第44話



 日本国内には五つの有名なギルドがあるが、その中でも特に迷宮攻略が得意なギルドが【雷豪】だった。

 【雷豪】は、国内の危険な迷宮をいくつも攻略してきた実績があり、その成功確率は99%と言われているほどだった。

 ……1%。

 たった一度のミス。

 その悲劇は、今では『黒竜の迷宮』と呼ばれているそこで起きた。


 当時のリーダーである志藤は国の要請を受け、Sランク迷宮の攻略を依頼されていた。

 というのもだ。

 別の国にあったSランク迷宮で迷宮爆発が発生し、一つの国が消えたからだ。


 このまま、放置していれば日本も同じことになるのではないか……?

 そんな不安を抱いた日本の上層部から、【雷豪】ギルドへと依頼が出されたというわけだ。


 【雷豪】のリーダーは、もちろん万全の準備を行い、黒竜と戦いを挑み……そして敗北した。

 黒竜をあと少しのところまで追い込んだのだが、疲労によって動けなくなり、死んだ。

 ……その戦いの記録は、同行していたカメラマンによって撮影され、【雷豪】ギルドにも今なお保管されている。


 【雷豪】ギルドは当時サブリーダーだった、武藤大志が引き継ぎ、リーダーの復讐を胸に黒竜討伐を掲げ、準備を進めていた。

 それほどまでに、【雷豪】ギルドにとっては因縁の深い第95階層。


 もうまもなく、挑戦する予定だった第95階層が――


「え? ……黒竜が攻略された?」


 迷宮から出た武藤は、拠点としていた海外のホテルに戻ってきたところで待機していた秘書に声をかけられる。


「ええ、そうです」

「……な、なんだと!? それは本当か!?」


 現在武藤を中心とした【雷豪】ギルドの一部メンバーは、海外の依頼を受けていた。

 内容はAランク迷宮の攻略だ。


 転移石がない迷宮であり、ネット回線も悪い。そんな迷宮に一か月ほど入っていた武藤たちはまるで外の情報を得られていなかった。


「……はい」

「どこのギルドだ? 【炎魔】か? 【ブルーバリア】か? それともまさか、他の無名のギルドか!?」


 武藤があげた二つのギルドは、【雷豪】と並ぶほどに迷宮攻略に力を入れているギルドだ。

 残り二つのギルドは、迷宮攻略というよりも犯罪抑止に力を入れている。警察と連携し、冒険者が関わる犯罪に関しての逮捕権を有する特殊なギルドだ。

 能力は高いが、対魔物というよりは対人間に特化している彼らは迷宮攻略はそこまで得意ではない。


「……それが、そのなんといえばよいのか……こちらのニュース記事とこちらの配信を見てください」

「……ニュース記事はともかく、配信?」


 チャンネル登録済み、と表示されているそのチャンネルの画面を見せた武藤の秘書。

 武藤は困惑しながらその画面を見て、さらに困惑することになる。


「……な、なんだこれは!? 黒竜に一人!? しかも……年は二十そこら……!? い、一体なにが起きて……なんなんだこれは!?」


 そこに映っていたのは、圧倒的すぎる戦闘だった。

 【雷豪】が武器や装備をかき集め、黒竜の対策を立てていたというのに、それをあざ笑うかのように体のみて戦う彼の姿に、武藤は愕然としていた。


「……彼はマヤチャンネルというマヤという配信者のお兄さんでして。今はお兄さんと呼ばれていますね」

「そ、それは……分かった。いや、何も分からないのだが……理解はしよう。ああ、理解した。……それで、黒竜を一人で討伐したということは、『黒竜の迷宮』を攻略したのか?」


 【雷豪】の悲願を達成できなかったことに悔しさはあったが、日本の安全が最優先だ。

 しかし、秘書は首を横に振った。


「いえ、先日100階層までの攻略配信を行いましたが、まだまだ先があるようでした」

「……まだまだ、先がある……のか」


 黒竜を討伐すれば、Sランク迷宮は終わりだと考えていた武藤たち【雷豪】ギルドにとっては、かなり衝撃を受けることになった。

 しかし、武藤はリーダーとして冷静だった。困惑や混乱がある中で、問いかける。


「……このお兄さんという人は、どこかのギルドに所属しているのか?」

「無所属ですが、配信者を扱っている事務所『リトルガーデン』に所属しています」

「それなら、すぐに接触してくれ。契約金はいくらでも用意していい……彼を引き込めたギルドが、日本のトップギルドになるぞ……」

「……念のため、すでに連絡は入れていますがすべて断られています。……そもそも、彼ほどの実力を持つ者が、わざわざギルドに所属する必要もないと思いますし……」


 秘書の言葉に頷くしかない。

 黒竜を単騎で圧倒できるほどの人間が、わざわざどこかに所属する理由は少ない。ギルドへ所属する人の多くは、育ちやすい環境や安定した稼ぎなどを求めている。

 すでに彼はその域から脱している。ある程度育った人がギルドから独立することも珍しくなく、すでに彼はその領域にいる。


「それなら……交流だけでも取ろう。どうにかして、お兄さんと接触する手段を考えてくれないか?」

「それでしたら……コラボ配信というのはどうでしょうか?」


 秘書はなぜか目をキラキラと輝かせている。

 【雷豪】ギルドも配信サイトにてチャンネル運営を行っている。新規ギルドメンバーの募集や、冒険者としてのマナー講座などをあげている。


「……なんでもいい。とにかく、なんとしてでも交流しておく必要がある。……ギルドに引き込むことはできなくても、何かあったときに相談できるパイプが用意できれば、それだけでもギルドにとっての強みとなる」

「分かりました。それではすぐに『リトルガーデン』に連絡を行います!」

「……妙にやる気だな」

「私、お兄さんの大ファンですので」

「……と、とにかくだ。すぐに日本に戻るぞ」

「はいっ。お兄さん……いえ、お兄様……会えることを楽しみにしております……!」


 不気味な笑みを浮かべる秘書に、武藤は頬を引きつらせながらもすべてを任せることにした。





―――――――――――

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