第9話

〈このレベルの魔力凝固と身体強化ができるやつっているのか?〉

〈俺は初めてみたぞ……〉

〈ていうか、これもう特殊魔法みたいなもんだろ……〉

〈無属性魔法って誰でも魔力さえあれば使えるよな? 俺も訓練してみようかな〉


 おお、コメント欄にもやる気を出した人がいるな。


「そうそう。訓練すればだれでもできるからな。ただし、訓練するときには常に麻耶を思い浮かべて、チャンネル登録をしてみろ。そうしたら強くなれるからな?」


〈んなわけないだろ〉

〈妹への愛でこんな化け物が生み出されてしまったのか……〉

〈ちゃっかり宣伝すんじゃねぇぞw〉


 ……どうやら、バレてしまったようだ。

 俺は魔法の発動を解除してから席に座りなおす。それからモニターのコメント欄を見る。


「俺の戦闘に関しての質問はそんなところか? あとはもう何もないだろ?」


 さっさと切り上げたいのだが、質問は山のように来る。

 全部を拾うつもりはない。

 適当に、答えやすそうなものに答えていくか。


〈普段ってどんな生活を送ってるんですか?〉

「普段ねぇ。麻耶のアーカイブとか見ながら部屋でゴロゴロしてるな。あっ、あと朝と夕飯は麻耶の手料理だぞ? おまえら、羨ましいだろ?」


〈は? むかつくなこいつ〉

〈むかついてもこいつに何かしようとしてもたぶん俺ら全員束になっても敵わんぞ……〉

〈マジでマヤちゃんの兄とか、どんな星の下で生まれたんだよ〉


 それは本当にそう思う。

 あと何百回生まれ変わっても、恐らくこれほど幸せな立場はないだろう。


〈ていうか、もしかして無職?〉

「無職無職。いや一応冒険者か? たまに迷宮に潜って回収した魔石とかアイテムとかギルドに持って行って売却してそれで生活してるくらいだな」


〈ほとんど引きこもりじゃん……〉

〈たまに回収した奴だけで生活できるってどんなもんなんだよ……〉

〈たぶんだけど、Sランク迷宮の深層クラスの素材だぞ……〉

〈そういえばこいつ、黒竜一方的にボコしてたもんな〉

〈待ってくれ。お兄ちゃんの生活羨ましすぎないか? 基本はマヤチャンネルの配信を見る。マヤちゃんの食事を堪能する。一つ屋根の下。……は?〉

〈うわお兄さんマジむかつくわ〉

〈ずるすぎるわこいつっ〉


 おっと、なぜかコメント欄が荒れ始めていく。

 まあ別に構いはしない。

 好き勝手書けばいいさ。

 嫉妬を楽しんでいると、再び別のコメントが出てきた。


〈普段はどんな迷宮に行ってるんですか?〉


 今度は迷宮の質問ね。


「黒竜の迷宮入ってるよ。黒竜はマブダチみたいなもんだな」

〈マブダチ?〉

〈またよくわからん表現でたな〉

「これまでも何回か戦ってるからな。あれが初見じゃないから、それなりに戦えたってわけだ」


 そう言ったとき、コメント欄だけではなく霧崎さんたちスタッフたちからも驚きの声が漏れた。


〈ファーwww〉

〈初めてじゃなかったんですか!?〉

〈じゃああのとき戦わなくても逃げられたのか?〉


「俺だけならな。転移石使って一階層にワープはできるよ。でもそれだとマイエンジェルはどうなる?」


 迷宮内には転移石というものがある。

 ……これは、その階層を攻略した場合にしか使用できない。

 94階層かあるいは95階層。

 麻耶はそのどちらかを攻略しない限り、1階層に転移することはできないのだ。

 だから、黒竜をぶっ倒した。そのほうが手っ取り早いからな。


〈表現きもい〉

〈天使なのは認めるけどきもいぞ〉

〈確かに、あの状況だと黒竜が邪魔してきてマヤちゃんがけがする可能性はあったよな〉


「そうそう。でも、マヤがあのまま配信してるとは思ってなかったけどな。なんとか逃げ切れましたーって感じでまた1階層から始めようと思ってたのに」


〈それはありえないだろ〉

〈そうそう。普通ありえないからな〉


「別にいいだろ? ていうか、もうそろそろ一時間じゃねぇか。さすがに飽きてきた……じゃなくて疲れてきたしな。そろそろ終わりにしないか?」

〈こいつ本当素直だなw〉

〈まあ、色々あったが、マヤちゃんを助けてくれたんだからな。そこだけは感謝するぞ〉

〈まあ、そうだな。あと、今後も配信しろよ〉

〈戦闘とか攻略配信待ってます!〉

〈登録しました! 絶対攻略配信とかしてください! お願いします!〉


「あー、はいはい。需要があったらな。それと、最後に改めて言うけどおまえら今日の配信の目的は覚えてるな?」


〈テレビ局とかのやつか?〉

〈あー、そういえばそんなこと言ってたな〉


「いやんなことはどうでもいいよ! ちゃんとマヤチャンネルを登録しろって話だよ! んじゃな!」


〈いや、それは違うだろうが〉

〈お疲れ様です。また配信してくださいね!〉

〈絶対見にいきますから!〉

〈次は戦闘とかも見たいです!〉


 それらのコメントが流れていくのを見て、俺は霧崎さんに視線を向ける。

 そこで配信は終わり、モニターの画面も暗くなった。






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