第73話


 体を拘束するように踏みつけ、俺は左手に持ったスマホでディスペアナイトの顔を映した。


「そんじゃ、これで終わりだ!」


 その叫びとともに拳を振りぬき、ディスペアナイトの胸を拳で貫いた。

 ディスペアナイトの体は霧のように消え、素材がドロップする。


〈やりやがったw〉

ノイロス〈……マジで一人で討伐したよ! お兄さん、さすがだ!〉

〈ディスペアナイトもお兄さんの前ではどうしようもないってか……〉

〈まあでも一応迷宮爆発状態と比較すればディスペアナイトも弱いから……〉

〈それは確かにそうだよな……。Sランク迷宮の爆発とか考えたくもないな〉

〈お兄様最強ですわぁ!〉


 俺はそれをちらと見てから、次の階層へと向かう。

 111階層へ降りると、また草原のようなエリアになっていて……見たことのない魔物がいる。

 ただ、挑むのはまた次の配信でいいだろう。俺も、最近は配信というものを理解してきたからな。


「おお、新種の魔物がいるな。まあ、今日はもう十分体動かしたし、次からはこの階層の攻略を進めるってことで……そんで、今日の配信は結局需要あるのか?」


 ほとんどコメントは拾えていない。

 ちらと配信画面を見てみると……視聴者は100万人をこえていた。


〈……需要あるんだよなぁ〉

〈むしろありすぎだよな……〉

〈お兄さんの無双配信楽しかったです!〉

〈ただ、やっぱりカメラマン込みで一人で活動してるとコメントをあんまり読んでもらえないのは残念だなw〉

ノイロス〈お兄さん、やりすぎるな……今日も楽しかったよ。また見にくるよ〉


「マジか。結構需要あるんだな。まあ、次またやる機会があったらそのときにな、皆。次は、たぶん協会での能力測定だから、そんじゃまた」

〈能力測定……やばいよな〉

〈世界が注目してるはずだぞ?〉

〈Sランクは確定だろうけど、あとはその先、だよな〉

〈さてさて、当日はどうなるのか……お兄様、楽しみにしてます!〉


 とりあえず、今日の予定はこれで終わりなので、俺はそのまま配信を終了した。

 転移石から一階層に戻り、迷宮から出たところで、


「お、お兄さんですか?!」

「うおっ、なんだよこれ」


 外にはたくさんの人で溢れていた。

 今日は配信時間も長かったからか、どうやら黒竜の迷宮で配信していると聞きつけて、人が集まってきたようだ。


「さっきの配信見ていました! 楽しかったです!」

「ああ、そうかそうか。まあ、ちゃんと皆マヤチャンネルの登録しろよな?」

「もちろんですお兄様!」


 目をきらきらと輝かせる皆に、俺は少し怖いものを感じながら、適当に話をして家に帰宅した。






 東京都中央区にある冒険者協会本部。

 本日俺はいつものフード付きの服に身を包み、現地へと来ていた。

 麻耶、霧崎さんとも現地で落ち合う予定だ。麻耶のLUINEが届いており、すでに中に入っているそうだ。


 本当は一緒に行きたかった……っ! 久しぶりの麻耶とのデートだと思っていたからだ。

 だが……だが!

 俺が一緒に行動すると非常に目立ってしまう。お互い気配を消し、慎重に歩いたところで見つかるときは見つかる。

 そうなると、予定の集合時間に間に合わない可能性があるので、俺と麻耶は別々に行動することになった。

 ……まあ、麻耶もその超絶的な可愛さから目立つんだしな。


 まさかちょっとマヤチャンネルの宣伝するためだけに配信者になった結果、こんなことになるとは思っていなかった。

 その分、家や迷宮で麻耶と一緒に動く時間は前以上に増えたので、俺としてはいいのかもしれないが。


 冒険者協会、か。冒険者協会は俺の印象では色々と可哀想な立場、というものだ。

 政府からは「冒険者が事件起こさないようにちゃんと指導してね? ちょっと? 素材もちゃんと見て、違法に出回らないようにな? 迷宮が爆発しちゃってるじゃん? なんでちゃんと仕事しないの? 国民の皆様、すみません。協会の人間がすべて悪いんです……」という感じで、色々と無茶なお願いをされてしまっている。


 ……それに見合うだけの給料が支払われているのかといえば、まあ普通の公務員と同じくらいしかもらっていないからそりゃあ志望者も減るというものだ。



―――――――――――

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