第209話


「それで、先ほどヴァレリアンさんが話していた件についてですが……」

「あの魔力を感じない存在ですよね?」

「ええ。……彼女らは、恐らく戦闘型アンドロイドではないか、というのがヴァレリアンさんの意見です」

「……戦闘型アンドロイド?」

「はい。鈴田さんは、迷宮調査をAIやロボットを駆使して行えば、今よりも楽に安全に行える……ということで研究が進められているのは知っていますか?」

「あー、何かの記事で見たことあるかもしれません」


 たまに暇なときにネットを見ているが、そういったときに今のような情報があったかもしれない。


「そうなんです。現在、さまざまな国で開発を行っていますが、多くの魔物たちは視覚情報とこちらの魔力反応を頼りにこちらの索敵を行っています。もちろん、熱感知など魔物によっても変わってはきますが」


 確かにその通りだ。一部の、例えば蛇のような魔物を除けば、先ほどの指摘で間違いない。


「つまり、それらを排除すれば魔物に見つかる可能性は限りなく下げられる、ということですよね?」

「はい。ですので、調査用や戦闘用のロボットを開発しています。……そして、実際にアメリカではその試作段階のものが完成していました」

「……へぇ、そうなんですね」


 いずれは、迷宮に人間が入るということも少なくなってくるのだろうか。

 優秀なロボットが増えていけば、いずれは生身の人間の冒険者ではなく、ロボットなどに指示を出せる人やロボットの製作ができる人のほうが重宝されるようになるのだろう。

 これが、AIに仕事を奪われるということか……。


「ただ、迷宮では不規則なことも起こるため、人工知能などの開発も行う必要があり……まあ、なかなか研究は難航していたそうです」

「まあ、素人目ですが、難しそうですよね」

「そして、ここで問題なのが……この研究者のリーダーと数名が、ある日を堺に研究をやめてしまったそうです」

「大変だからですか?」

「いえ、考えの不一致故です」

「そんなバンドの解散理由みたいな。……もしかして、アメリカ政府との意見が合わない、とかですか?」


 ……俺には良く分からないが、研究者としてのプライドなどもあるのかもしれない。

 それを曲げるようなお願いをされたら、断る可能性はある。

 俺でいえば、麻耶と離れるが稼げる仕事がある、と言われてもそんな仕事はしたくないからな。

 俺の言葉に、下原さんは頷いた。


「そうみたいです。その研究者は、『美少女メイドアンドロイド』を作りたかったそうです。アメリカ政府が拒否したため、プロジェクトから離脱したらしいです」

「しょうもな!」


 思わず声をあげてしまうと、下原さんが苦笑する。


「……まあ、私も同意見です。そして、……女性型、というのは昨今、そういった部分は難しい問題もあります。ですので、アメリカ政府としては中性的な見た目に配慮したアンドロイドを開発するということで話を進めていました。そうしたら、その研究者はこのプロジェクトから外れてしまったらしいです。それも、結構な数が」

「……美少女メイドアンドロイドのためにそこまでの人間が離れるんですね」


 なんとまあ。

 でも確かに、それはある意味では夢だったのかもしれないな。


「まあ、鈴田さんにとっては、麻耶さん型のアンドロイドを作れるかどうか……みたいな話ですからね」

「なるほど。それなら離反します」

「……ですよね。そして、アメリカ政府はあのアンドロイドを見た時、研究者のデザイン案にあったものと酷似していることを思い出したそうです」

「……なるほど。つまり、どこかの組織や金持ちが研究者たちに出資して、あれを作らせた可能性がある、と」

「そういうことです」


 ……なるほどな。

 断定まではできないが、ここまでの情報をまとめると確かにその推理は当たらずも遠からず……という可能性があるな。


「あれが、仮に調査用、戦闘型のアンドロイドだとして……鈴田さん的にはどう思いましたか?」

「調査用、といっても……あれは下手すればSランク冒険者くらいはあると思いましたよ」


 あの場で軽くやり合ったが、それだけの力を感じた。

 俺の言葉に、下原さんの表情は険しくなる。

 味方……ではないように見えるあれらが敵だと考えれば、不安にもなるだろう。


「……やはり、そうですか。アメリカ政府のプロジェクトでは、アンドロイドたちは魔石を燃料にしているそうですが……特殊な加工で魔力が外に漏れないようになっているそうです」

「特殊な加工、ですか。あとでその資料とかって共有してもらえますか?」


 仮に特殊な加工をしていたとしても、魔石がある以上魔力は感じ取れるはずだ。

 資料を見れば、もしかしたら索敵のためのヒントがわかるかもしれない。


「ええ。大丈夫です。協会にありますので、戻り次第送らせていただきます。……今現在、分かっているのはこのくらいですね。ジェンスについては、未だ目覚めない状況ですので……何も進展はありませんね」

「了解です」

「それでは、我々はこれで失礼します」


 下原さんたちは一礼をしてから、乗ってきた車で戻っていった。

 扉を閉めると、リビングの方から様子を伺っていた麻耶がひょこりと姿を見せる。


「お兄ちゃん、終わった?」 

「ああ、もう何もないな」

「ヴァレリアンさん、真面目だったねぇ」

「そうな。アメリカのギルドのトップにいたわけだし……まあ、凄いよな」


 本人は最終決定をする立場であり、基本的に部下に運営を任せているそうだが、それでも最後に責任をとる立場としてのふるまいはしっかりとしているのだろう。

 それこそ、今回の一件で一度、ギルドリーダーを離れる話もあったらしいが、俺としてはそれはストップをかけた。


 だって、そうなったら【スターブレイド】で捌いていた仕事が俺のほうにくる可能性もあるからな……。

 麻耶の配信をリアルタイム視聴できなくなる可能性があるため、それは避けたかった。

 朝から珍しく動いた俺は、あくびとともに二階へと繋がる階段へお向かう。


「さて……お兄ちゃんは疲れたんで、二度寝してくるな」

「お兄ちゃん、午後から美也さんと一緒に迷宮行くんじゃなかったっけ? 寝坊しないようにね」

「ああ、分かってる」


 俺はこくりと頷いてから、部屋へと戻った。

 就寝用に麻耶の配信を流しながら眠りについた。

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