第112話




「それにしても、俺じゃなくて麻耶のほうが雑誌にはあうと思うんですけどね。ていうか、麻耶が表紙飾れば俺が近隣の本屋の雑誌買い占めて駅前で配るんですけど……」

「やめてください迷惑になりますから……。まあ、今回は向こうとしてもお願いしているモデルさんがいて、それとの兼ね合いもありますからね。麻耶さんというか事務所の人たちも雑誌撮影などはありますから、麻耶さんが表紙の雑誌がほしいときはそのときにしてください」

「麻耶が表紙を飾るんですか!? いつですか!?」

「仮の話なので真に受けないでください。表紙に関してはたぶん全員で、になると思いますが……とにかく、そろそろ着きますからね。冷静に対応お願いしますよ」

「それはどうですかね?」

「麻耶さんのチャンネル紹介をカットされてしまうかもしれませんよ?」

「誠心誠意、頑張らせていただきます!」


 俺が敬礼すると、霧崎さんはこくりとうなずいた。

 それから、こちらに一枚の資料を出してきた。

 有原美也と書かれたものだ。顔写真がついていて、最近の雑誌の撮影履歴などが書かれている。


「……一応、そちらの方が今日一緒に撮影することになるモデルの方になります。名前くらいは聞き覚えありますよね?」

「そうですね。たった今ほど」

「それを人は覚えがない、というんです。……一応、麻耶さんは知っていたのですが、迅さん知りませんか?」

「麻耶とコラボしたことはありますか?」

「知らないんですね。用意しておいてよかったです。有原美也さん。今若者に人気のモデルさんでして、それなりに冒険者としても戦える人なんですよ」

「へぇ、そうなんですね。こんな美人で戦闘もできるって……麻耶の可愛さには負けますが、優秀ですね」

「あっ、はい。とにかく、あまり失礼のないようにお願いしますね」

「もちろんです」

「迅さんも女性ファンから大人気ですが、向こうも男性ファンから大人気ですからね。変なことすると本気の炎上しますから気を付けてください」

「了解です」


 いつも通りにふるまっていれば問題ないだろう。

 変なファンに絡まなければいいのだが。

 シバシバが脳裏に浮かぶ。

 最近は空間魔法のストックをもらう代わりに稽古をつけていて、ちょこちょこ会うことはあるのだが、毎回あの調子だ。


 俺の女性ファンが皆シバシバみたいな人でなければいいのだが……どうなんだろうな。

 そんなことを考えていると公園が見えてきた。




 公園に到着したところで、俺たちは今日関わるスタッフの人たちに挨拶をしていくことになる。

 握手をかわしながらそれぞれに挨拶をしていくと、ちょうど今回一緒に撮影をすることになる相手の人もやってきた。


 麻耶ほどではないが、綺麗な女性だ。さすが、モデルをしているだけはあるな。

 女性と、そのマネージャーがともにやってきて俺たち同様に挨拶をしていく。


 なんてのん気に眺めていると、その女性が微笑とともに俺の前へとやってきた。


「配信を何度か見たことあります。本日は一緒に撮影できて嬉しいです、よろしくお願いいたします」

「こちらも、本日はよろしくお願いします」


 そんな定型文のような挨拶とともにすっと手を差し出される。

 彼女はおしゃれな手袋をしている。握りしめたとき、彼女の手から感じられた力強さに、ただのモデルではないのだと理解した。

 スタッフの人たちが並ぶ俺たちを見て、笑顔を浮かべた。


「こちらは、有原さんですね。モデルとして一流ですけど、ちょっと冒険者活動もしているんですよ!」

「そうそう。片手間で冒険者活動もしていて、そんじょそこらの人よりずっと強いんですよ」


 スタッフの一人がそういうと、別のスタッフも笑顔を浮かべる。


「そういうわけで、今日の配役としてはぴったりだとは思うんですよね。まあお兄さんほどは戦えませんけど」

「……まあ、そうですね」


 ……笑顔、ではあるのだが有原さんの雰囲気が変わった。

 少し不貞腐れたような、どこか気に食わなそうな感じ。

 しかし、笑顔でそれを隠していてあまり気づく人はいないだろう。

 有原さんのマネージャーは有原さんを小突いているが、有原さんはむすっとしたままである。

 そんなこと露も知らずにスタッフの方々は撮影の準備を行っていく。


 冒険者活動が片手間、ね。

 ぎゅっと手を握り締めたとき、感じたものがあった。

 彼女はグローブをしていたが、それ越しでもわかるほど皮膚の硬さを感じた。


 片手間はないだろうな。あれは剣を振っている人でなければあそこまではならないだろう。

 だからこそ、本人からしたら馬鹿にされたような気分なんだろう。

 そんなことを考えていると、スタッフの人に声をかけられる。 


「お兄さんお兄さん。すぐそこの建物に衣装用意してあるから着替えてきて」


 公園からすぐ近くの建物をスタッフが指さす。

 そこが更衣室の代わりのようだ。


「了解です」


 返事をしつつ、俺は建物へ向かう。

 服を着替えるだけではないようだ。髪を整えられ、軽く化粧で肌も整えさせられる。

 想像していたよりもずっと色々と準備があり、それらが終わったところで衣装となる。


 いくつかの衣装で、撮影をさせられるようだ。てっきり軽く撮って終わり、くらいだとばかりに思っていたので結構大変そうだ。

 まあ、今後二度と体験できないようなことだし、今は楽しんでいるとしようか。


 麻耶も楽しみにしてくれていたしな。


 用意された服に袖を通していく。

 事前に体型などは伝えていたので、どれも着るのに問題はなかった。


 それにしても、この服……かなり質がいい。

 見た目だけじゃなくて性能面も優秀ではあるが、その分値段も高そうだよな。

 今回は学生向け、と言っていたが……果たしてこれを学生が購入できるのだろうか?


「今日の装備品って値段いくらくらいになるんですか?」

「全身で一万円から二万円くらいですかね?」

「なるほど……結構安いんですね」

「かなり価格は頑張った、と業者の方は話していましたね」


 先程聞いた金額なら、冒険者活動をしている人たちなら買えないこともないだろう。



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