第8話


〈草〉

〈こいつマヤチャンネルのときもそうだったけどなんか頭のねじ飛んでないか?〉

〈戦闘中だけかと思っていたけど、なんかやばそうなやつだな〉

〈配信ってやっぱり、メディア関係のとかか?〉


 ああ、そうそう。コメント欄を見て思い出したので、話し始める。


「今日配信した理由は、えーと第一にはマヤチャンネルの宣伝をしたかったからで……あー違う? ああはいはい。ついでに言うと、今なんか麻耶のTwotterとか、この事務所にめっちゃいろいろなところから連絡来てるみたいでそれに関連して、配信をすることになったってわけだ」


〈どういうことだ?〉

〈もう少しわかりやすく頼む〉


 このコメントはいいな。

 いろいろとリアルタイムで打ち込んでくれるので、それを見ながら思考を巡らせられる。


「簡単に言うと、俺に関することで色々聞いてくる人たちがいるので、ここではっきりと言っておこうってわけだ」


〈おっ、期待〉

〈連日テレビとかでも報道されまくってるもんな〉


 テレビは見ないが、ニュース記事を調べてみると確かに俺のことはよく話題にされていた。


「とりあえず、色々な依頼が来ているみたいだけど断る! 俺は麻耶の配信を見るのに忙しいからな。今日だって麻耶のところにもメッセージがたくさん来て困っていたから配信してるんだからな。テレビには出ないし、インタビューも受けないし、ギルドに入るつもりもない。以上! これが今日配信した理由なんで……何かあれば答えるけど、何かある? 何もない? んじゃあ打ち切りで」


〈よくねぇよw〉

〈おいこらw〉

〈質問ありまくりだっての!〉

〈どうしてそんなに強いんですか!?〉

〈得意な魔法はなんですか!?〉

〈あの空中を固めていたのってなんなんですか!?〉


「おい、質問多すぎだろ。ていうか、俺に関しての質問かよ。麻耶に関しての質問ないの? おねしょいつまでしてたとか気にならない?」


〈めっちゃ気になる!〉

〈教えろお兄様!〉

マヤチャンネル〈話したら二度と口利かないから〉


「……ご、ごめんよ麻耶。そもそもお兄ちゃんと麻耶の大事な思い出を話すわけないだろ! そういうわけでてめぇら! これは俺の思い出だからな! 誰にも渡さん!」


〈このお兄ちゃんキモいぞ〉

〈警察案件でいいだろこいつ〉

〈マヤちゃんもたいがいブラコンかと思っていたが、兄のほうがやばいんじゃないかこれ?〉


 いや、俺は正常だと思うが。

 きっと、コメントの人は可愛い妹がいないのだろう。


「んで? 質問はあったけど……なんだったっけ? 得意な魔法とか?」


〈そうそう〉

〈何使って黒竜を倒したんですか?〉


「身体強化だ。俺無属性の適正しかないからな」


〈……は?〉

〈へ? じゃあ、空中跳んでたのは?〉

〈解説者さんとか風魔法って言ってたぞ!?〉


 風魔法?

 風魔法ならばもっと自由に飛んでいるだろう。


「いや、無属性魔法で魔力固めて放つやつあるだろ? それを足場にして跳んでるだけだ。それ以外何もできないからな」


〈いや、おかしいだろw〉

〈それで黒竜を一方的に叩きのめしたのかよwww〉

〈やばすぎだろこいつw〉

至宝ルカ〈この人、マヤさんに聞いていた以上にやばいかも〉

〈おいルカきてんじゃねぇか!〉

〈来てるどころかリアルタイムで見てけらけら笑ってるぞ〉

〈おい、お兄ちゃん。ルカさん来てるぞ!〉


「誰?」


〈事務所の先輩だぞ!〉

〈マヤちゃん推しなのに知らないのかよ? 前にコラボしてたぞ!〉

〈Cランク冒険者だぞ!?〉


「いや、すまん。麻耶以外は記憶に残ってないな……確かに何度かコラボしてはいたよな。うん、とってもキュートな方でしたね、先輩さん」


至宝ルカ〈さっきの発言で台無し〉


 ルカという子がコメント欄に現れたとたん、さらにコメントが盛り上がっていく。

 一部俺に対しての過激なコメントもあるが、知らないものは知らないのだから仕方ない。


「とりあえず今はよく知らない人なんで、また今度時間があれば……暇が見つかれば……まあ、その……見られたら見るんで。そのときよろしく」

至宝ルカ〈完全に見ない人のやつ〉

〈草〉

〈お兄ちゃん自由すぎるだろ〉

〈お兄さん……やべーな〉


「ていうか、ちょっと待てよ。おまえら俺のことお兄ちゃんとかお兄さん呼ぶのやめろよ? それ麻耶の特権だからな? どこぞの知らぬ馬の骨ともわからぬやつに呼ばれたくないんだよ」


 さっきからコメント欄では、俺の名前ではなくお兄ちゃんやお兄さんという言葉が飛び交っている。

 俺が注意すると、あおるようにコメントが流れていく。


〈お兄ちゃん〉

〈お兄ちゃん、しゅき〉

〈お兄ちゃんちゅっちゅっ〉


「今のコメントした奴らそれ今親の前で読み上げてこいよな? それでえーと、もう質問もないよな? 何か聞きたいことあるやつまだいるのか?」


〈今日は雑談配信ですか? 戦闘配信はしないんですか?〉


「雑談も戦闘も特に予定ないな」


 そもそも、今回の配信の目的はすでに達成済みだ。

 なので、ぶっちゃけた話もう配信は終わっていいと思うのだが、まだ霧崎さんからは特に指示は出ていない。

 色々とコメントが流れていくのを目で追っていくと、また質問が来ていた。


〈飛んでいる黒竜相手に空中戦をしてましたけど、本当に無属性魔法だけなんですか?〉

「そうだよ。こんな感じ」


 俺はその場で見本を見せるように魔力で足場を固めた。

 これは基本的な無属性魔法の技術だ。本来は相手に放って攻撃するためのものだが、別に放たなくても問題はない。

 ただ、魔力凝固はあまり長時間はもたないので、あまり過信はできないが。


 慣れてくれば軽く空を跳ぶ、ことはできる。ただ、黒竜のように自由に飛び回れるわけではないので、あくまでちょっとした技術程度のものだと思っていたのだが。


〈は?〉

〈やばすぎだろww〉

〈すごすぎない……?〉


 かなり驚かれてしまっているようだ。


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