第242話
「……ああ、もう。分かったよ。ただ、万が一の場合、俺の仲間だとバレたら問題になるがそれはいいのか?」
「今おまえを失ったら、明日の食料にも困る。そのほうが嫌だ!」
「それなら、これからも情報収集を頼むな」
俺がそういうと、リーラはぱっと目を輝かせて頷いた。
……まったく。
なんでこう変なやつにいつも絡まれるのだろうか。
俺はスマホを取り出し、その変な奴らに連絡が取れないかみてみたが、さすがに繋がってはいないようだ。
小さくため息を吐いてから街中を歩いて大通りへと入ったときだった。
異様な光景を目撃した。
大通りにいた人々が、皆頭を深く下げていた。
いわゆる、土下座をしている。
その道の真ん中を、一人の男が歩いていた。
豪華な衣装に身を包んだ、俺と同い年くらいに見える男性だ。
彼の周りには、騎士のような出立ちの護衛もいることから……まあ、貴族であることは分かるな。
とても偉そうな彼はふんぞりかえるようにしながら、土下座する者たちによって作られた道を歩いていく。
なんだこれ?
そう思っていると、俺の頭を無理やり下げてきたものがいた。
リーラだ。
彼女はガタガタと震えた手で俺の体を押さえつけてくる。
「……じ、ジン。彼は【ウルカーヌ】炎術団の一人、ボルドフ・フレイム様……だっ」
「炎術団? なんだそれ劇団か?」
「んなわけあるか! 【ウルカーヌ】は火魔法が得意な人間が多く……あのボルドフ様はその炎術団の中でもかなりの実力者で、この街の管理を任されている人だ! あと、基本的に貴族を見たら今のように土下座をしないと、何をされるか分からんぞ!」
「……はぁ、まあ。郷に入りては郷に従えとも言うしな」
面倒事は避けたいのだが、仕方ない。
そう思っていたのだが、一ついいことを思いついた。
「あのボルドフに話聞けば、召喚魔法の件も分かるんじゃないか?」
「……わ、分かるかもしれないが、ボルドフ様が教えてくれるわけがないだろう! いくらおまえが強いといっても、ボルドフ様の実力はそのさらに上をいくのだぞ!?」
「分かるのか?」
「分からんが、たぶん強いに決まっている! やつから感じる魔力は……尋常ではない……」
……まあ、俺としてはあいつの後をつけて、情報でも手に入れられればいいと思っている。
土下座しつつ、少し視線を上げてボルドフの生意気そうな顔とやつの魔力をきちんと覚えていたときだった。
一人の男の子とその妹と思われる子が歩いている姿を見つけた。
何やらアイスクリームのようなものを美味しそうに食べていたのだが、男の子はそこで貴族様が歩いてくることに気づいたようだ。
慌てた様子で妹の頭を押さえつけ、すぐに土下座の体勢をしようとする。
お兄ちゃんだもんな。妹は守らないといけないよな。
……とはいえ、子どもにまでこんな理不尽なことを命令するなんて、凄まじいな、とか考えていると。
「あっ」
その時、妹の手にあったアイスクリームが地面におちてしまった。
ぼとりと落ちたそれを見て、妹はまだ貴族様なども分からないような年齢だったからか、泣き出してしまった。
その瞬間、その場の空気がぴりつき、ボルドフがジトリとそちらを睨んだ。
「なんだ、そのガキは……?」
明らかに苛立ったような声とともに騎士たちともにそちらへ近づく。
妹が顔を向けると、さらにボルドフから発せられる空気が変わる。
……土下座していた皆が、慌てていただのだが誰も動くことはない。
ただ、過ぎ去る嵐の中で、皆がせめて自分だけは被害を及ばないでください、とでも祈るかのようだった。
「……リーラ、あの子たち、どうなるんだ?」
「よくて……奴隷落ち、悪ければ……あの場で殺される」
「それって何の罪にもならないのか?」
「侵略者たちを罰せられるような力を持つ人は……いない。この街はすでに侵略者たちに支配されているんだから……その世界の法に従うしかないんだ」
リーラはぐっと拳を固め、悔しそうに小さな声を放っていた。
……理不尽な世の中だな。
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新作書きましたので読んで頂けると嬉しいです。
世界最弱のSランク探索者として非難されていた俺、実は世界最強の探索者
妹の迷宮配信を手伝っていた俺が、うっかりSランクモンスター相手に無双した結果がこちらです【書籍化&コミカライズ企画進行中!】 木嶋隆太 @nakajinn
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