第96話
部屋を見渡していた【剛力】ギルドのリーダーが、何かに気付いたようで口元をゆがめる。
【剛力】ギルド。リーダーを含め、言動や行動に乱暴さや粗雑さが目立つギルドだ。
能力は間違いなく高いのだが、リーダーもどこか喧嘩腰の人間。見た目を含め、ヤンキーという感じだ。
リーダーの剛田丼はSランク冒険者として確かな実力があるのだが、その彼は挑発するように口を開いた。
「おいおい。会長さん、まさか日本最強のお人は呼んでないのか?」
剛田は特殊魔法で肉体改造というものを持っている。それは、肉体を大きく、強固なものへ変化する魔法だ。
ゆえに彼は、自分の肉体での戦闘に自信があり、同じようなタイプの鈴田を敵視しているのだろう。名前も似ているし。
「鈴田さんのことですか? 連絡中になります。ただ、ギルドに所属しているキミたちとは違って、連絡がつかなくてですね……。 夜中ですし
「はっ、本当かねぇ? オレは今も、疑ってるんだぜ? あの映像とか全部作ってんじゃねえかってな。特殊魔法でもないくせに、日本最強? 笑わせんなよ」
その剛田の言葉に反応したのが【雷豪】のリーダー、武藤だ。
「……剛田。今は喧嘩しにきたわけではないよね? 余計なことを言うんじゃない」
「これはこれは【雷豪】さん。鈴田にあっさりやられてあげた武藤さんじゃないか。トップギルドの座は、譲ったほうがいいんじゃないか?」
「……」
剛田の挑発に武藤はじろりと視線を向ける。
だが、それに反応したのは会長だ。
微笑とともに魔力の圧が部屋全体にかかる。
老いたとはいえ、その重圧は剛田を威圧するには十分だった。
「場をかき乱すためだけに来たというのなら、いないほうがマシですよ剛田くん。帰りますか?」
「いやいや、すんませんね会長。こんだけうまい報酬を用意してもらっているんですから帰りませんよ。まあ、オレとしてはもっと報酬もらいたいんですけどねぇ、じゃないと別の国にいっちゃうかもですよ?」
剛田はへらへらと笑っていたが、会長はそれを無視して口を開いた。
「流れだけ、確認します。まず、各ギルド、外にメンバーを連れてきていると思います。御子柴さんの空間魔法で蒼幻島入口付近へと転移し、そこから……各ギルドごとに魔物を討伐して、迷宮を目指していただきます」
「……」
こくり、と全員が頷く。
「……皆さん。できる範囲で、命を助け出してください」
会長はすべてを救え、とは明言しなかった。
だが、その会長の言葉の意図を全員が理解し、それぞれがそれぞれなりの考えとともに表情を浮かべる。
――すべての命を救うことは不可能。
それだけ、危機的状況の中で作戦に挑む。
「それでは、行きましょう。準備を進めてくだ――」
「会長!」
会長が言いかけたときだった。
大声とともに扉が開け放たれた。
皆の視線が扉へと向けられる。そこには、息を切らして入ってきた下原の表情は、それまでの緊迫したものかどこか和らいだ笑顔を浮かべていた。
この状況に似つかわしくない表情の下原に、会長は問いかける。
「どうしたんだ?」
「て、テレビをつけてください!」
「……なんだ?」
疑問を抱きながら会長は会議室に備え付けられていたテレビをつける。
そして――。
『なんということでしょうか!? 突然現れたのはSランク冒険者、鈴田迅さんです! 迅さんが、蒼幻島の魔物たちを一か所におびき寄せ、一掃していっています!』
「「「「……」」」」
会長たちは唖然とした。
そこに映し出された映像は、とてもではないが人間が戦っているものではないと思っていたからだ。
魔物の群れに囲まれながら、迅は戦っていた。
腕を、足を振りぬき、相手の武器を奪って破壊し、頭突き、噛みつき……。
何より、驚きなのは魔法だ。
相手の使用した魔法を即座に再現魔法で跳ね返していた。
ほぼ同時、なんなら相手が魔法を準備している最中に先んじて放っていることもあった。
さらには、魔力によって相手を押しつぶし、引き付け、突き飛ばすような魔法。
もはやそれは、魔法とも言えない。魔力の塊をぶつけることによる、強制的な攻撃。
だが、迅はそれらを巧みに使いこなし、戦場を蹂躙していく。
その正確さと速度はこの前のヴォイド戦で得た技術のはずだが、すでに熟練のように使いこなされている。
周囲から絶え間なく襲い掛かる魔物たちの攻撃を一切受けず、すべてを最適に最速で処理していく。
「な、なんだこれは……っ。なんだよこれはよぉ……っ!」
驚いたような声をあげたのは剛田だった。
それと同時だった。
「……か、彼……前より強くなっていないか?」
一度戦ったことのある【雷豪】ギルドのリーダー武藤は苦笑している。
「さすが……お兄様ですぅぅぅ……っ」
クールビューティーな仮面を崩した御子柴が、興奮した様子で声をあげる。とても人に見せられる顔ではなく、それはそれで会長は驚かされていた。
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