第160話





 銀行強盗に遭遇してから数日が経過していた。

 ……再び俺は、マスコミたちに追いかけまわされる日々となってしまった。

 というのも、『銀行強盗を華麗に処理した正義の味方!』とかいう感じで報道されたからだ。

 また、ちょっとだけ騒がしくなってしまったが、それはもういつものようにと協会にお願いして対応してもらった。


 まったく。

 どうしてこう面倒なことに巻き込まれるんだかな……。

 俺としては、平穏無事にマヤチャンネルの布教さえできればそれでいいのだが、どうにも周りが放っておいてくれないな。


 そんな俺は今、下原さんとの待ち合わせ場所に来ていた。

 実は、今日は協会からの依頼で一つの迷宮攻略をすることになっている。

 依頼自体は俺以外にも出されていたようだが、俺としては最近、色々と協会のお世話になることが多かったので、この機会に少し恩を売っておこうというわけだ。


 それも配信の許可ももらっているため、俺としては至れり尽くせりという感じだ。

 銀行強盗の対策をしたってことで、「また配信をしてくれー!」と視聴者たちがうるさいそうだ。


 待ち合わせ場所に早く来てしまった俺は、気配を消しながらぶらぶらとしていたのだが、スマホに着信があった。

 知らない番号からの電話だ。

 それもこれは恐らく海外からではないだろうか?


 もちろん不審な電話には出ないのだが、それから何度か電話がかかってきた。

 ……もしかして、知り合いか?

 俺の海外の知り合いといえばヴァレリアンとかジェンスとかだ。

 でも、どちらも番号を交換したわけではないんだよな。……そもそも、知り合い、と言っていいのかどうかという関係でもある。


 あまりにも何度も着信があったため、俺は怪しみながらも電話に出ることにした。


「もしもし?」


 声をかけると、しばらくして向こうからも返ってきた。


『もしもし、おお、ジンか?』


 ……流暢、とまではいかないが丁寧な日本語で話してきた声には、聞き覚えがあった。


「……その声はもしかして、ヴァレリアンか?」

『ああ、そうだ。悪いないきなり電話して』


 電話先では恐らく苦笑でもしているのではないだろうか? そんな雰囲気を感じさせる返答だ。

 それにしても、電話番号をなぜ知っているのか?

 色々気にはなったが、まあ【スターブレイド】のリーダーともなれば権力も集まることだろう。

 このくらいのことは造作もないのかもしれない。


「それは別にいいけど、日本語話せたのか?」

『いや、勉強したんだ。ちょうど今入院中で、時間が有り余っていてな、勉強にはちょうど良かったのさ』

「入院中?」

『おまえとの戦いの傷がまだ完全には癒えていないんだ。毎日回復魔法で治療してもらっているんだがな』


 ……そこまで深手だったのか。

 一応傷は残らない程度に加減したつもりだったが、それでもあの装甲魔法のこともあって力加減を誤ってしまったか。

 ただ、さすがに世界ランキング2位だった冒険者なだけある。

 学習能力の高さは凄まじいな。


「それは悪かった。……こっちも謝罪はもう大丈夫だぞ?」

『そっちがそれでもこっちはそうはいかないんだ。本当にすまなかったな』

「……ああ、分かった。それで? これで用事は終わりか?」

『オレはしばらく【スターブレイド】での活動をしばらく辞めようと思ってな。色々と恩義があったからアメリカ政府には協力していたんだが、どうにも裏で色々していたらしくてな』

「……まあ、どこの国でもそうじゃないか?」


 中国やロシア。その他の国でも定期的にそういった黒い話は出てくる。

 それらは結局表沙汰になることはないが、恐らく洗脳魔法に準じた力を持っている者はいるのだろう。

 日本だってそういうことはしているかもしれないが……だとしては冒険者の質が低いんだけど。


「まあ、そうだな。ただオレとしてもしばらく休みたかったしちょうどいいってわけだ。ってまあ、オレの身の上話をするために電話したんじゃなくてな……一つ気になることがあってな」


 それまでのどこから朗らかな空気から一変、緊張感のある声が耳に届く。

 わざわざそういうのだから、よほどのことなのだろう。


「どうしたんだ?」

『――ジェンスが姿を眩ませたらしい』


 ……ジェンスか。

 そもそも、俺とヴァレリアンが戦うことになった元凶ともいう人間だ。

 あまりいい思い出はなかった。


「……色々とやばい情報を持っていたから、切り捨てられたとかか?」


 俺の発想はそんな映画とかのものだ。

 よくこんな感じで尻尾切り、というのがあるからな。

 しかし、ヴァレリアンから返ってきた言葉は少し違う様子だ。


―――――――――――

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