妹の迷宮配信を手伝っていた俺が、うっかりSランクモンスター相手に無双した結果がこちらです【書籍化&コミカライズ企画進行中!】
木嶋隆太
第1話
「お兄ちゃん! 今日も迷宮配信手伝ってくれないかな?」
迷宮。
数十年前。突如として世界に出現した魔物という生物が出現する特殊な存在。
それらの出現と同時、世界には魔力という概念が生まれ、今の子どもたちは大なり小なり魔力を持っている。
そんな迷宮攻略は……現在、世界中の人気コンテンツとなった。
迷宮で戦闘している様子を配信することで、それを見ている人たちがお金を落としていく。
妹の麻耶もまた、配信者の一人としてその道を歩んでいるところだった。
とはいえ、まだまだ麻耶は駆け出しの冒険者だ。
もちろん、お兄ちゃんとしては妹の夢を応援したい。彼女の言うがままである。
「ああ、いいぞー」
「ほんと!? ありがとうお兄ちゃん! 大好き!」
麻耶が笑顔とともに抱きついてくる。大好き……大好き……。
脳内で麻耶の言葉を反復しながら、俺は彼女を抱きとめる。
本当に麻耶は世界一可愛い妹だ
「お兄ちゃん。配信の日なんだけど今日の放課後からだからいつものように黒竜の迷宮に集合でいいかな?」
「ああ、いいぞ」
「それじゃあ、お兄ちゃん。また放課後によろしくね」
朝食を食べ終えた麻耶は、笑顔とともに家を出ていった。
現在、麻耶は事務所に所属して配信活動を行っている。
事務所に関して、詳しくは知らない。まあ、麻耶の他にも学生の配信者が多く所属しているらしく、仲良く楽しくやれているそうだ
放課後、黒竜の迷宮。
無職の俺としては、放課後までの時間は長い。
よし、今日も麻耶の配信を見てようか!
予定が決まった俺はすぐ部屋へと向かい、置いてある巨大なモニターにて麻耶の配信を流していった。
「皆ー、こんばんはー! 今日は迷宮からの配信になります!」
俺は言われた通りカメラマンとなり、麻耶を映していた。
今の麻耶は制服ではなく、動きやすい恰好に着替えていて、それがまた配信のコメント欄を賑わせている。
〈マヤちゃん、今日も可愛いな〉
〈マヤちゃん気を付けてな? この前配信中に事故起こした冒険者もいるからな……〉
〈ココアちゃんだよな? あれは悲惨だったよな……〉
〈命があるだけまだ良かったよ〉
〈今も治療中なんだろ?〉
麻耶は自分のスマホでコメント欄の様子を眺めていた、心配そうな表情を浮かべる。
「ココアさん……別の事務所の人だけど、私も見たことあるからね」
今の時代、冒険者として配信している人は多くいる。
……ただ、それだけ多くの事故も起きてしまっている。
〈マヤちゃんは護衛とか雇ってないのか? 事務所にも冒険者活動してる人いるよな?〉
「大丈夫です! 本日のカメラマンはお兄ちゃんにお願いしてますから!」
〈おお、お兄さんか〉
〈冒険者やってるんだっけ?〉
〈頼むから危険なことだけはしないでくれよマヤちゃん〉
「お兄ちゃん、ちゃんと映ってる?」
俺は指で丸を作り、麻耶も笑顔とともに真似するように丸を作った。
「大丈夫みたいです。それじゃあ、早速迷宮に潜っていきましょう!」
〈ここって黒竜の迷宮だったっけ?〉
「そうそう」
〈Sランク迷宮だよな? 大丈夫なのか?〉
「低階層はGランク迷宮相当の魔物しか出ないからね。大丈夫だよ」
そういって麻耶は短剣の柄に手を伸ばしながら、迷宮攻略を開始する。
黒竜の迷宮は階層ごとに魔物が段階的に強くなっていく。だから、麻耶が言う通り低階層ではそれほど大きな心配はない。
すでに何度か入ったことのある麻耶は、すいすいと魔物を倒していく。
〈マヤちゃん、動き軽やかだね〉
〈さすがだな〉
〈マヤちゃん、今日もカワイイです〉
「えへへー、お兄ちゃん直伝だからね」
天国の父さん、母さん。
今日もあなたたちの娘は天使です。
ピースを作る麻耶に癒されていたときだった。
麻耶が踏み出した先の地面に、魔方陣が浮かび上がる。
「えっ?」
……トラップか!? 迷宮には時々トラップがあるのだが、まさか一階層で出現するなんて――。
すぐに麻耶を助けるために駆け出し、手を伸ばす。
〈トラップだ!〉
〈マヤちゃんすぐ逃げて!〉
麻耶の手を掴んだが、その瞬間彼女の姿が消える。
転移系のトラップだ。これは他の階層に対象者を転移させるトラップだ。
すぐに俺も後を追うようにして、そのトラップへと踏み込んだ。
俺が目を開けると同時、悲鳴があがった。
「お兄ちゃん! あ、あれ……!」
がたがたと顔を青ざめさせて震える麻耶から視線をちらとそちらに向けると、黒竜が、眼前にいた。
この迷宮が黒竜の迷宮と呼ばれているのは、95階層に出現する魔物が黒竜だからだ。
そして、現在の攻略階層は94階層。
だというのに、黒竜の存在が知られているのは――95階層に挑戦した配信者のSランクパーティーが全滅したからだ。
「ガアア!」
黒竜が咆哮をあげると同時だった。尻尾が振り下ろされた。
圧倒的な迫力とともに、凄まじい風圧が襲い掛かる。
その一撃を見て、俺は麻耶の体を突き飛ばし、尻尾に叩きつけられた。
―――――――――――
新作書きましたので読んで頂けると嬉しいです。
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