第114話







 休憩を挟み、次から次へと撮影をしていく。


「次は腕を組んでみようか!」

「腕を組むってこうか?」

「そんなラーメン屋の画像じゃないんだから」


 有原がツッコミを入れながら腕を組んで歩いていくシーンを撮影したり。




「それじゃあ次はお兄さんが有原さんを助けたシーンという感じでお姫様抱っこで!」

「へいへい。おっ、意外と重い?」

「お兄さん蹴られたい?」


 有原がじとっと睨みつつ、撮影をし。




「それでは次はいよいよ、迷宮で魔物と戦闘中のシーンを撮影しましょうか!」

「了解です」


 有原は元気よく返事をし、俺たちは歩いていく。

 何名かのスタッフは撮影現場の片づけとして残り、俺たちは近くの迷宮へと歩いていく。


 俺は霧崎さんを手招きし、少し確認する。


「迷宮ってランクはいくつなんですか?」

「……一応事前にスケジュールに関して渡していましたが、まさか見てません?」

「黙秘で」


 今日の撮影のスケジュールについてを聞くと、霧崎さんはじろーっと見てくる。

 前を歩いていた有原が笑いながら振り返る。


「お兄さん。Eランク迷宮だから別に問題ないと思うよ? 撮影スタッフたちもそれなりに戦える人たちだし、あーしやお兄さんもいるっしょ?」

「なんだ、Eランクか」


 有原や他の人たちの能力がどのくらいか分からないが、Eランク迷宮程度なら特に大きな問題はないだろう。

 すぐに目的の迷宮へと移動し、中へと入る。

 ……人の気配がまったくない。撮影のために、貸し切りにしたのかもしれない。


 冒険者協会に申請を出せば、迷宮を貸し切りにすることは可能だ。

 といっても、結構金がかかる。

 ただ、結構広い空間なので安全面を確保できるなら色々なことに使える場所でもある。


 迷宮の階段を下りていき、一階層に到着する。すぐに撮影の準備がされていき、しばらく俺たちは休憩となる。

 スタッフたちが肩慣らし程度に魔物と戦闘しているが……うん、問題ないな。

 この一階層に出現する魔物はスケルトンか。

 ジュースを飲みながらその様子を眺めていると、同じく休憩をとっていた有原さんが近づいてきた。


「お兄さん、ちょっといい?」

「別に大丈夫だ。どうしたんだ?」

「お兄さん、あーしの魔力ってそんなに多くないと思うけど、どんだけ強くなれると思う?」


 有原に問いかけられ、俺は彼女の魔力を感じ取ってみる。

 ……あまり大きな魔力は感じられない。

 俺と同じで、あまり才能には恵まれなかったんだろう。

 だからこそ、冒険者活動を頑張っている有原としては不安があるのだろう。


「魔力の量って鍛えていけば成長するからな、もちろん、最初に多いほうが有利なのは確かだけど、有原くらいの年齢なら十分Sランクを目指せるくらいまで成長できるよ。ただし、ちゃんと努力する必要はあるけどな」


 生まれた瞬間から凛音や玲奈のような化け物級の魔力を持つ人ばかりではない。

 今のSランク冒険者たちの中にだって、才能だけでここまで来た人だけではないしな。


「やっぱりそうなの? てか、お兄さんはどうだったの?」

「俺も魔力はあんまり多くないほうだったぞ。色々無茶してる間に成長していって、今に至るわけだ」

「マジ? それめっちゃ励みになるんだけど。魔力ってそんなに伸ばしていけるものなの?」

「ああ、きちんと魔力を使う行動をして、よく食って、よく休んでれば強くなれるぞ」


 基本的には筋肉を鍛えるのと同じだ。

 使っていけば少しずつではあるが成長していく。


「マジ? あーし今も結構ちゃんとやってるんだけど、そこまで伸びてる間隔ないんだよね」

「無茶とかはしてないか?」

「…………うーん、どうだろ?」

「心当たりありそうな顔してないか?」


 苦笑とともに有原は頬をかいていた。

 それからぼそりと声を出す。


「いやだってほら、じっとしてるの嫌じゃん?」

「だとしても、鍛える日と休む日はちゃんと作らないとな。あと魔力の成長自体は右肩上がりだけど、順調な右肩上がりじゃないからな? ある日急にぐっと伸びて、また停滞して……っていう感じのときもある。まあ、焦るなってことだ」

「うへー、もっとこうゲームのステータスみたいに分かりやすく出てくれればいいんだけど」

「定期的に能力測定を受ければ正確な情報を調べることはできるぞ?」

「でも自主検査はお金かかるっしょ?」

「かかるな」

「もったいない」

「同意見だ」


 モデルでそれなりに稼いでいると思うが、俺と似たような考え方のようだ。

 金を稼いでいる人というのは案外ケチな人が多いと聞いた事があるが、どうやら有原もそのようだ。






―――――――――――

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