第213話
まあ、俺無職だし。最近は冒険者以外の活動もしているので、個人事業主を名乗ってもいいのかもしれないが、稼ぎが不安定なことに変わりはない。
友人をそんな相手にくっつけたくはないだろう。
「それじゃあ、迅は今フリーってことだ」
「そうだな。それが確認したかったのか?」
「そうそう。なんでか分かる?」
「馬鹿にするためか?」
「いや、違うし。あーしそんな性格悪くみえる?」
「いや、見えないけど。以外な一面でもあるのかと思ってな」
まあ、ちょっとした悪戯心とかを見せることはありそうだけど。
「まあ彼女に限らず、親しい相手はなるべく作らないようにしていたってのもあるな」
「え? なんで」
不思議そうに問いかけてくる美也。
「力がある人間は、善悪問わず様々なことに巻き込まれる……と思わないか?」
それが、俺の理由の一つだ。
金を持っているとわかると親戚が増えるように、色々と面倒なことが増えていく。
だから、基本的に目立つような行為は避けていた。
そして、実際、この前のジェンスのような問題が出てきてしまった。
俺の言葉に、美也も思うところはあるようだ。
「……まあ、ねぇ」
「美也も……冒険者じゃなくてもモデルで色々とあるんじゃないか?」
「めっちゃあるから、気持ちはわかる」
モデルとして、苦い思い出があるようで美也は顰めっ面を向けてくる。
「冒険者って結構酷いやつらもいてな。才能に嫉妬して蹴落とそうとするやつもいるし、俺もソロで活動しているときにそういうやつを見たことがあったんだよ」
「……まあ、たまにそういう問題もあがるよね」
パーティー全員が結託して罠にはめようとした、とかな。
あとは、レアな装備や魔石がドロップしたときには、それを奪い取るために仲間を犠牲にするとか……。
とにかく、そういった問題事が起きやすいのだ。
目立つというのはいい意味でも、悪い意味でもロクなことが起こらない。
「最近、周りに人が集まってきただろ?」
「ハーレムって感じ?」
「違う。この前、ジェンスが麻耶たちを狙ったのは知ってるか?」
「あー、うん聞いた聞いた」
「ついでに一緒にいた流花、凛音、たぶん美也も一緒にいたら巻き込まれていたと思う」
「……まあ、そうだね」
「だから、俺はこれまで表で活動することはしてこなかったんだよ。麻耶がある程度育つまではな。もう高校生だし俺も結構力をつけたから大丈夫かと思ったけど、厄介な奴らってのは本当に面倒なんだよな」
「……そっか」
「今までは麻耶だけ見てればよかったんだけどなぁ。抱えるものが多いと大変だよな」
俺は小さく息を吐いてから、美也を見る。
彼女は悩むような素振りを見せてから、伏目がちに問いかけてくる。
「迅……えっと、その……じゃあ、もしかして……その……」
「まあ、でも今の居心地もいいからな。麻耶を守るついでに全員守ればいいだけなんだけどな」
大変なことは増えたが、今の関係を断ち切りたい、とは思っていない。
今の皆の成長を見る生活も楽しいし、配信で視聴者と関わるのも楽しい。
何よりマヤチャンネルがぐんぐん成長していくわけだしな。
「だから……今まで表に出てこなかったんだ」
「いや、麻耶の配信見るのに忙しくてだ」
「だよね」
俺の言葉に彼女は苦笑して立ち上がった。
「でも、あーしは会えて良かったし」
「マネージャーさんには心配させちゃってるみたいだけどな」
「そりゃあ、それがマネージャーの仕事だからね。リスク管理をしっかりしないと。でも、別に本気で嫌がってるわけじゃないし。プライベートでは、普通に迅の話題もするし」
「そうなのか?」
「まあ、あーしとの関係を完全に疑ってるんだけど」
「ああ、そういうこと」
「あーしは迅と会えなくなるほうが寂しい……っていうとなんか意味深?」
「そう言ってもらえるのは嬉しいもんだ。俺だって、せっかく知り合った人たちと会えなくなったら寂しいっての」
「そっか。それじゃあ、これからもよろしくってことで大丈夫?」
「大丈夫だ」
笑顔を浮かべた美也はそれから気合を入れるように立ち上がった。
「うっし。とりあえず、足手まといにならないようにもっと強くならないとってわけっしょ」
「足手まとい、とは思ってないけど……まあ、強くなりたいっていうなら協力はする」
「それじゃあ訓練再開するよ、師匠!」
「ああ、了解」
美也の気合いに頷き、俺たちは訓練を再開した。
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