第74話


 冒険者協会の役目は、主に三つ。

 素材の買い取り、冒険者の管理、迷宮の管理だ。

 素材の買い取りに関しては特に大きなことはない。迷宮で入手されたものは個人で使用する範囲以上では使用してはならない。


 武器への加工や、例えば装備品をドロップした場合などだ。それらは個人で使っても問題ないが、それ以外の素材はすべて協会にもっていく必要がある。

 すべて協会へもっていき、そこから必要な場所へと配分されていくという流れになっている。


 ……それでも、闇市場を見れば違法な取引は後を絶たないようだが。

 冒険者の管理は、冒険者が市民にその力を行使しないように管理するというものだ。冒険者が問題を起こした場合には警察と連携し、解決する能力が求められていて、腕に自慢のある人たちが所属する課もある。

 ……まあ、根本的に人手不足なのだが。


 そして、もっとも大変なのが迷宮の管理だ。主に、迷宮爆発がしないよう、迷宮から漏れ出す魔力を測定し、その管理を行うのだが……これが大変だ。

 迷宮爆発が起こる前の迷宮は、あふれ出す魔力がそれまでと比較して大きくなる。だから、突然変異を除けば基本的に対処可能なことが多い。


 政府としては「迷宮爆発が起こるぎりぎりまで迷宮は残し、その恩恵にあずかりたい」のだ。

 だから、多少迷宮からあふれだす魔力が増えたところで、すぐに処理するというのはできない。

 まずは政府を通し、処理していいのかどうかお伺いをたてる。日本ではこれが当たり前にあるため、協会の独断で処理してはいけないのだ。


 だから、対応が遅れる。そして、迷宮爆発が発生してしまった場合、政府は協会に責任を押し付ける……という感じだ。

 以前、協会で仕事していた人から聞いたことがあったので、そのあたりの内部事情には詳しい俺だ。


 その人の話曰く、「冒険者として稼げるなら協会になって所属しないほうがいい」そうだ。

 協会で働くというのはボランティアをやるようなものだと思え、と教えられた。


 ただまあ……そんな政府を多少無視して、強権でもって対応していけているのが、


「初めまして、鈴田迅さん。今日はよろしくお願いします」

「初めまして、こちらこそよろしくお願いしまーす」


 ……今俺の目の前にいる冒険者協会の会長――秋風源田さんだ

 すでに年齢は70に近かったはずだ。

 だが、他の同じような年齢の人たちと比べ、明らかに見た目は若々しい。

 冒険者として活動を続けていたこともあり、その体もまだまだ迷宮に潜っても。

 能力も非常に高い。


 対面してみればわかるが、彼の体に内包された魔力だ。おまけに、魔力をいくらか抑えていて、その本気の力を見ることはできそうにない。

 彼の左右には護衛として黒服の男性が二人いたが、恐らくこの中でもっとも強いのは会長だろう。


 会長たちと並ぶようにして、麻耶と霧崎さんもいる。

 麻耶が大きく手を振り、霧崎さんも軽く頭を下げてくる。

 今日はちゃんと時間通りに来たのだが、どうやら到着は一番俺が遅かったようだ。

 ……麻耶とは一応一緒に家は出てきたはずだが、どこで遅れてしまったのだろうか?

 あれか、電車の乗り換えか。麻耶はさっさと移動していったが、俺は面倒でゆっくり歩いて乗り換え電車を一つ遅らせたし。


「それでは、さっそく測定室に行きましょうか」


 会長の言葉に頷き、俺たちは測定室へと向かった。

 そこには大きな機械があった。

 人間の体内の魔力を測定し、それを数値として示してくれるものだ。

 霧崎さんがカメラの準備を行ったところで、俺、麻耶、会長の三人で測定機を背景に並ぶ。


「それでは皆さん。準備は大丈夫ですか?」


 今日の配信では、俺たち三人で話をしていくことになる。俺たちは顔を見合わせ、頷いた。

 確認した霧崎さんがこちらにカメラを向け……俺たちの配信が始まった。

 配信を開始すると、測定室の部屋に置かれたモニターに配信の様子が映し出される。


〈お兄さんマヤちゃんおはよう!〉

〈マジで今日測定するのかw〉

〈すでに待機している人たちが200万人もいるじゃねぇかw〉

〈日曜日の朝っぱらからみんな何してんだよw〉


 最初から、凄い勢いだ。

 コメントはすでに目で追えないほどの速度で、日本だけではなく海外のコメントも数多くある。

 アレックスとの戦闘をきっかけに、本当に人が増えたな。


「みんな、おはよう! 今日は私の自慢のお兄ちゃんがとうとう能力測定をするということで、私は一般人代表としてついてきました!」

〈一般人……?〉

〈あれ、マヤちゃんこの前余裕でEランク迷宮攻略してませんでしたか……?〉

〈普通にマヤちゃんも強いんだよなぁ……そりゃあお兄さん基準にしたら一般人かもしれないけど〉


「というわけで……会長さん! あとの説明お願いしてもいいですか?」

「ええ、いいですよ」


 にこりと微笑んだ会長が一歩前に出て頭を下げる。

 それはそれで、コメント欄は大きく盛り上がる。


〈おお会長さんじゃないか!〉

〈いつもお疲れ様です……本当に色々〉

〈冒険者関連で国民のために頑張っているのは知っています! しっかりやすんdねください!〉

「はは、暖かいコメントをありがとうございます。迅さんが協会に所属してくれれば、私ももう少しラクな老後を送れるかもしれませんし……どうですか? 私の後釜候補として協会に来るというのは?」

「え? 部下全員にマヤチャンネルの登録と視聴を義務付けますよ?」


 俺がそういうと、会長は苦笑した。


〈草〉

〈万が一会長になったら日本の冒険者関連が終わるわw〉

〈ていうか、毎日謝罪会見開くことになりそうだなw〉


「それは……どうですか、皆さん?」


 測定室にいた記録員や護衛の黒服たちが皆苦笑していた。


―――――――――――

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