマンティスたちで、それがブラックブレードマンティスが冷静だった理由なのかもしれない。


「さっき、俺が一掃していたことはもう忘れたのか?」

「貴様が倒していた部下とこいつらは違う。最初期に生まれた個体だ」

「はあ、なるほどな」


 つまり、一番強化されている精鋭部隊ってことか。

 確かに、さっきのブレードマンティスたちと比べると感じ取れる魔力の圧が違っていた。


「これが、奥の手か?」


 俺を囲んでいるブレードマンティスたちを一瞥しながら問いかけると、ブラックブレードマンティスは笑顔を浮かべた。


「確かに貴様は強い。強いのは認めよう。だが、数は力だ。これだけの数の我らを相手に、果たしてどれだけ持ちこたえられるかな?」


 俺はじっとブレードマンティスたちを観察していると、後方から叫び声が響いた。


「い、一度結界を張りなおします……っ! 鈴田さん、お逃げください!」


 レイネリアからの悲痛めいた叫びが聞こえた。

 見れば、こちらを援護するためだろうか。冒険者が数多く集まっていて、皆が青白い顔で俺を見ていた。


「逃がすわけがないだろう……っ! かかれ!」


 ブラックブレードマンティスがそう叫ぶと、一斉にブレードマンティスたちが動き出す。

 確かに、戦いの基本は数だ。

 冒険者が複数で迷宮攻略を行うのだって、数的有利を取るためだ。


 だがそれはあくまで、実力にあまり差がない場合だ。

 アリがどれほど集まっても、時間稼ぎにさえならない。


 この程度で、止められると思われていたのは――心外だな。




 こちらへと迫ってきたブレードマンティスが両腕を振り上げる。

 それを一瞥した俺は――魔力を放出した。

 この結界内すべてを覆いつくすほどに魔力を放ち、集まっていたブレードマンティスたちを叩き潰す。


「ガアアアア!?」

「シャアアアア!?」


 俺の魔力に押しつぶされていったブレードマンティスたちが必死に抵抗してみせるが、無理に抵抗した奴から先に死んでいく。

 まあ、何もしなくてもそのうちに死ぬのだが。

 一体、また一体と俺の魔力に圧し潰れていく。ブラックブレードマンティスが驚いた様子で後ずさる。


「な、なにが……どうなっている……っ! 我の、精鋭だぞ!?」

「この程度だった、ってことだろ?」


 俺の魔力の中でも、ブラックブレードマンティスだけは動けている。やはりこいつだけは一味違うのだが、奥の手を潰されて完全に動揺している。

 恐怖、失意……そんな感情までも得てしまったのは、魔物として果たして喜ばしいことなのだろうか?

 潰されていくブレードマンティスの間を縫うようにして、俺はブラックブレードマンティスの前に立ち、笑みを向ける。


「これで、終わりか?」

「……ッ」


 ブラックブレードマンティスは一歩、後ろへ下がる。

 完全に、恐怖しているようだ。

 だが、次の瞬間、ブラックブレードマンティスの顔に力がこもる。


「舐めるなぁ!」


 ブラックブレードマンティスが両腕を振り上げると同時だった。

 思いきり口から酸を吐き出した。

 そして――逃走。


 俺から背中を向けて走り出そうとした。

 それらすべてが、スローモーションに見えていた。

 怒りが湧き上がる。

 ……ふざけるなよ。


 感知した魔力に、俺は怒りを覚えながら、ブラックブレードマンティスの頭を掴む。

 そのまま、地面へと叩きつけるとブラックブレードマンティスから悲鳴が漏れた。


「ごば!?」

「急用ができてな。おまえの相手はもうできなさそうだ」

「た、助け――」

「まとめて雑魚を呼んでくれて助かったよ。最後に聞きたいんだが――おまえを生み出した奴と、俺の大切なものを狙うやつは同一人物なのか?」

「……な、なにを言って――」

「知らないのなら、本人から聞くだけだ」


 俺は思い切り力を籠め、そいつの首をもぎ取った。

 迷宮爆発がそれで治まったのを確認した俺は、即座に空間魔法を発動した。



―――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!



新作始めました。よければ読んでください。

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