第146話



 ……ヴァレリアンも本気でジェンスを攻撃したわけではないようだ。

 ジェンスから感じられる魔力は弱々しいが確かにある。

 それでも、顔面は陥没しているが……。

 意識を刈り取ったヴァレリアンはジェンスを担ぎ上げ、それからこちらを見てきて、深く頭を下げた。 


「”ジン、どうやらオレの早とちりのようだった。すまない”」

「”いや、別に気にしなくていい。こっちとしてはやっと話の分かる奴が出てきてくれて助かった”」


 万が一ここで完全に敵対したら、今度はアメリカ全体と戦う必要もあるかもしれないからな……。

 そうなったら、麻耶の日常生活にも影響が出そうだったし、ヴァレリアンで片づけられるならそれが一番だ。


「”本当にすまなかった。そう言ってくれるとこちらとしてもありがたい。あとで改めて謝罪と何か謝罪に見合うものをもってこよう。……今は、オレとしても気になることが色々とできてしまってな。まずはアメリカに戻らせてもらう”」

「”そのジェンスってのはヴァレリアンのところのサブリーダーまで勤めてるんだろ? でも、協会にも所属しているのか?”」

「”そうだ。協会から派遣されている冒険者で、オレのところで面倒を見ている感じだ。【スターブレイド】の名前があったほうが動きやすいらしくてな。オレとしてもギルド立ち上げとかで協会に恩義はあったからな……。協力できることはしようと思っていたが……まさか、こんな風に利用されているとはな”」


