第115話


「それじゃあ撮影の準備できたんで、ちょっと二人で戦闘してもらっていいですか!?」

「了解です。お兄さん、準備できてるの?」

「俺はいつでもな。そっちこそ大丈夫か?」

「もちろん」


 にやり、と笑った有原が腰に下げていた剣の柄を握る。

 俺と有原で揃って前に進むと、スケルトンが現れた。


「それじゃあ、こちらで勝手にとっていきますんでいつも通りに戦ってみてください!」


 いつも通り?

 試しに言われた通りにやってみるとするか。

 地面を踏みつけ、スケルトンの懐に入った俺は肘鉄を放った。


「おお、いい音!」


 スケルトンの顔面をへし折るときの音はこう耳心地がいい。

 俺が笑顔とともに現れたスケルトンたちの顔面を叩いて潰していると、


「……お兄さん、すみません。いつも通りじゃないです、加減して戦ってください……」


 カメラマンがぺこぺこと言ってくる。


「分かりました。こんな感じでいいですかね?」


 俺はスケルトンの腕を掴み、ぽきっと折った。

 麻耶とアイス棒を分け合うときのような感覚での攻撃だ。

 スケルトンは悲鳴をあげながら噛みついて来ようとしたが、その額を片手で掴んで押し返す。


 地面に拘束したところで、カメラマンにピースをすると、彼はひきつった笑顔とともにシャッターを切った。


「……まあでも、これのほうがお兄さんらしいか?」

「お兄さんの戦闘に関してはこれで問題ないな」


 そう言いながら、同じように戦闘を行っている有原のほうにもカメラが向けられる。

 彼女は風魔法が得意なようで、周囲に緑色の風を吹かせながらスケルトンを攻撃している。

 Eランクのスケルトンと、ほぼ互角くらいだ。今はDランクくらいの冒険者なのかもしれない。


 そちらも問題なく撮影できたようで、カメラマンから次の指示が飛ぶ。


「それじゃあ……今度は連携して戦っているシーンをお願いします。お兄さん、こういい感じに動いていただけます?」

「了解です。んじゃ、スケルトン、こっちこい」


 俺は近くに現れたスケルトンに魔力を放つ。

 スケルトンの背中側からこちらに引き寄せるように魔力をぶつけたため、スケルトンはトラックにでも突き飛ばされたかのようにこちらへやってきた。

 そのスケルトンを起こしてやり、羽交い絞めにする。

 暴れようとしたのでその頭を両手で押さえつけるように掴んだ。


「あ、有原……っ! 俺のことはいい! こいつをやるんだ!」

「りょ」


 有原さんは笑顔で剣を構え、スケルトンへと構える。

 そして、うまくスケルトンの頭に剣を叩きつけた。

 俺と有原でハイタッチをしてから、カメラマンを見る。


「どうでした?」

「……いや、あの……まあそのイメージしていた連携しての戦闘とは違うけど、オッケーかな」

「……これお兄さんじゃないと撮れない写真だしね。二人ともいい笑顔だし、まあいいかな?」


 カメラマンと責任者らしき人たちが苦笑とともに撮影したカメラを見ていた。

 それから、さらにしばらく色々と撮影を行っていたときだった。

 少し特殊な魔力を感じ取った。

 これは恐らく――


「ま、まずいです! ユニークモンスターが出現しました!」

「な、なんだって!?」


 ……やっぱりそうか。

 悲鳴をあげた警備の冒険者たちの声に、俺は少し肩を回した。




 ユニークモンスター。

 稀に出現するとされる異質な魔物だ。

 特徴としては、ボス部屋以外の階層に出現する強い個体、だ。


 ユニークモンスターが出現する条件は分かっていない。

 特に法則性は見当たらないため、恐らく完全ランダムなのでは? とは言われている。


 俺が軽く体を動かしていると、ユニークモンスターがすたすたとこちらへ近づいてきた。

 さっきまで戦っていた普通のスケルトンが、鎧と剣を装備した。そんな感じの見た目だ。


「ソルジャースケルトン……っ!」

「こ、こいつってDランク迷宮の魔物くらいの力……だよな!?」


 皆が怯んだ様子で武器を構えている。

 ……ユニークモンスターだとすれば、実際Dランク迷宮の魔物程度の力はあるだろう。


「お、お兄さん……っ! お、お願いしてもいいですか!?」

「了解です」

「あっ、お兄さん」


 この場で余裕をもって戦えるのは俺くらいだろう。

 そう思って返事をしたのだが、そこで有原に声をかけられる。


「あーしもちょっと戦ってみたいんだけど……ダメかな?」



―――――――――――

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