第42話

 階段を降りていくたび、おぞましいほどの魔力の圧力を感じる。

 玲奈も、ここまで大きな魔力ともなるとわかるようで、その表情が険しくなっていく。


「これ、視聴者さんに体験させたいんだけど、めちゃくちゃ凄いよ……魔力。あたしでも凄い感じるよ。ダーリン、これ視聴者に体験させる手段ってないかな?」

「なら、今度視聴者とここでオフ会でもするか?」

「いや、やっぱり却下。普通に魔力だけで体調崩すってこれ」


 ……玲奈で何とかといった様子だろう。


〈こんなところでオフ会開かれても誰もいけねぇw〉

〈そんなにやばいのか……〉

〈でも、高ランク迷宮は適正外の人は体調を崩すっていうもんな……〉

〈ここまで来れるってことはレイナちゃんも凄いんだよな……〉


 階段を降りていき、いよいよ100階層攻略開始だ。

 100階層はボスフロアだ。

 円形の広大なマップには一切の障害物がない。


 魔物が出現するまで進んでいくと、進行方向に霧が集まっていく。

 そいつはやがて、ある魔物の姿へと変化していく。

 両足でしっかりと立ち、ぎろりとこちらを睨むそいつは竜のような見た目をしている。

 ただ、黒竜に比べるとより陸に適した進化をしていて、立つために発達した両足は筋肉で膨れ上がっている。


「こいつって……竜?」

「ああ。黒竜に合わせるなら、赤竜ってところかね?」

「そうだね。翼はあるけど、そんなに飛べない感じかな?」

「だな。滑空くらいが限界だ」


 平然な様子を装っているが、玲奈は体を震わせている。

 危険なのを理解しているのだろう。


「……」


 ぎろりと爬虫類特有の瞳がこちらをとらえた。

 赤竜の標的になったのは、俺ではなくやはり玲奈だ。


 地面を蹴り付けながら、翼を広げる。地面を蹴りつけた赤竜はその勢いを活かすように翼で滑空する。

 そして玲奈に向けて拳を振り抜いたが、それに割り込んだ俺が拳を合わせる。


 お互いの魔力同士がぶつかり合い、衝撃が走る。

 まるで鋼鉄同士がぶつかったような音から遅れる形で、赤竜が吹き飛んだ。


 だが、すぐに地面を蹴り付け、赤竜は俺の側面に回る。

 尻尾が鞭のように振るわれたが、しゃがんでかわす。

 かわした先には赤竜の足が迫っていた。それを俺は腕でガードする。


 ミシミシと衝撃が伝わる。かなりの筋力だ。

 だが、俺は赤竜を超える身体強化とともに、腕を振りぬき蹴りを弾く。

 よろめいた赤竜へと蹴りを放つと、赤竜の右腕が吹き飛んだ。赤竜は即座に後退する。

 

 このやり取りが一瞬で行われた。

 固まっていた様子の玲奈をちらと見ると、彼女は慌てた様子でカメラを俺と赤竜が映るように向けている。

 このまま黙っていても仕方ないだろうし、俺は解説をしてあげることにした。


「まあ、だいたいこんな感じだな。赤竜はかなり肉体を使って攻撃してくるから、挑戦したい人は気をつけてくれ」

「だ、だそうだよ! 皆、がんばってね!」


〈いや、挑むやついないから〉

〈絶対無理だから〉

〈この戦いの時点でもうついていける気がしないんだが……〉


 赤竜がこちらの様子を伺っている間、俺はスマホの画面を眺めていたが、そんな絶望に溢れたコメントばかりだった。

 しばらくして、赤竜は咆哮をあげ、腕を復活させた。


〈腕生えた!?〉

〈こいつ再生するのかよ!?〉

〈ってことは一気に仕留めるしかないのか?〉


 ……目で見えるものだけを判断すれば、そうなってしまうだろう。

 だが、赤竜の再生は無敵ではない。腕をはやすために多くの魔力を消費することになる。


「再生はしても赤竜の魔力は減ってるからな……って、解説の途中なんだが?」


 突っ込んできた赤竜が掴みかかってきたので、俺も両手でそれを押さえる。

 お互いが手を合わせるようにして力比べをしているとき、尻尾が振りぬかれる。

 逃げようとするとぎゅっと手を掴まれる。まるで恋人繋ぎのような形となってしまい、逃げられない。


「ガアア!」


 勝ち誇るような咆哮だった。

 だが、俺はその指をすべてもぎ取って脱出する。

 そして、すかさず振りぬかれた尻尾を受け止める。


 そのまま、その巨体を地面に叩きつけ、怯んだところで赤竜の腕を潰した。

 逃げようとしたので尻尾を掴むと、トカゲのように切って逃げられる。


「……」


 赤竜は肩で息をするようにして、全身を再生させた。

 しかし、ボロボロだ。

 赤竜は完全に俺に恐れているようにも見える。最初のような威勢はすっかり感じず、俺が一歩近づくたび怖気づくかのように後ずさりしていく。


「こんな感じで再生するたび魔力を消費していくから、完全に再生するわけじゃないんだよ」

「ってことは、傷をつけまくればどんどん弱くなると?」

「そう言うことだ。ただまあ、他の魔物のように腕を切った、とかでぬか喜びしないようにな」


 ただ、再生されたからといって絶望する必要もない。

 そんな塩梅の魔物だ。


「なるほど、倒し方はだいたい分かりましたね。みなさんも参考にしてね」


〈参考になるかボケが〉

〈なんか凄い講座感あるけどやってることが異常なんだよなぁ〉


「とりあえず、ここまできたら戦闘力は黒竜くらいまで落ちてくるからな。あとはもう油断さえしなければ負けることはないからな」


 そういったとき、再び赤竜が突っ込んでくる。

 赤竜は残り少ない魔力で必死に身体強化を行っているようだ。

 無理やり戦闘能力を引き上げているが、赤竜の体がどれだけ持つか。


 まあ、最後の殴り合いだ。付き合ってやろう。

 俺も赤竜に合わせて身体強化を行い、拳を振りぬいていく。

 ほぼ互角の殴り合い。ただ、赤竜のほうが魔力の消耗は激しく、時間をかければかけるほど、俺が優勢になっていく。


 動画映えも意識して、多少加減はしていたがさすがにもういいか。

 赤竜の振り抜いてきた拳を交わし、背後を取った俺は背中を蹴り飛ばした。

 赤竜の体は吹き飛び、ぐらりと体がかたむく。

 ドサリと倒れると同時、その体は霧のように消えていき――


「というわけで、100階層突破だな」


 ドロップした魔石を拾いながらスマホを見ると、


〈すげええ!〉

〈おめでとう!〉

〈前人未到の100階層も無事突破かよ〉

〈これをリアルタイムで見られるとか、感動がヤバすぎるわな……〉

〈ていうか、100階層でも最下層じゃないのか……?〉

〈明日のニュースにまたお兄さん出るよなこれ〉


 賞賛と困惑の入り混じった不思議なコメント欄が出来上がっていた。





―――――――――――

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