第7話


 次の日。

 俺は寝坊していた。

 配信自体は二十時からなのだが、打ち合わせを十九時から行うという話だった。

 急いで電車に乗って、到着したのは十九時五十分。


「セーフですか?」

「アウトに決まってるじゃないですか」

「アディショナルタイムとかはない感じですか?」

「あるわけありませんよ……えーと、迅さんは失礼ですが社会人経験はありますか?」

「それって、アルバイトは含みますか?」

「ええ、まあ……一応、含みますね」

「なら、ないですね」

「今の質問意味ありました? ……とにかくです。簡単に打ち合わせしましょう。……とりあえず、顔出しどうしますか? 一応お面をいくつか用意しましたが」

「お面つけたら暑そうなんで、嫌です」

「……じゃあ、顔出しでいきますか。どうせもうあちこちで公開されてますし」


 ……そうなんだよな。

 この前のマヤチャンネルのこともあり、俺のことはかなり話題になっている。

 近所の人にもそれで声をかけられるくらいで、引っ越ししたい気持ちである。


「あとは……進行に関して、困ったことがあれば私が手伝いますのでいつでも頼ってください。一応、マヤチャンネルのほうでも何度かやっていますから」

「ああ、そうなんですね。聞いたことある声だと思ったらマネージャーさんだったんですね。めっちゃいい声ですよね」

「あっ、はい。ありがとうございます」

「麻耶には負けますけどね」

「……あなたにとっては本当に麻耶さんが一番なんですね。……とりあえず、困ったら私に振ってください。何とかしますから」

「わかりました。そんじゃ、ちょっとトイレ行ってきていいですか?」

「時間に間に合わせてくださいね……」


 心配されなくても、大丈夫だ。

 少しトイレに行って、途中にあった自販機で飲み物を購入してから戻る。


「あと一分ですよ!」

「まだ一分あるんですね」

「なんですか! あなただけ時間軸が違うんですか!?」


 霧崎さんに無理やり引っ張られ、椅子に座らせられる。

 結構いい椅子だ。くるくると椅子を回していると、霧崎さんが声を荒らげる。


「始まりますから! 遊ばないでください! 子どもですか!」


 おっと、どうやらもうそんな時間か

 部屋に置かれたカメラに視線を向ける。その奥にはモニターがあり、俺の配信している状況が映し出されている。

 おお、マジで映ってるな。軽く手を振ってみる。 


「カメラばっちし?」

「……すでに確認済みです。挨拶をお願いします」


 霧崎さんがぼそりと言ってくる。

 それと同時に、コメント欄も流れていく。


〈おお、来たか〉

〈マヤのお兄さんじゃん〉

〈いきなりなんだこいつは……〉

〈まるで自宅にいるみたいじゃん……〉

マヤチャンネル〈お兄ちゃん、始まってるよー〉

〈おっ、マヤちゃん来てるじゃん〉

〈いや、他の事務所の人たちも見てるぞ〉

〈ていうか、いきなりで10000人突破してるのやばいだろww〉

〈どんだけ注目集めてんだよw〉

〈あっさり登録者数一万人超えてるじゃねぇかw〉


 流れていくコメントの中に、麻耶の名前を見つけ、俺は歓喜する。


「おお、麻耶! 見てくれてるのか! あとはまあいいや。えーとどうも初めまして。マヤの兄の迅です。マヤチャンネルの一番のファンです。この下のURLをクリックしてくれればマヤチャンネルに行きますので、よろしくお願いしますーって感じで、マネージャーさん。画面の下に出したりできるんですか?」

「……宣伝は後にしてください。自己紹介の次は、今日配信した理由についてです」


 怒られてしまった。

 じろりと見てくる霧崎さんに落ちこむ。




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