第95話
冒険者協会本部。
会長は深刻な表情とともに額を押さえていた。
Sランク迷宮の迷宮爆発。
常に議論が行われ、ただ楽観視して先延ばしにされてきた案件だった。
Sランク迷宮は黒竜の迷宮、七呪の迷宮ともに国へ与える恩恵も大きい。
特に七呪の迷宮によって、蒼幻島に多くの冒険者が集まり、そこで得られる素材の数々がに全国の冒険者の武器や、エネルギーとして活用されている。
だからこそ、Sランク迷宮は危険とはいえ、攻略が優先されることは少なかった。
爆発なんてしない。
協会で見張っていれば大丈夫。
政府の多くが、そう楽観視していた。
だが、現実には急成長してしまい、検査時間の合間を縫うようにして爆発が発生してしまった。
これまで、一時間に一回検査していれば異常を検知できたのだが、そのイレギュラーが偶然にも、最悪にもSランク迷宮で起きてしまった。
会長は蒼幻島にある協会支部と連絡を取り合っていた。
『会長……っ! 今すぐに応援を頂けませんか!?』
「……分かっている。国内の五大ギルドのリーダー全員に連絡をしたところだ。準備が終わり次第……向かう予定だ」
ただ、それで足りるのかどうかという問題はあった。
現在会長が呼んでいるのは五大ギルドのリーダーとサブリーダー含めたSランク冒険者たちだ。
日本にいるSランク冒険者は合計十六名。そのうちギルドに所属していない無所属の者が三名。
仮に、全員を呼んだところで、Sランク迷宮の爆発ともなれば戦力としては不安があった。
――ただ、それはただのSランク冒険者たちを集めた場合に限る。
「まだ、鈴田さんには連絡がつかないのかね?」
会長は部下の下原に確認を取るが、下原は耳にスマホを当て、渋い顔で首を横に振る。
「……も、申し訳ありません。呼び出しはするのですが、どうにも繋がらなくて……」
「仕方ない。もう夜中だし眠ってしまっている可能性もある、な」
先日、災害級の力を測定した彼ならばあるいは――。会長の脳裏にはそのような考えが浮かんでいたが、首を横に振る。
そのときだった、部屋の扉が開いた。
「会長! 【ブルーバリア】のリーダー、御子柴さんが到着されました!」
その声に合わせ、美しい黒髪を揺らしながらすたすたと歩く御子柴が部屋へと入室してきた。
そこらのモデル顔負けの美女は、人によっては冷たい印象を抱く表情で歩いていく。
会長の前で足を止めると、彼女はすっと頭を下げた。
「お久しぶりです会長。【ブルーバリア】の精鋭メンバー、十名をこちらに連れてきました。……蒼幻島と島に繋がる道の防衛のため、残りのメンバーは現在そちらへ移動してもらっています」
「ありがとう、御子柴さん。……確認をしたいのだが、御子柴さんの魔力だとどれだけの人を移動させることが可能ですか?」
「……そうですね。短時間の間では百名ほどが限界です。……あまり短時間で連発すると魔力消費が激しく、その後私が戦いに参加できなくなってしまいます。仮に、私が戦闘に参加せず、移動にだけ集中させてもらえるのであれば、もう少し運ぶことはできます。ただ、長距離の移動になると、魔力消費も激しくなりますので……ここから蒼幻島になると、私もそこまで魔力に余裕を持てるわけではありません」
「……やはり、そうか。御子柴さんが戦いに参加できないほうが問題です。各ギルドには十五名ほどの選抜メンバーを用意してくれと伝えてありますが……。それと、協会にいるメンバーを含めれば100名近くになるだろう……それで、蒼幻島をなんとかできれば……ですかね」
「そう、ですね」
御子柴の表情が険しいものとなり、会長もまた唇をぎゅっと結んだ。
蒼幻島の迷宮爆発は過去類を見ないほどに魔物が溢れている。
その状況で、Aランク、Sランク冒険者たちを集めたとはいえ、たかだか100名程度では鎮圧するための規模が足りないことは理解していた。
最悪の場合、蒼幻島と本島を繋ぐ橋を破壊する、というのも会長は考えていた。
蒼幻島にいる人たちは犠牲になるが、本島にいる人間たちは守ることができる。
蒼幻島から避難してくる人たちよりも、本島にいる人たちを確実に守れる状況を作るほうが、より犠牲が減らせる可能性が高いからだ。
「会長! 【雷豪】、【剛力】、【忍】、【炎魔】のギルドリーダーも到着しました!」
ずらりと集まった各ギルドのリーダーたちを見て、会長は微笑を浮かべた。
普段募集をかけてもなかなかすべてのギルドが集まるということはない。
だが、深夜であるにも関わらず、すべてのギルドが即座に集まった。
「ああ、分かった。……それでは、これより蒼幻島の奪還――いや、日本を守るための作戦会議を行う」
現在、この日本にいる最高峰の実力者たちが集まっている。
蒼幻島を魔物たちから奪還し、迷宮爆発を抑えこむ。
それができるとすれば、彼らしかいない。
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