第210話


 少し休んだあと、俺は背中をぐっと伸ばした。

 良い目覚めだ。このまま三度寝をしたい気持ちをぐっとこらえ、俺はスマホを取り出す。

 そろそろ、時間だ。


 美也との待ち合わせ場所に使っているのは美也の事務所にある一室。

 美也が借りているという会議室だ。

 俺がそこにシバシバの空間魔法で移動して合流する、というのが今の基本的な流れだ。


 俺も美也も有名人なので、あまり外を自由に動かないほうがいいとのこと。

 美也のマネージャーからの話で、スキャンダルは御法度だからだそうだ。


 だいぶ、マネージャーさんの私怨が混ざっているように感じたが、俺も迷惑をかけるつもりはないので言うことに従っていた。

 

 身支度を整えていると、美也からメッセージが来た。

 会議室借りたからいつでもどうぞ、とのこと。

 さて、行くか。

 美也の魔力を見つけた俺は、その場所にあわせて空間魔法を発動し、美也のもとへと向かった。


 会議室へと入ると美也と彼女のマネージャーさんの姿があった。


「おはー。迅、迎えに来てくれてありがとね」

「おはーって……あれ? マネージャーさん? どうしたんですか? 一緒に黒竜の迷宮行きます?」


 一応魔力を感知したとき、近くにいることは分かっていた。

 問いかけるとマネージャーさんは首を横に振った。


「いえ、行きません。すこしでも美也をこの目に収めておきたかっただけです」

「最近迷宮入る頻度が多いから心配してくれてるんだよね」

「……そうですね。それに、鈴田さんは今色々と注目されていますし」


 マネージャーさんの言葉に俺は少し苦笑する。


「美也の迷惑になっちゃってるとかありますかね?」

「いや、全然。ていうか、最近あちこち呼ばれるときに迅のこととか聞かれるし、そういう関係で仕事もどんどん増えてるしむしろラッキーって感じ」


 ピースをする美也に、マネージャーさんも不満げながら頷いた。


「それは、そうですね。ただ、やはりこちらとしては不安に思う部分もあるということです」


 恐らくは、俺が今懸念しているジェンスとかの問題だろうな。

 マネージャーさんとしては、大事な美也に何かあったらと思うと不安なんだろう。


「一応、普段から俺と関わったことのある人の周りは警戒するようにしてますが、何か少しでも異変があったら言ってください」

「ていうか、マネージャー心配しすぎ。『リトルガーデン』の子たちと比べて、あーしはそこまで関わってないんだし、大丈夫っしょ」


 ……まあ、そこはどうなのか分からないんだよな。

 ジェンスみたいについでに、狙ってくる可能性もあるため不安は拭えないのも事実だ。


「……とにかく。あまり目立たないようにだけ、お願いしますね」


  マネージャーさんが念を押すようにそう言ってくる。


「今、鈴田さんはとにかく注目されてるんですから。二人で一緒にいるところとか写真にとられたらあることないこと書かれるんですからね!」

「まあ、俺たち基本的に誰もいない迷宮で訓練してるだけですし、訓練してること自体はわりと公表してませんでしたっけ?」

「してるよ。てか、むしろあーしがそういう発言すると結構な頻度であーしに対して、お兄さんのヤバげなファンが突っ込んでくるから……勘違いさせたらむしろあーしのほうが大変なことになるかも?」


 いや、さすがにそんなことはないだろう。


「まあ、どっちにしろシバシバの空間魔法で移動してるんだし大丈夫だろうな。そんじゃ、行ってきます」

「はあ、とにかく美也に怪我のないようにお願いしますよ……」


 それはもちろん、絶対だ。

 それこそ何かあったら、大変だからな。


―――――――――――

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ゲームの悪役キャラに転生した俺が、裏でこっそり英雄ムーブで楽しんでたら、俺のことが大嫌いな許嫁にバレてしまった

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