第10話
俺はそのまま放送を終わりにしてもらい、軽く伸びをする。
「いやー、疲れた疲れた。あっ、霧崎さん色々ありがとうございましたー」
「……いや、まあその、私最初くらいしか特に何もしていませんよ。ていうか、自由というか適当といいますか……場の空気を掌握する力を持ってますね、迅さんは」
褒められているのか貶されているのかよく分からないな。
「いつも家だとあんな感じなので。別に目的はちゃんと話しましたし、問題はないですよね?」
「まあ、そうですね。ひとまずは大丈夫だと思います……。それより、登録者数がもう10万人も突破していますよ……おかしいくらい注目浴びていましたよ……同時接続数も十万人近くいましたし……もう、はっきりいって完璧すぎる滑り出しでしたよ」
「ああ、そうなんですね? まあ、それはいいんですよ。マヤチャンネルはどうですか?」
「あっ、そちらもかなり増えていますね。今ではもう五十万人ですから」
「おお! やった!」
俺が小躍りしていると、霧崎さんは苦笑する。
「いやまあ、そちらはいいんですけど……次回の配信についてもできればお願いしたいんですけど……」
「え? あー、そうですね」
面倒くさい、と思ってしまったが……よく考えればこれはチャンスだよな。
麻耶の登録者数にも影響を与えているので、今後も俺が配信すれば……麻耶の伸びも良くなるよな?
……内容次第では、受けてもいいかもしれない。
「どんな感じですか?」
「……来週の土曜日ですね。また二十時から……迷宮での配信というのはどうでしょうか?」
「え? 迷宮ですか?」
「はい。戦闘の要望も多かったので、実際に戦っているところを見ていただこうかと思いまして。戦闘の場面でしたら淡々と戦っていても問題ありませんからね」
「それなら、ひたすら麻耶の魅力について語っていても問題ないということですか?」
「ある意味問題ですが……まあ、いいでしょう」
「それならやります! タイトルは、『マヤの魅力について』でお願いします」
「いやそれ何の配信か分からないので、迷宮配信というのもつけておきますね」
「ああ、はい。そこら辺は自由にやっておいてください。そんじゃ、俺そろそろ家に帰りますね」
「ああ、はい。本日はありがとうございました。また詳しい話に関してはLUINEのほうで連絡しますね」
「了解です」
俺はスタッフさんたちにひらひらと手を振ってから、事務所をあとにした。
次の土曜日。
俺は霧崎さんとともに一つの迷宮へと来ていた。
もちろん、今日も配信をするためだ。
「……あの、迅さん。えーと今日は迷宮の配信をする、という話でしたよね?」
「ええ、そうですよ。あれもしかして霧崎さんボケましたか?」
「いや……あの……ここAランク迷宮なんですが……」
「ランク低かったですか? ならまた黒竜でもぶっ倒しに行きます?」
「あ、アホなこと言わないでください! 普通、迷宮配信っていうのは低ランクの迷宮で行うものなんです! それをAランク迷宮!? 二人で!? 頭おかしいですよ!」
今日は撮影係として霧崎さんが同行してくれることになっていた。
この前の俺と麻耶のような形だ。
ただどうやら霧崎さんはそこを偉く心配しているようだ。
「いや、でも事務所近くで手ごろなのってここじゃないですか?」
「Aランク迷宮に手ごろって言いました!?」
「えー、まあはい。小遣い稼ぎに利用するならいい場所ですよ、Aランク迷宮は。高ランク迷宮の素材を冒険者協会へと持ち込むと、色々言われますからね」
冒険者協会とは国が運営している素材の買い取りなどを行っている施設だ。
……未知の素材や高ランクの魔石を持ち込むと、それはもう鑑定に長い時間を取られるので、黒竜なんかの素材は持ち込まないと決めている。
「……いや、もう……はい。分かりました。……それじゃあ……やっていきましょうか」
そう言って、霧崎さんはこちらにスマホのカメラを向けてきた。
すぐに配信が始まる。
今日はもしもコメントを確認したければ、俺は自分のスマホで見るしかない。
とりあえず、自分の配信を見る。
「よっ、久しぶりだな」
〈久しぶりだ、お兄ちゃん〉
〈俺は待ってたぞこのときを!〉
〈おまえの迷宮配信楽しみにしてたんだよ!〉
〈お兄様! こんにちは!〉
〈迷宮攻略ってマジですか!? めっちゃ楽しみです!〉
すでにかなりの人が来ているようだ。
コメントがずらーっと流れていく。一応目ではおえているが、わざわざ答える必要はないだろう。
「あー。はいはい。その前におまえら報告だ。……来週の土曜日。何が行われるか知っているか?」
〈また配信の告知か?〉
〈誰かとコラボとかするのか?〉
「違うわ! マヤチャンネルのファンかおまえら! 来週は麻耶のサイン会だろうが!」
麻耶のキャラクターソングなるものが発売されたのだ。
この事務所では、登録者数十万人を超えたとき、それぞれのキャラクターソングが造られるというのが恒例らしく、麻耶も随分と前に作ってもらって発売されることになったのだ。
そのときのCDにサイン会への参加券がランダムで封入されているのだとか。
〈あれ、それて確かルカちゃんも一緒にいなかったか?〉
〈ルカちゃんとの合同サイン会だろ?〉
〈そうそう。ちょうどルカちゃんの100万人記念と被って……そっちがむしろメインだよな?〉
「はああ!? 誰だそいつは! いや、誰でもいいっての! 麻耶のサイン会なんだ。来週は麻耶のサイン会なんだからな……っ!」
〈いや先週も話してただろうが!〉
〈こいつやっぱり頭おかしいわw〉
至宝ルカ〈呼んだ?〉
〈おいまた本人降臨してんぞ!〉
〈ルカさん! こいつあなたのことよく知らんってバカにしてましたよ!〉
「本人? マジで? あーすまん。コメント欄のみんな、俺の代わりにいい感じのお世辞言っておいてくれ」
〈さっきこの人マヤが世界一って言っていましたよ!〉
〈マヤ以外は興味ないって言ってましたよ!〉
俺の視聴者たちは、どうやら俺の味方ではないようだ。
「なんだおまえらもお世辞苦手か? 仲間じゃねぇか」
〈開き直るな〉
〈こいつ無敵か?〉
至宝ルカ〈当日、楽しみにしておいて。ルカのファンにするから〉
〈これでまたルカ推しが増えるのか〉
〈ようこそ、ルカ沼へ……〉
「いや、たぶんファンにはならんから安心しろ。俺はいつだって心に麻耶を飼ってるんだからな」
〈だから表現がキモイんだよw〉
〈なんでこのお兄ちゃんでマヤちゃんはブラコンになったんだ……〉
〈俺の兄がこれだったら間違いなく嫌ってるわw〉
〈ていうか、さっきサイン会がどうたら言っていたけど、サイン欲しいなら家で頼めばよくないか?〉
何言ってんだこいつは。
「は? 現地で書いてもらえるのがいいんじゃん。家で書いてもらった妹のサインであってマヤのサインじゃないだろうが。分からんのか!?」
〈草〉
〈まあ、言いたいことは分からんでもない〉
―――――――――――
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!
ランキングに影響があり、作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます