第198話
「私、高校卒業してからどうしようかと思ってて……冒険者として、もっと活動したい気持ちもあって……」
「……なるほどな」
冒険者一本でやってきた俺としては、やめといたほうがいい、という言葉が喉元まで出かかってしまう。
……というのも、冒険者は別に稼げるような仕事ではない。そりゃあ、一部のトップ冒険者はまさに成功者のような生活が送れるかもしれないがそれはあくまで一部。
多くの冒険者は副業としてやるにはちょうどいいが、本業では物足りないし危険も多い、仕事だ。
「どうして、冒険者をやりたいんだ?」
「……楽しいから」
「……そうか」
もしも、それが金稼ぎとかそういうのが理由なら止めたが、流花のような意見なら否定するのも違うだろう。
「でも、別に学校に行きながらでもできるだろ?」
「うん。でも、進学するかどうかは……迷ってる」
「大学のことか? 行けるなら行っておいた方がいいんじゃないか?」
「そうだけど。やっぱりそれだけ冒険者として活動する時間が減っちゃうから」
「……なるほどな。でも、シバシバみたいに大学行きながらギルド作って有名になる人もいるだろ?」
「そのシバシバは留年危機らしい」
「……マジか」
それはちょっと俺も申し訳ない気持ちになる。わりと最近、あちこちに連れまわしているというかお世話になってしまっている部分があるからな。
とはいえ、留年の危機は俺にはどうしようもないので頑張ってくれというしかない。
「まあ、最後に決めるのは流花だからな。冒険者を本気で頑張れば稼げる才能はあるだろうけど、怪我とかそういう可能性もあるってことだけは頭の片隅に入れておいたほうがいいってわけだ」
「……うん。確かに……難しい。そういえば、もう一つ聞きたいことがあった」
「なんだ?」
「以前、皆で進路の話になったとき、玲奈さんは高校卒業後はお兄さんの家でお世話になるって言ってたけど」
「それはあいつの妄言だから気にするな」
「ほんと?」
「ほんとだ」
厳しい目で見てくる流花に、俺は全力で頷く。
まったく。あいつは俺に関わらない場所でも迷惑をかけてきやがるな……。
「まあでも、玲奈じゃないけど流花もそういう誰かのお世話になるっていうのも選択肢にはないのか?」
「お、おおおおお兄さんの!?」
「いや、俺のとは言ってないぞ?」
さっきの話の続きだったからか、流花が酷い誤解をしてしまった。
「そ、そうだった。……うん、でも別に私もそういうのはいないし」
「まあ、普通そうだよな」
玲奈のように本気なのか冗談なのか分からないことをずっと言っているほうがおかしいわけだしな。
「あっ、で、でも……結婚、とかは……その夢の一つ、ではあるけど」
流花は恥ずかしそうな様子で言葉を絞りだしている。
「おっ、そうなのか? 好きな人とかいるのか?」
「……う、うん……まあ、その……気になっている人は」
……へぇ。
流花もわりと活発に動いているんだな。
「おおっ、もしかして学校の人か? あーでも確か女子高だったか? あれか、合コンとかそういうので知り合ったとか?」
「…………違う」
流花の表情が少し険しくなったような気がする。
気のせい……ではないな。
予想を間違えたからといってここまで怒られるとは思っていなかった。
「じゃあ、あれか? 最近だと出会い系のアプリとかか?」
前にネットを見ているときにそういうのが今の流行りだというのを目にしたような気がする。
しかし、どうやらこれも違うようで流花の目がまた吊り上がっている。
「………………それも違う」
それだと他にどのような機会に出会うのだろうか?
ファンの人とか? あとは、お金持ちっぽいし許嫁とかそういうのだろうか?
分からん。
「まあ、そういう相手がいるってのは悪いことじゃないな。俺は応援してるからな」
「……複雑な気持ち」
何がだ。
俺からの応援は嫌ということだろうか?
そんなことを話していると、部屋がノックされる。
扉の方へ視線を向けると、そちらには大河さんと霧崎さんがいた。
「昼食の準備できましたよ」
大河さんの言葉に頷いた俺たちは、そこで話を中断してお昼を頂いた。
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