 じろり、とヴァレリアンはジェンスとその取り巻きたちに視線を向ける。

 彼らが協会所属の冒険者なのだろう。

 砂浜から照り返す日差しにも負けないほどに、顔を青ざめさせて震えている。


「”まあ、こっちは気にしないでくれ。俺としてもそれなりに楽しめたしな”」


 ヴァレリアンのような強者と戦える機会なんて普通に生きていたらまずないだろう。

 そういう意味では、その機会を作ってくれたジェンスにはある意味感謝だ。


「”……楽しめた、か。こちらとしても、久しぶりに死の恐怖を思い出すことができたぜ。それじゃあ、また”」

「”ああ、また”」


 ヴァレリアンは苦笑とともに、ジェンスたちを連れて去っていった。

 とりあえず、これでジェンスとその周りの問題もひとまず去るだろう。

 これでギルドの誘いなども完全になくなってくれればいいんだけどな。


 そう思いながら、視線を背後へ向けると……スマホを構えたままで固まる「リトルガーデン」の人々がいた。


「おう、もう終わったからビーチバレー初めてもいいけど?」


 俺は審判を務めるためにコートへと向かおうとしたが、さっきの戦闘の余波でコートも崩れてしまっている。

 せっかく配信


「……いや、あの……これから、ビーチバレーの配信とか……できると思いますか?」


 困惑している人々を代表するように霧崎さんが声を絞り出す。


「あっ、そういえば今配信してるんでしたっけ……?」

「……はい……ばっちりと、すべて」


 霧崎さんの言葉を思い出した俺は、スマホで配信画面を見てみると。


〈お兄さん世界ランキング二位のヴァレリアンを圧倒しやがった!?〉

〈いや、強いとは思ってたけど日本レベルの話じゃねぇのかよwww〉

〈なんだよ……これ、意味わかんねぇよ〉

〈ヴァレリアンも本気だったよな? 〉

〈やばすぎるwwwwww〉

〈お兄様ぁっ! あなたが至高ですわ!〉

〈お兄様お兄様お兄様素敵素敵素敵〉

〈もうお兄ちゃんが世界一でいいだろこれ!〉


 ……滅茶苦茶、盛り上がっていた。






 ……『リトルガーデン』の合同配信は、大成功に終わった。

 同時接続数がかなりのものだったらしく、それはもう歴史に残る偉業だったそうだ。

 ――まあ、ビーチバレーボール大会ではなく、俺VSヴァレリアンのほうで注目されたんだけど。


 とりあえずビーチバレーボール大会に関しては、もうあの空気ではやれないということで皆でのんびりと雑談しながら浜辺や海で遊ぶという配信をして終了。

 そして、その日の夜。


 何やら凄いことになっているということで俺たちは借りていたホテルに戻り、テレビをつけた。


 ……どこのチャンネルに回しても、ニュース番組では俺とヴァレリアンの戦闘に関してのものばかり流れていた。

 海外でも似たような感じで報道されているらしく、海外の道行く人にインタビューをする番組もある。


『配信見てたよ。僕はお兄様の大ファンだからね。凄かったね、ヴァレリアンを圧倒するのは爽快だったよ』


 と語る外国人男性はもちろん。


『改めてお兄様の大ファンになりました! 今度日本へ旅行に行くときに会いたいです……っ! なにかイベントとかやってくれないんですかね!?』


 と語る外国人女性たち。


「お兄ちゃん。もうずっとTwotterとかで話題になってるよ?」

「……迅さん、ニュースでも凄いことなっちゃってる」

「海外の人たちが特に凄いですね……」

「まあ、ヴァレリアンって実質世界ナンバーワンの冒険者だしねー。妻として鼻が高いよ!」


 麻耶、流花、凛音、玲奈たちの言葉を受け、俺はニュースなどの情報を眺めていった。

 ……どうやら、俺とヴァレリアンが戦闘を開始してすぐに、テレビなどで速報が流れてしまったらしい。


 さすがにテレビ局も近くに人がいたわけではないため、ちょうど戦闘の映像を映していた『リトルガーデン』の公式チャンネルに人が集まってきたというわけだ。

 ちょうど、俺について話をしているニュース番組が始まった。


『いやぁ……凄い戦いですねこれ』

『私、何度も見てしまいましたよ……っ! 元々お兄様のファンなんですけど、今回に関してはもう本当凄すぎて言葉がでません!』


 ……テレビに映っていたコメンテーターの女性は、それはもう興奮した様子で語っていく。

 あっ、シバシバと同じ雰囲気を感じるぞ。

 その女性の反応に司会の人はやや押され気味になって頬をひきつらせていた。


『そうですねぇ。実は僕、名前は聞いていましたが初めてみたんですよ。いや、凄いですね……なんですかあの圧倒的な感じは』

『お兄様の配信はいつもあんな感じなんですよ!』


 ニュース番組ではそんな感じの話をしている

 興奮した様子で話す人はそれなりに俺のことを知っているようで、「お兄様、お兄様」と叫んでいる。

 なぜこうも俺のファンは過激な人たちばかりなのか……。

 呆れながらテレビを眺めていると、


「ねえ、お兄ちゃん! これ見て!」

「ん? おお?」


 麻耶がバシバシと腕を叩いてスマホの画面を見せてくる。

 皆でその画面をのぞき込むと、


「……世界ランキングの更新が行われました?」

「世界ランキング第二位……鈴田迅って……お兄さんじゃないですか!」


 凛音が驚いたように画面を見る。

 俺も同じような心境であったが、どうやら世界冒険者機構が今回の俺とヴァレリアンの戦いを見て、正式に俺の能力を認めたらしく、ランキングに変更があったそうだ。


 俺が二位になり、ヴァレリアンが三位となり、そのまま下の人たちが一個ずつ下になっていった……という感じだ。


「お兄ちゃん良かったねっ」


 良いことなのかどうかは正直言って疑問が残る。

 だが、麻耶が喜んでるしいっか!


「あとは世界一位か」

「……お、お兄さん、もしかして狙ってます?」

「別にランキングに興味はないけど……戦ってみたい気持ちはあるな」


 ただ、表にほとんど出てこない人だっけか?

 ギルドなどにも所属していないらしいし、まあ会うことは難しいだろう。






―――――――――――

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