第241話


 彼女の隣を並んで歩いていくが、周りの視線は結構集まっている。

 俺の格好が原因か。気配を隠してもいいが、まったく感知できないリーラが俺まで見失いそうだからな……。

 リーラも注目されているようだが、おそらくはその美貌からだろう。鼻の下を伸ばしている人が多くみられる。


 ずっと疑問に思っていた言葉の問題は……大丈夫なようだ。

 明らかに使っている言語は違うのだが……自動で翻訳されているように伝わってくる。


「リーラ。俺この世界の言葉は分からないが、なぜか伝わるのはなんでなんだ?」

「それはこの世界【リエストリア】の女神様の恩恵だろう。知能あるものたちの交流を問題なく行えるように、女神様がすべての民の言語を自動で翻訳してくれているんだ」

「……はあ、なるほどな」


 そのまま、案内されるままにギルドへと着いた俺たちは、早速ギルドへ向かう。

 受付に向かい、まずはギルドへの登録を行うことにする。


「こちらのギルドカードは【ウルカーヌ】と【トニトルス】で使用可能です」

「【トニトルス】でも使用可能なんだな」

「はい。先日、【トニトルス】とは同盟を結びましたので」


 そのどちらかにいる間はある程度自由に動けるということか。

 それにしても、侵略者同士でも同盟を結ぶなんてことがあるんだな。

 この世界にとっては、あまりいいことではないんだろうな。


「ジン様はGランク冒険者からのスタートになります。依頼を受ける場合はあちらの掲示板でお願いします」

「わかった。持っている素材を売りたいんだが、いいか?」

「分かりました。こちらに出してくれますか?」

「ああ。頼む」


 俺はすっと空間魔法から魔石と素材を大量に出す。

 すると、ギルド職員が驚いたように声をあげる。


「く、空間魔法を使えるのですか!? 魔力ありませんよね!?」

「魔力、わずかにあるんだ。それでまあ、うまくやってな」


 ……これ、面倒かも。

 今後はリーラを通して、空間魔法などを使った方がいい可能性もあるぞ。リーラは、魔力量はかなりあるんだしな。

 ただ、魔魔法の属性適正がないらしく、「弱いウルフなんだ……」と嘆いていた。

 でも、身体強化に使えば良いのでは? とは思ったが今後も一緒にいるかは分からないのでそこまでは伝えていなかった。


「……そ、そうなんですか……?」

「そういうことだ、換金を頼む」

「分かりました……」


 とりあえず、堂々としていたらうまく誤魔化すことに成功した。



 無事お金の換金を終えた俺とリーラは、街中をぶらぶらと歩いていた。

 とりあえず、これで身分証明書はなんとかなったのだが、麻耶の居場所についての情報は未だなかった。

 目的は麻耶の救助だ。別に異世界で金稼ぎをするためにここにいるわけではないので、早いところ新しい情報が欲しいところだった。


「リーラ。どこかで麻耶の居場所を知るすべはないか?」

「……うーむ、そうだな。お偉いさんのところに行って、召喚魔法の情報などを調べれば分かるかもしれないが……潜入するといってもなぁ」

「潜入か。別に難しくはないと思うけど、場所はどこだ?」

「……い、いややめておいたほうがいい。貴族様たちに手を出したら何をされるかわかったものじゃない……彼らは、この世界においてすべての生命を自由にする権利が与えられているんだぞ?」

「つまり、道端にいる人間をぶっ殺しても許されるってことか?」

「そういうことだ」

「理不尽じゃないか?」

「……仕方ない。この街はもともと、【リエストリア】、我々の世界の管轄だった。だが、侵略してきた【ウルカーヌ】に奪われ、いまは【ウルカーヌ】の者たちの奴隷同然となっている」

「なるほどな」

「……中には、貴族たちを撃退しようとするレジスタンスの動きもあるようだが、我も人間の動きは詳しくは分からないな」

「ワンちゃんだもんな……仕方ないか」

「我はウルフだぞ……」

「冗談だから、唸るな。……でも、貴族たちを撃退したって意味なくないか? その後また殺されるんだろ?」

「……奴らの本体は元の世界にあるんだ。だから、我らは彼らを殺すことはできない。ただ、撃退すれば次に力ある者が召喚されるまでの間は平和に過ごすことができる……まあ、それが達成されたことはないのだがな」

「そうなんだなぁ。でも逆に言えば、他世界の人間たちは皆本体がきているわけじゃないんだな」

「そうなるな」


 それは便利だな。その技術を迷宮攻略に活かせれば、地球での活動もかなり安全になるだろう。


「リーラ、俺は適当に貴族の屋敷に忍び込んで情報を集めてこようと思う。ここまでありがとな」

「ま、待て! 宿は準備しておく! 食事も準備しておく! だからもっと我を養ってくれぇ!」


 道端でいきなり大声で泣きついてくる。

 ……周りの視線がじとりと向けられる。

 まるで俺が悪いみたいな視線ばかりである。


「おい! 目立つからあんまり声をあげるなっ!」

「仕方ないだろう! 我はおまえを失ったらまたひもじい生活になるのだ! 死んでも離さんぞ!」


 リーラが必死に俺に縋って泣いてくる。

 ……俺としては、リーラを巻き込みたくなかったというのも理由の一つなんだけど、ここまでいうのなら仕方ないな。




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