第43話

 とりあえずこれで今回の配信の目標は終わったところで、玲奈が問いかけてきた。


「ダーリン、今日はここまでにする?」

「そうだな」


 玲奈の問いかけに頷く。

 まだまだ余裕があるとはいえ、いけるところまで行ってしまったら今後の配信で見せるものもなくなるからな。


「それじゃあ、今日はダーリンとあたしのラブラブ配信いかがだったかな? 今日はここまでだよ!」

「おまえ口開けばアホなことぬかすな……」

「ここから先はR18だからね」

「勝手なこと言うんじゃない」


〈レイナ! お兄様に何かしたらぶっ殺すぞ!〉

〈まあお兄様なら大丈夫でしょ……お疲れ様でした! またお兄様の配信楽しみにしてます!〉

〈お疲れさまでした〉

〈おつです。今後も楽しみです!〉

〈次の配信も楽しみにしてますね!〉

〈お兄様、また来ますね!〉


 そんなコメントたちを最後に、配信は終了となる。

 俺は小さく息を吐いてから、転移石のほうへと向かって歩いていく。

 100階層を無事攻略したので、これで玲奈も次からはここまでくることができる。

 そちらへ歩いていると、玲奈が笑顔とともにやってきた。


「マイダーリン。お疲れさまー」

「まあ、俺はいつも通りだったけどな。おまえは大丈夫だったか?」

「うん、凄い大変だったけど、大丈夫だよ。それに、あたしとダーリンの関係についても話せたしね!」

「……あれで誤解する奴いるのか?」


 俺含め、コメント欄でもまったく賛同する人はいなかったが。

 むしろ、玲奈が炎上するのではないかという心配もあるくらいだった。


「誤解してくれたらいいよねー。ほら、迷宮の外出よう出よう」


 玲奈が転移石へと小走りで向かい、俺もそのあとをついていき迷宮を脱出した。

 玲奈を一人家に帰しても問題ないと思うが、まあ一応彼女も女子高生だからな。

 駅までは送っていくことにした。

 帰り道。夜空を眺めながらのんびりと歩いていると、玲奈がぽつりとといかけてきた。


「ねぇ、あたしとマイダーリンが会ったときのこと、覚えてる?」

「迷宮爆発が発生したときのことか?」

「うん、そのとき」


 五年ほど前だろうか?

 当時はまだ黒竜の迷宮がなく、高ランク迷宮に潜るには遠征するしかなく、たまたま俺が遠征で訪れていた迷宮の近くで迷宮爆発が発生した。

 俺が迷宮から外に出たときは、すでに迷宮爆発によってかなり危険な状態となっていた。


 一応、俺が外に出たときにはすでに迷宮爆発を押さえるためにトップギルドが動いていたため、俺は人々の避難誘導を優先した。

 すでに多くの人は避難していたが、逃げ遅れてしまっていた人もいた。

 その中に、玲奈とその家族が残っていた。


 当時はまだ小学六年生だよな?

 俺が玲奈たちの魔力に気づいて向かったとき、すでに玲奈とその両親はボロボロの状態だった。

 両親は魔物にやられ、放っておけば死にそうな様子だった。

 玲奈がまさに魔物たちに襲われそうになっていたところで、俺が到着し、持ち歩いていたポーションで両親を回復させた、という感じだ。


「お兄さんが無償で使ってくれたポーション……凄い高かったでしょ?」

「まあ、高くはあるが人の命よりは安いぞ?」

「だけど、まったくお金とか払えてないし! お礼できてなくてパパとママも困ってたんだからね!」

「別にお礼目当てで助けてるわけじゃないしな」

「でもせめてポーション代くらいはもらってほしいものだよ!」


 といっても、それこそ俺が勝手に使っただけだ。

 人によっては、「勝手に回復させておいて」という人もいるのだから、玲奈の両親たちはかなり真面目な人だ。


「というわけで、まだ恩返しができてないからあたしがダーリンと結婚するってことにしたんだよ!」

「恩返しが結婚って……どういう思考回路してるんだ? 両親はなんて言ったんだ?」

「いいね! って」

「そうだった……玲奈の家は家族全員ネジ外れてるんだった……」

「ねね。あたしってかわいいし、尽くすし、悪くないでしょ?」


 体を寄せてきてにこりと微笑んでくる玲奈に、俺は小さく息を吐いた。

 その肩を押し返すようにして、俺は彼女に背中を向ける。

 もう駅近くなので、玲奈一人で大丈夫だろう。


「恩返しなんて考えなくていいから。玲奈が楽しくやりたいことやって生きてる姿が見られれば、それだけで十分だからな」


 それが俺の本心だ。

 そう伝えて歩き出した俺の背中に、玲奈が飛びついてきた。


「じゃあ、やっぱりあたしはマイダーリンと結婚しないと! あたしにとって一番の幸せなんだしね!」

「……おまえな」

「そういうわけで、これからもよろしくね!」

「……へいへい」

「それじゃあ、あたしは帰ります! またね!」


 ひらひらと手を振って、俺は玲奈と別れた。


 玲奈は俺と一緒にいるとき、楽しそうにしてくれている。

 ……その楽しそうに生きている姿が、俺の見たかったものだが、それには俺がいる必要があるのだろうか?

 ……ううむ、難しい。別に俺は結婚は考えてないからな……。

 玲奈が他に楽しい生き方を見つけてくれることを願うしかないんだよな。



―――――――――――

最近サポーターの方々が増えてきたため、近況ノートを更新しました。

今後、サポーター限定記事も更新しますが、そちらを見ないと本編が分からない……ようなことには絶対にしませんので、そこだけはご理解いただけると助かります。



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