第113話


 冒険者として活動できるくらいの子なら、Gランク迷宮でコツコツ稼いでいても購入可能だろう。


 それをこのおしゃれ装備に割くべきかという部分に関してだが……冒険者活動を出会いの場、として考えている人にはありなのかもしれない。

 誰もが本気で生活するために、冒険者活動をしているわけではない。

 特に、日本の冒険者なんて九割ほどは副業冒険者だったはずだ。


 冒険者、として強くなりたい人ならそもそもこういった見た目重視の装備品は買わないだろうから狙うターゲット次第か。


 若い冒険者がおしゃれを重要視するというのであればこういった服装も大事なのかもしれない。

 用意してもらった服に着替えたところで、衣装室から出ていよいよ撮影開始だ。

 準備を終えた有原と向かい合ったところで、カメラマンに声をかけられる。


「それじゃあ撮影始めましょうか! まずは二人とも手を握ってね! 最初は付き合い始めのカップルを意識してね!」


 え? いきなり?

 そう思ったが、すぐに有原は俺の手を握ってきた。


「それじゃあ、失礼しますね」

「ああ、了解」


 俺も握り返しながら、カメラのほうへと顔を向ける。


「あっ、こっち向かなくていいですよ! カップルが自然に談笑しながら歩いている姿を撮影しますので!」


 ……なるほど。

 といっても、自然にと言われるとそれはそれで困るな。

 しばらくお互いに歩きながら、カメラマンが同行して撮影をするという感じだ。

 しかし、なかなかうまくいかないようだ。


「うーん、もう一回かな! お兄さん、表情硬いよ!」

「……わかりましたー」


 表情としては普段通りにしているつもりなのだが、まだまだダメなようだ。

 これは思っていたよりも大変だ。

 再び歩き始めたところで、有原がこちらを見てきた。


「ねぇお兄さん。今は雑談おっけーだし、冒険者の話とかしない?」

「ああ、別にいいぞ。何が聞きたい? 麻耶の話とか?」

「あはは、配信で何度か見たけど本当にマヤちゃん大好きなんだね」

「当たり前だ。冒険者の話って言ったらそれくらいしかなくないか?」

「いやあるし。あーしももっと強くなりたいの。お兄さんって結構指導とかしてるっしょ?」

「ああ、魔力の使い方とかか?」

「そうそう。ちょーっとあーしのも見てほしいっていう感じなんだけど、撮影とか終わったあととか、撮影とかで迷宮内に行くときとかに見てもらってもいい?」

「別にいいぞ。やる気あるやつの支援はいくらでもするからな」

「え? あーしがやる気あるってこと?」

「いや、やる気あるだろ? 結構毎日しっかり剣振ってるだろ? そいつのやる気がないとは思えないんだけど」

「……」


 俺が笑みとともに答えると、彼女は一度驚いた様子でそれから少し嬉しそうに笑った。


「さすが、Sランク冒険者だね。半端ない洞察力じゃん」

「いや、別に。握手したときに気づいただけだから、間違ってたなら悪いな」

「いやいや。あーし、どこいってもモデルが本業、片手間で冒険者活動してる、みたいな感じで言われているんだけど、知ってる?」

「知らん。悪いが……ぶっちゃけると今日初めて知ったからな」

「あはは、お兄さん事前情報通りの人じゃん。むしろあーしのマネージャー以外であーしの冒険者活動が本気だって、気づいてくれたの初めてだから、めっちゃ嬉しい」


 彼女はにこりと微笑んでところで、シャッターの音が聞こえた。


「おっ、二人ともだいぶ表情いいね。今のでオッケーだよ! 休憩挟んで次行くよ!」


 有原のおかげで、どうやらうまくいったようだ。

 さすがプロだ。素人相手の話術までできるんだな。


 一度休憩ということで霧崎さんのもとへ行き、用意してもらったジュースを口につける。


「お兄さん、意外としっかり撮影されてくれますね」

「どういうことですか?」

「もっとこう、暴れまわるといいますか……」

「俺を動物か何かと思ってませんか?」

「わりと」


 霧崎さんが微笑とともに頷く。

 まったく。俺をなんだと思っているのやら。


 ……ていうか、人だかり凄いな。

 休憩のとき、周囲を見てみるといつの間にか人が集まっていた。

 それなりの規模で撮影をしているのだから、野次馬が集まるというのも当然か。


「なあ、あそこで撮影している人に……お兄さんいないか?」

「やっぱそうだよな? 隣にいる人も有原さんだろ?」

「いいなぁ……羨ましいなぁ、有原さん……」

「え? そっちか? 俺はお兄さんが羨ましいぜ……」


 人は集まっているが、最低限の警備員たちでこちらに近寄らないようにしているので騒がしい以外は問題ない。

 遠目に撮影をしている人もいて、それを注意するように声かけを行っている。

 少し耳を澄ませば、そんな話し声が聞こえてくる。


「……めっちゃ羨ましい」

「……お兄様と手を繋いでた……ずるい」

「お兄ちゃん普段の言動とか抜きにするとかっこいいな……」

「ふざけた人だと思っていたけど、麻耶ちゃんさえいなければ……普通なんじゃね?」

「確かに」


 ……俺はいつだって普通だぞ?

 麻耶を思う気持ちを抱くことを含め、普通のことだと思うのだが周りの奴らは好き勝手言っていた。


―――――――――――

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