第45話
事務所には休憩室があり、そこで軽く雑談などができるようになっていた。
会議室がすべて埋まってしまっているときなどは、ここで打ち合わせをすることもあるのだが……今俺はその休憩室で麻耶と凛音とともにくつろいでいた。
「麻耶ちゃんはともかくお兄さんがここにいるのって珍しいですね」
麻耶と凛音はわりと頻繁に事務所へきているようだが、確かに俺は呼び出されない限り来ることはない。
それでも二週間に一度くらいは来ているので、俺的には頻繁なほうだと思っているんだけど、二人は週に一度以上は来ているようだ。
「お兄ちゃんが外に出ること自体珍しいからね。」
「普段は麻耶のチャンネルしか見てないからな。凛音は最近どうなんだ?」
俺の日課を伝えつつ、凛音に話を振る。
「……私も迷宮に潜っていますよ。Dランク迷宮くらいなら戦えてますし、配信でも流していますから今度見てください」
ちょっとばかり凛音はむっとしたような表情とともにそういってきた。
用意していたお菓子をパクパクと食べていく速度も速くなっている。
あまり食べすぎると太るぞ、とは思ったが冒険者として活動している彼女には無縁の話なのかもしれない。
「Dランク、ってことは魔法も使っているのか?」
「使ってますよ。お兄さんのおかげで、わりと使えるようになってきましたからね」
「そうか。無理しないように頑張れよ。おまえに死なれたら俺も麻耶も悲しむからな」
俺が微笑みながら答えると、凛音はさっと視線を外した。
「……っ。はい、無茶はしませんよ」
「そうそう。私と凛音ちゃんで今度一緒に配信するからね。お兄ちゃん、楽しみにしててよ!」
「だから、今日は二人でここに来てたんだな」
「うん。もう打ち合わせは終わったけど、色々と話したかったから休憩室に来たら……お兄ちゃんがいたってことっ」
麻耶がにこーっと今日も人を幸せにする笑顔を浮かべる。
麻耶の笑顔さえあればこの世から争いはなくなるだろう。
そんなことを考えていたところで、休憩室の扉が慌ただしく開かれた。
ちらと見ると霧崎さんだ。
少し呼吸を乱していた彼女は、それからすたすたと俺のほうへやってきて声を震わせる。
「迅さん。コラボの依頼が来ました」
「え? コラボですか?」
また玲奈のような相手ではないだろうか?
ちょっとばかり警戒してしまう。
「相手は……あの、大手ギルド【雷豪】のリーダーです」
そういったとき、きょとんとする俺と麻耶とは裏腹に凛音が驚いたように目を見開いた。
「き、霧崎さん! 【雷豪】ってホントですか!?」
「は、はい……。私も会社宛てのメールを確認したときは驚きました……今度、【雷豪】のリーダーである武藤さんと模擬戦をしてほしいという内容のコラボですね」
「……も、模擬戦って。え、Sランク冒険者同士の、ですよね?」
「はい……まあ、正確に言うと迅さんはSランク冒険者ではありませんが……」
能力測定をしたわけではないので、公式に残っている記録ではGランク冒険者である。
「……お兄さんでSランク冒険者でなければこの世のほとんどの人がSランク冒険者じゃなくなりますよ。お、お兄さん……良かったですね」
「よかった、でいいのか? ギルド相手となると色々と面倒になるんじゃないか?」
「でも、大手ギルドとコラボ、それも模擬戦ともなれば恐らくかなり注目を集めますよ?」
「マヤチャンネルのアピールができる、ってことか……」
「……いや、まあ……はい、そうですねー」
凛音が呆れたようすであったが、確かにそれはいい話だ。
大手ギルドとなると確かに注目を集めることが多いだろう。
「まあ、最終的に決めるのは迅さんです。どうされますか?」
「別に受けてもいいですけど……模擬戦ですよね? ちゃんとお互い怪我しないような準備をしてくださいとだけ伝えておいてください」
相手の実力は分からないが、お互いどうなるか分からない。
本気でぶつかりあったら、どちらも無傷ではいられない可能性もある。
「分かりました……! それでは早速返答しますね!」
霧崎さんは凄い勢いで去っていった。
……次の配信の打ち合わせをしにきたのだが、たぶん内容はコラボについてとなるだろうな。
「お兄さん……あっさりコラボ決めましたね」
凛音が苦笑とともにこちらを見てくる。
……俺がわりと配信をすることに関して後ろ向きだからだろう。
「まあな。マヤチャンネルのアピールになるしな」
「……もう、ほどほどにしてよね? 最近なんだかすごいファン増えてきて大変なんだからね?」
「それだけ麻耶が魅力的ってことだ! 皆に気づいてもらえて良かったな!」
「もう」
麻耶がぷくーっと頬を膨らませていたが、それさえも可愛い。
……まあ、今回ばかりは俺の私情も挟んではいる。
――強い相手と戦えるというのは嫌いじゃない。
それも合法的にSランク冒険者と戦える場なんて滅多にない。
だからこそ、今回に関しては俺もかなり乗り気だった。
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