第199話



 無事謝罪は終了して、俺と霧崎さん屋敷を後にした。家まで送ろうかと提案されたが、俺も霧崎さんも歩いて帰ることにした。


「迅さんは電車に乗りますか?」

「もちろんです。いつも走って帰るわけじゃないですから」


 シバシバにもらっているスキルもあるが、そんないつも使うのもな。

 ……なんか、大学も忙しそうだし、あまり彼女のお世話になってばかりもいかないだろう。

 駅に向かって歩いていくと、ビルに映し出されたモニターに目が止まった。

 ちょうどそこでは、俺のレコール島での戦いについての報道がされていた。

 俺が魔物たちをボコボコにしている様子だ。

 霧崎さんも気づき、苦笑する。


「……相変わらず、凄く注目されていますね」


 モニターの前では、たくさんの人たちが集まってその映像を眺めていた。耳をすませば、その映像に対して呑気な感想を聞くこともできた。


「改めてこうやって見ると、恥ずかしいもんですね」

「そういうものですか? いつも配信ではあんな感じで戦っているじゃないですか」

「でも、配信は別に見返しませんし」

「そういうことですか」


 映像へと視線を向けた霧崎さんは、わずかに息を吐いた。その息は安堵混じりのもののようだった。

「いつもの戦闘とまるで同じでしたが……私は不安でしたよ」

「不安ですか?」

「ええ。そりゃあ。……迅さんの実力はもちろん理解していましたが、それでもその前にあっさりと災害級の冒険者が敗北している場面が映されていたんです。……不安に感じるなというほうが無理ではないですか?」


 霧崎さんはそういってわずかに怒った様子でこちらを見てくる。


 ……それもそうか。俺はある程度敵との力量差を理解できるが、多くの人はその域にはいない。

 だから、麻耶や他の人たちも心配させてしまう。……謝罪は、何も迷惑をかけた人たちだけじゃないよな。


「すみませんでした、一人で突っ込んでちゃって」

「いえ……。それが迅さんのお仕事でもありますからね。無事戻ってきてくれれば、それでいいですよ」


 にこりと微笑んだ霧崎さんに、俺も頷いた。

それから少しモニターを眺めていると、俺のチャンネルに関しての話も上がっていた。

 俺のはいいから、マヤチャンネルの報道しろよ、と思いながら俺は電車へと乗り込んだ。



「それでは、迅さん。またコラボ配信などの日程が決まりましたら、連絡しますね」

「はい、お世話になりました」


 改札を出た俺は、それから家へと戻った。「あっ、お兄ちゃんお帰り!」我がいとしの天使が笑顔とともに出迎えてくれた。


「ただいまー、元気だったか?」

「うん、特に何もないよ! お兄ちゃんこそ、流花さんのご両親への挨拶はできたの?」

「お父さんしかいなかったけどな。それと挨拶じゃなくて、謝罪」


 スーツのネクタイを緩めながら答える。


「謝罪は大丈夫だったの? 怒ってなかった?」


 麻耶がツノを生やすように手を動かしていたが、俺は笑顔で首を横にふる。


「大丈夫だったな。ていうか、流花の家マジで大きいんだな……」

「あっ、お兄ちゃん。私の言葉信じてなかったの?」


 頬を膨らませる麻耶。

 いかんっ! 麻耶を疑うような発言をしてしまった!


「いや、そういうわけじゃないんだぞ!? 想定以上の大きさだったから驚いてたんだ! 信じてくれ!」

「いや、別にそこまで本気で怒ってないからね。でもまあ、確かに初めてであれを見たら驚かされるよね」


 麻耶はうんうんと頷いて納得してくれる。

 ……そりゃあな。最初くる家を間違えてしまったのかと思ったからな、マジで。リビングに行ったところで、俺は麻耶に伝える。


「麻耶、色々と心配させて悪かったな」


 戻ってきてから、麻耶にはちゃんと話をしていなかったからな。いつも、色々と心配させてしまっていたから、改めての言葉だ。


「え? 心配?」

「ああ。今回の戦いもそうだけど、いつも待ってもらってるだろ? 心配してる部分もあると思ってな」

「お兄ちゃん……。そりゃあ、心配だけどね……でも、こうしてお兄ちゃんが大活躍している場面が全世界に報道されるのは、お兄ちゃん推しの私にとって、悪いことでもないんだよね」


 麻耶は嬉しそうにいくつかの印刷された紙を並べていた。

 俺に関する記事など、最近はいくつも麻耶が記録に残している。ふふんと胸を張っている麻耶に俺は嬉しくなる。


「そ、そうか?」


 麻耶の自慢の兄になることは一つの目標でもあったので、嬉しくないわけがない。


「うん。そういうことで、これからも無茶しない程度に大活躍してね、お兄ちゃん!」「おう、分かった」


 無茶しない程度に麻耶の想いが込められていることは、よく分かった。


「それはそうと、お兄ちゃん。夕食は何食べたい?」

「なんでもいいぞ」

「えー、なんでもは困るよー」


 そんないつものやり取りをしながら、俺たちは元の日常へと戻っていった。


―――――――――――

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