第208話
無事、麻耶たちとの配信もおえ、これでようやくレコール島に関連しての後始末がすべて解決した。
まあ、まだ分かっていないこともあるがそれはひとまず置いておこう。
ようやく、久しぶりの休みを迎えた俺だが、今日は少し用事があり俺は早起きをしてリビングへと向かう。
「あれ、お兄ちゃん? 今日早起きだね」
珍しいものでも見るかのように、麻耶がこちらを見てきた。
今日は日曜日。我が家の休日は各自、好きな時間に起床することになっている。
朝食も各自自由にとり、掃除はロボット掃除機が頑張ってくれる。
だからまあ、基本的に俺は部屋でごろごろしていることが多い。
仮に目覚めても麻耶の配信を垂れ流しているくらいだ。
「今日は用事があってな。さすがに寝坊したらまずいと思ってな」
あくびを片手で隠しながらそういうと、麻耶が意外そうに目を丸くした。
「そうなんだ? どんな用事なの?」
「ヴァレリアンが謝罪に来るそうなんだよ」
「え? そうなの?」
驚いたように麻耶がそういったときだった。
玄関のチャイムが響いた。
ちょうど、来たようだ。
「もしかして、これ?」
「そうだ。ちょっと行ってくるな」
麻耶にそう返してから、俺は玄関へと向かう。
扉を開けると、そこには予想通りヴァレリアンの姿があった。
スーツに袖を通し、果物の入ったカゴを持ち上げて彼はにこりと笑った。
……それはどちらかというと入院などをした人へのお見舞いのもののように見えるが、まあ別にいいだろう。
「おお、久しぶりだジン。色々とすまなかったな」
「いや、もう別にいいって。怪我はもう大丈夫なのか?」
「全快、とまではいかないが……まあ大丈夫だ」
変装のためなんだろう。かけていたサングラスを外した彼がにこりと微笑む。
しかし、ヴァレリアンの鍛え抜かれた体や俺よりも頭一つ分大きい体は仮に変装していても目立つ。
とてもじゃないが隠しきれないオーラが溢れ出ていた。
彼の後ろには、下原さんとさらに数名のスーツを身に着けた人たちがいる。全員、協会関係者だろう。
申し訳なさそうな表情で頭を下げてくる下原さんは、あまり最近眠れていないのか、目の下には隈がある。
……レコール島の対応など、協会関係者は忙しそうだからな。
仕方ない部分はあるよな。
「本当はゆっくり話したいんだが、オレもこの後日本の協会と予定があってな。手短に、だ――」
そういってヴァレリアンはその場で膝をついて頭を下げてきた。
いわゆる、土下座である。
さすがに、そんな行動に出るとは思っていなかったので、驚かされてしまう。
「色々と済まなかった」
……その言葉には、本当に色々なことへの意味が含まれているんだろう。
ここまでされると、ヴァレリアンと戦ってみたくて本当の話をしなかった俺としてはとても悪い気持ちにさせられてしまう。
少なくとも、彼の謝罪する理由のいくつかはそれでなくなるわけだし、ほんと悪いことしちゃったなぁ。
ヴァレリアンはあのときもそれなりに冷静であり、恐らく俺が真実を伝えれば俺と交戦する前にジェンスに確認をしていたはずだしな。
「……顔をあげてくれ。別にこっちに被害は何もないんだしな」
「それでもな。【スターブレイド】に関してや、ジェンスの後始末など、色々と押しつけてしまってな。悪いことをしてしまった」
彼はまだ頭を下げている。この謝罪を受け取らないと、彼はこのまま顔を上げることはないのだろう。
「……後で飯奢ってくれるんだろ? 俺の友人たちによく食べる奴がいてな。楽しみにしてるよ」
前に話していたことを伝えると、ヴァレリアンは顔を少しあげてから笑った。
「……ありがとな、ジン」
ゆっくりと彼は立ち上がり、それから改めて頭をもう一度下げた。
「いきなり押しかけて悪かったな。さっきの食事の件はまた今度予定がついたら声をかけるよ」
「ああ、分かった」
「それと、ジェンスと戦った時にいた奴らの情報は……オレも知っている範囲で協会に共有しておいた。詳しい話はそっちから聞いてくれ」
「了解だ」
ヴァレリアンに頷くと、彼は再び頭を下げてから、下原さんと入れ替わる。
下原さんが俺の前に立つと、小さく頭を下げてから口を開いた。
「申し訳ありません。協会としてもヴァレリアンさんと色々と話したいことがあったので」
「いえ、大丈夫ですよ。俺は別に気にしてませんから」
気遣いでもなく俺の本心だ。
まさかここまでヴァレリアンが気にしているとは思っていなかったので、こっちの方が驚きだ。
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キャラクター立ち絵、凛音、公開しました。
https://kakuyomu.jp/users/nakajinn/news/16818023213579171118
あと、前回おそらく報告忘れましたが、流花の立ち絵も公開されていますので、良かったら近況ノートから確認してください。
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