第145話




「”まさか、また俺の大切な人たちを傷つけるつもりなのか?”」

「”…………………………また?”」


 迅の声を聞き、ジェンスはまずい、と思った。

 ヴァレリアンを利用するために、ジェンスは自分たちの犯したことはすべて秘匿していた。

 そもそも、洗脳魔法についてヴァレリアンも知らないことだ。それを利用し、これまでスカウトをしてきたことがバレれば、ヴァレリアンが何をするか分かったものではなかった。


 ヴァレリアンはそういったことをとにかく嫌う人間だからだ。

 だから、アメリカの冒険者協会はこのことを隠し続けてきた。


 ヴァレリアンが疑念を持たないよう、どうにか言い返すつもりだったが、ジェンスたちは魔力に押しつぶされていて、動けずにいた。

 迅はぴくりとヴァレリアンの問いかけに反応するように、視線を向けた。


「”【スターブレイド】のリーダーなのに、何も知らないのか?”」

「”……オレは、ジェンスたちから話を聞いただけだ。スカウトしたらいきなり、ジンに襲われた。という報告を受けた。……こちらとしても、ギルドとして面子がある。好き勝手やったやつを許すわけには、いかない”」

「”やっぱ、そういうことか”」

「”やっぱ?”」

「”いやー、なんとなくそんな気がしてな。せっかく強い奴と戦えるし、黙っていたほうが面白いと思ってな”」

「”おいこら……っ! 気づいていたのなら先に言いやがれ!”」


 ヴァレリアンが声をあげるとよろよろと立ち上がる。

 迅はそちらに対しては笑顔を返していたが、ジェンスの前まで歩くとその人懐こい笑顔が消えた。

 ジェンスは唇をぎゅっと結び、顔を青ざめる。


 迅の放つ絶対零度の視線、何を考えているのか分からないその表情にジェンスの体は震えだす。

 それでも、このまま黙っていては命の危機であることは理解し、ジェンスは必死に声を張り上げた。


「な、何か誤解があったようです! 私は、きちんと事情を伝えました!」


 ヴァレリアンへの嘘を隠すため、まずは迅を説得する必要があると考えたジェンスは迅を見ながら日本語で叫ぶ。

 しかし、迅は聞く耳を持たず、冷たく英語で返した。


「”じゃあ、あんたは自分のところのリーダーが嘘を吐いているって言いたいのか? 英語でちゃんと、大きな声で言ってみろ、ほれ”」

「そ、それは――」


 言えるはずがない。

 ジェンスは喉をひくっと鳴らしながら、日本語を再び言った瞬間、頭を掴まれた。

 そして、思い切り地面に叩きつけられる。幸い、下は砂浜だ。

 大した痛みはなかった。口の中に砂が入ったがそれを気にしている暇などない。

 攻撃は一度だけではない。二度、三度と地面に叩きつけられていき、回数が増えるたび威力が上がっていく。

 

「”ちゃんと言え。事実はどうなってんだ?”」


 迅がさらに魔力を強め、ジェンスはぎゅっと唇を噛んだ。

 ここで逆らえば、ヴァレリアンではなく迅に殺される。

 圧倒的な殺意に恐怖したジェンスは叫んだ。


「”す、すみませんでした! ヴぁ、ヴァレリアンさんとジンを戦わせて、私に恥をかかせたジンに恥をかかせてやろうと思いました……!”」

「”それだけじゃないだろ? 麻耶に何をしようとした? 俺に何をしていた?”」

「”ま、マヤに……ぶべ!?”」

「”おまえみたいなクズが麻耶の名前を口にすんじゃねぇ!”」

「”あ、あなた様の妹様を、無理やり連れて行こうとしました……! あ、あなた様に、洗脳魔法を使って、洗脳してアメリカに連れ帰ろうとしていました……っ!”」

「”よく言えたな。そういうわけだ、ヴァレリアン”」


 いつの間にか迅の隣に立っていたヴァレリアンがジェンスを見下ろす。

 ジェンスはヴァレリアンを見上げる。

 冷徹な目とともに見下ろしてくるヴァレリアンにジェンスの震えは増した。

 迅の底知れない力に恐怖するのはもちろんだったが、ヴァレリアンの全力を知っているジェンスとしては、ヴァレリアンのほうが恐怖の対象だった。


「”ジン、リリアンの拘束を解除してくれないか? 彼女は回復魔法が使えるんだ”」

「”了解だ”」

「”リリアン。すぐにオレを治療しろ”」

「”き、傷がすさまじくて完全な治療にはかなりの時間がかかってしまいますが――”」

「”構わん。最低限でいい。――この馬鹿を片づけられる程度でな”」


 迅の拘束から解放されたリリアンは震えながらヴァレリアンの治療を行った。

 回復魔法も万能ではない。完全な治療は難しくても、最低限の治療はできたようで――ヴァレリアンの足が振り上げられ、ジェンスの頭を踏みつけた。


「”オレを騙して利用だと? 洗脳魔法はなんだ? そんな魔法を持っているとは聞いていないぞ?”」


 すでにジェンスは隠し通すことは不可能と判断し、ボロボロと涙を流しながら叫ぶ。


「”きょ、協会から……秘匿するように言われていました! 万が一、表に出れば怯えてしまう人もいるかもしれないと――”」

「”スカウトの際にジンに使用したというのはなんだ?”」

「”そ、それは――”」

「”まさか、これまでもスカウトしてきた人たちに使っていたんじゃないだろうな?”」

「”そ、それは……”」

「”ここで嘘をつけば、命がなくなると思えよ? 協会の連中なんざ、オレが国を出ていくと行けばいくらでも言うこと聞かせられるんだからな?”」

「”そ、それは……つ、使っていました! わ、私のスカウト成功率100%の理由がそれです……!”」

「”死ね”」


 やけくそ気味に叫んだジェンスは、ヴァレリアンに頭を踏みつけられた。






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