第201話
ひとまず、準備運動がてら黒竜が出現する94階層へと向かい、戦闘を開始する。
基本的に俺が黒竜の注目を集め、その間に二人に攻撃をしてもらう、という感じだ。
黒竜は的としてちょうどいいんだよな。
ここより上の階層の魔物となると、ちょこまか動く魔物が多いため、中々的にはしづらい。
もちろん、俺が押さえつければいいのだが、そうなると俺も魔法に巻き込まれてしまうからな。
耐えられるけど、痛いのは嫌だし。
さて、その黒竜への攻撃だが……攻撃自体は通っているが、まだ二人の攻撃だけで討伐は難しいという感じだ。
それでも、以前の玲奈ではダメージさえ与えられなかったはずで、それに比べればかなり成長している。
麻耶も、黒竜相手に臆することなく攻撃できる度胸が身についている。
その度胸が、大事だ。
初めて遭遇したときの怯えもすっかりなくなってくれたようで、お兄ちゃんとしては本当に良かった。
麻耶があまり力をつけるとそれに伴って面倒事に巻き込まれる危険性も増えるのでそこは心配だが、万が一を考えて自衛力を高めてもらったほうがいいのも確かだ。
……難しい問題ではあるが。
黒竜相手に魔法をある程度試したところで、俺はその首をもぎ取った。
「ガアアアアァァァ……」
黒竜の悲鳴が消え入るようにして小さくなっていき、やがてその体が霧のように消えていった。
俺は手についた汚れを払うようにしてから、二人をみる。
「さて、それじゃあ今日は132階層くらいに行くとするか」
「「らじゃー」」
麻耶と玲奈がそろって敬礼をし、俺たちは転移石を使って目的の階層へと移動する。
麻耶もちょこちょこ俺と一緒に迷宮内を移動しているので、移動自体はできるようになっている。
132階層へと移動したところで、麻耶は俺の隣に並ぶ。
いざというときに俺が彼女を守るためだ。
先頭は玲奈に任せ、俺たちはその後をついていく。
索敵、戦闘のすべては玲奈一人に任せる予定だ。
「玲奈ちゃん、最近前より戦闘に熱心だよね」
「まあな」
玲奈本人は口にしないが、その理由は分かっている。
彼女が特に最近熱心になったのは、ジェンスと戦闘した後からだ。
彼女はあの場で一番強い冒険者だった。
にも関わらず、時間稼ぎをするのが精々だったことを……もしかしたら、気にしているのかもしれない。
ジェンスたちと玲奈たちの戦闘の様子が配信サイトに残っていたので軽く見たが、確かに玲奈たちはまるで手が出ていなかった。
……とはいえ。
俺としては、命を賭けてまで時間稼ぎをしてくれた玲奈にめちゃくちゃ感謝しているんだけどな。
「私も、もっと頑張らないとね……っ」
「麻耶ももっと強くなりたいのか?」
「うん。だって、お兄ちゃんに助けてもらってなかったら、私たち大変なことになってたかもだしね」
「……まあ、でも、俺はいつだって麻耶を助けるぞ?」
「でも、足手まといにはなりたくないっていうか……お兄ちゃんのこと、助けられるようになりたいんだよね」
「いや、麻耶が生きてるだけで俺にとっては助けだぞ?」
「それは私もだよお兄ちゃん。お兄ちゃんがいるだけでそうだけどさ、でもそういうのじゃないんだよー」
麻耶の笑顔に俺も笑顔を返していると、ちょうど魔物が現れた。
俺と麻耶はその様子を後ろから眺めていた。
この階層の魔物となると、一対一で全力を出してどうにか五分五分という感じだ。
それでも、今日の玲奈はいつもよりも戦闘感がいい。
多少身体能力は負けている部分もあったが、技術と経験で上手く誤魔化し、魔物を仕留めていく。
そうして、何度か戦闘をしたところで、玲奈が俺の方に声をかけてきた。
「ダーリン、疲れたぁ! ちょっと休憩!」
「了解だ」
この階層での狩りは、休みながらの方がいいだろう。
ただ、前向きな玲奈のためにその時間を作ってやることは悪い気はしない。
それから、何度か休憩を挟みつつ戦闘を挟んだところで、玲奈の限界が来た。
「……次はちょっと長めの休憩ほしいなぁ」
「それじゃあ、お兄ちゃん次は私の戦闘見ててくれないかな?」
「ああ、分かった! それじゃあ、50階層くらいに移動しようか」
「うーん、今日は60階層くらいがいいかな? 一対一ならなんとかなると思う!」
「分かった……っ。行くか」
麻耶のことを考えるともっと難易度が低い迷宮がいいと思ってしまったが、過保護も良くないよな。
ぐっと唇を噛んで、出かけた言葉を飲み込んだ。
今度は先ほどとは逆に俺と玲奈が後ろから麻耶の姿を眺めるという感じだ。
その時、先ほどの話を思い出す。
……ジェンスと戦ってから、玲奈とあの時のことはあまり話してなかったな。
あまり気にして、無茶なトレーニングをされても困るしな。
「玲奈……そのあんまり気にするなよ」
「ふえ?」
「この前のジェンスとの戦いを多少は気にしてると思ってな」
「……うーん、まあね」
隠すかどうか迷っている様子であったが、結局彼女はこくりと頷いた。
「俺としては、あの時命がけで戦ってくれた玲奈にめちゃくちゃ感謝してるからな? だからまあ、無茶はしないようにな」
「……うーん、ありがとねダーリン。でもね――」
苦笑とともに頬をかく玲奈はそれから麻耶へ視線を向けた。
「悔しい気持ちはあるんだよね。結構あたし、強くなったけど、ダーリンいなかったら、友達を守れなかったっていうのが嫌だっていうかね」
「玲奈。あいては世界ランキングでも上位の相手だったんだ。それに、魔力増幅薬とかいうチートを使ってたんだし、実際の実力はもっと上だったんだ。……時間稼いでくれただけで十分だ」
「……まあ、結果だけ見れば、ね。でもさ……昔と今。いつもダーリンに助けてもらってばかりだなぁって。あたしだって、ダーリンの隣に並ぶくらい強くなるって決めてるんだからね。じゃないと、ダーリンと結婚してから安心してダーリン外にいけないでしょ?」
またこいつは勝手に結婚後のことを考えやがって。
とはいえ、俺に怯えるわけでも憧れて諦めるわけでもなく、そうやって強さに近づこうとしてくれるのは悪い気はしない。
「まあ、そうだな。……とりあえず、ちゃんとは伝えられていなかったからな。一番無茶してくれたおまえに何もなくてよかったよ。ありがとな」
「……ずるい」
改めて、俺の感謝を伝えると、玲奈は頬を赤らめながらそっぽを向いた。
普段の言動とかのわりに、素直に褒めると照れるところあるんだから面白いものだ。
「…………じゃあ、ご褒美でちょっとだけハグとかは?」
控えめな様子であったが、両腕を広げてきた彼女に俺はため息をつく。
「……まあ、しょうがない。今回だけな」
「……やった」
耳まで真っ赤にして、ぎゅっとしてくる。
恥ずかしそうに微笑む玲奈はそれから少しだけ感触を確かめた後、俺から離れた。
「……うん、大満足!」
玲奈は頬を赤くしながらもそう宣言してすたすたと歩き始めた。
―――――――――――
近況ノート更新しました。
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