第200話

 色々なことがあった麻耶との夏休みだが、それも先日に終わりを迎えてしまった。

 ……まあ、素直に喜べることばかりでもなかったが、それでも楽しい思い出もあったわけだ。

 一番は、やはり麻耶と朝昼夜問わずいつでもいられるところだな。

 ……まあ、そんなわけで現在、麻耶ロス状態に陥っているのだが、彼女には大事な学校生活があるのだから仕方ない。

 最近は色々と物騒にもなっているため、麻耶の魔力は定期的に追っている。

 いやまあ、物騒になる前から危険分子が近づかないよう常に見張ってはいたが、最近はその見張りをさらに強化した。

 ついでに、流花、凛音、玲奈たちの魔力も感知している。

 ……ただまあ、不安はあるんだよな。

 ジェンスと戦った時に現れたあの魔力を感じない女たち。

 ……同じ顔をした彼女らは、明らかにおかしい様子だった。


 あいつらは、いったい何なんだろうな。

 存在がまるで分からないが、見たかぎりジェンスの関係者であるようには感じられた。

 ……そもそも、ジェンスがアメリカから逃げたときにも恐らく協力者がいるみたいだったしな。


 とりあえず、俺の身近な人たちの魔力に異常はなさそうだ。

 安堵の息を吐きながら、ソファにぐっと寝そべる。

 こういう問題が出るのなら、冒険者というのは目立たないほうが良いのかもしれない。

 そんなことをうっすら考えていると、玄関の扉が開いた。


「あっ、ただいまお兄ちゃん」

「おお、麻耶! 久しぶりだ!」


 やっと、やっと麻耶が帰ってきてくれた。

 朝学校にいってからこれまでどれだけ待ち焦がれたことか!

 笑顔でやってきた麻耶をハグで受け止める。

 麻耶を受けとめた直後、一緒にいた玲奈も飛びついてくる。

 さっき、魔力を調べたときに一緒にいたのは分かっていたのだが、俺は麻耶を抱えたまま玲奈の攻撃をかわした。


「ダーリン、酷い!」

「酷いじゃない。なんでここにいるんだ」

「ただいまダーリン!」

「おまえの家はここじゃない」


 再び飛びついてきた玲奈の頭を掴むようにして押さえる。

 それでも抱き着いて来ようと力を籠める玲奈に、さらに力を籠めると彼女はやがて諦めた。

 俺が手を離すと、腕を組んでむすーっと口をとがらせるようにこちらを見てくる。


「もう、ダーリン恥ずかしがり屋なんだから」

「なんで麻耶と一緒だったんだ?」


 彼女のふざけた話に合わせるつもりはない。

 問いかけると、彼女は笑顔とともにこちらを見てきた。


「いくつか理由はあるんだけど……まずは愛しのダーリンが寂しがってると思って会いにきたの」

「いらないお節介だ。他の理由は迷宮か?」


 余計な話題はいらん。俺が問いかけると、玲奈はぐっと親指を立てた。


「それもあるね。おともについてきて欲しいなぁって」


 まあ、わざわざ俺に会う以外の理由があればそれくらいだろう。

 玲奈は最近では暇さえあれば迷宮に足を運んでいるみたいなので、別に今さらの話だ。

 まあ、強くなりたい彼女の気持ちは本物なので、協力はする。

 麻耶親衛隊の一人だしな。


「分かった。そんじゃあ、いくかな」


 麻耶とお別れになってしまうのは寂しいが仕方ない。

 そう思っていると、麻耶がすっと手を上げてきた。


「私も見学について行ってもいい?」

「え!?」


 麻耶の申し出に俺は思わず声をあげてしまう。

 というのもだ。今俺と玲奈はかなり高ランクの魔物を相手に戦っているからだ。


「ま、魔物強いから危険だぞ? 麻耶に何かあったらお兄ちゃん心配だし……」

「あたしが初めて下層への案内を頼んだときとなんか態度違くない?」

「玲奈は強いからな、信頼してんんだ」

「いい風に言ってごまかそうとしてないかな?」

「気のせいだ」


 じとっと見てくる玲奈から顔を逸らすと、麻耶がじっと上目遣いで見てくる。


「私も強い人たちの戦いを見て参考にしたいと思って。ダメかなお兄ちゃん?」

「いいに決まってる。さすが、向上心の塊だ! 何かあったらお兄ちゃんが全力で守るし、気にするな!」

「やった! ありがと!」


 ここまで頼まれては断ることはできない。

 それにしても、麻耶はなんてやる気なのだろうか。

 この世の中に、これほどまでに素晴らしい妹がいるものなのか。きっと麻耶を超えるほどの子はいないだろう。妹コンテストがあれば間違いなく世界一位だ。


「もう、相変わらずのお兄ちゃんだことで」


 玲奈が呆れたように肩をすくめている。

 そういうわけで、準備を終えた俺たちは、いつもの通り黒竜の迷宮へと向かった。





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