第153話


 いつも思うが、意外と余裕があるんだよなこいつ……。

 俺は近くに用意してあった飲み物をシバシバの分まで持ってきて手渡した。


 しかし、シバシバは自分でペットボトルを持てないほどに弱っていたので口元に運んであげると、彼女は少し迷った後に口をつけた。

 飲み終えると、彼女は再び奇妙な表情を浮かべる。


「……こ、これなんだか赤ちゃんみたいな扱いをされているみたいで、最高だわ」


 ……何が最高なのだろうか。

 しばらく休憩し、少し動ける程度になったところでシバシバが口を開いた。


「それにしても……相変わらず、強いわね。いつまで経っても勝てる気がしないわ」

「まあ、シバシバに負けないよう、こっちも訓練してるからな。それでも、シバシバのほうが成長してるからな?」


 明らかに俺よりも成長速度は速い。いずれは追い付かれてしまうのではないか? という気持ちもあった。


「……そうかしら?」

「今なら、この前戦ったヴォイドとともやりあうくらいはできると思うぞ」

「……それなら、いいのだけど」


 普段変なところはあれど、シバシバが強くなりたい理由はギルドメンバーを守るためだろう。

 シバシバはなんだかんだ言ってヴォイドとの戦いに関して思うところはあるようだったからな。


 だから、彼女はこうして自主的に訓練をつけてほしいと言ってきているんだし。

 シバシバは確実に成長している。もう一度ヴォイドとでも戦う機会があればそれもはっきり分かると思うんだがな。


 さすがに俺もヴォイドを用意するようなことはできないため、シバシバの成長を証明する手段がないのが残念だ。


「そういえば、お兄様。この前ヴァレリアンと戦っていたわよね?」

「ああ。なんか偉い騒ぎになったな」

「……そりゃあね。……それで、ちょっと気になっていたのだけどあれって……本気なの?」

「どう思う?」


 冗談めかしく問いかけると、シバシバはどこか期待するような表情で小さく呟いた。


「……私は、まだ本気じゃないと思ったわ」

「まあな。別に本気まではいかないけど、それは向こうだって同じだったしな」


 お互い本気で命を奪い合うような戦いはしていなかった。

 それで、俺がヴァレリアンより強い、と自負してまわるつもりはなかった。

 話に一区切りがついたところで、俺は悩んでいたことを相談することにした。


「シバシバ、ちょっと相談したいことがあるんだけど……いいか?」

「お兄様の相談? 麻耶ちゃんのこと?」

「なぜすぐその問いが出てくるんだ」

「だって、お兄様が麻耶ちゃん以外で相談することってないと思ったのだけど、違うかしら?」

「まあ、半分くらいは正解だな。今【ブルーバリア】は迷宮攻略の話とかは来てないか?」

「え? いくつか来ているけれど、どうしたの?」


 やっぱり来ているか。

 それなら、いくつか都合の良い迷宮依頼もあるかもしれないよな。


「俺の知り合いたち……麻耶とその友達たちなんだけど夏休みに迷宮攻略をしたいらしくてな」

「……『リトルガーデン』の子たちよね? 皆、高校生なのに向上心の塊よねぇ」

「ほんと麻耶は凄いよな!」

「いえ、麻耶ちゃん以外もね?」

「まあ、それはそうだけどな……向上心に関してはシバシバだって、たいして変わらないだろ?」


 彼女だって今は大学生だ。

 それで日本を代表するギルドの一つとして活動しているのだから、かなりのものだと思うが。


「そうはいっても、私が高校生の頃ってあそこまで強くなかったわよ」

「まあ、それは俺も同意見だな。それで、メンバーは四人になるんだが、平均でDランク冒険者くらいでな。さすがに四人で一から攻略となると大変だし、同じランクくらいの冒険者たちと一緒に迷宮攻略をさせてやりたいと思ってな。例えば、【ブルーバリア】が忙しくて人手が少しだけ足りない、とかあれば同行できないかと思ってな」


 迷宮攻略の人数はだいたい十人程度。それに麻耶たちが同行できないかと考えていた。

 同じくらいのランクの冒険者たちとともに攻略したほうが、おそらく実戦経験も積みやすいだろう。

 【ブルーバリア】がどの程度を目安にしているかは分からないが、それでもそれなりの人数で攻略しているはずだ。


「なるほど、ね……でもお兄様が協会に頼めばいくらでも仕事はもらえるんじゃないのかしら?」

「まあ、それはあるかもしれないが、どの道四人だけで攻略はさせたくないんだよ。何かあったとき問題だろ?」

「お兄様か玲奈が同行すればいいんじゃないの?」

「俺や玲奈が同行するとなると、それはそれで迷宮攻略特有の緊張感が体験できないからな。それと、【ブルーバリア】なら女性冒険者しかいないんだし、麻耶たちにも万が一はないし……騒ぎにもならないだろ?」


 例えば、麻耶たちだけで攻略させたくなくて、一般の冒険者を募集するとしたら……。

 今の麻耶たちの知名度だと、下手に一般冒険者を募集するとそれだけで騒ぎになる可能性もある。

 また、変なことを企てる男がいないとも限らない。


 麻耶の可愛さは人を狂わせるほどでもあるわけで、メンバーを集めるだけでも一苦労だ。

 何より、流花はわりと絡まれることが多いし、凛音だって今では登録者数100万人近いらしい。


 ……何より、有原はモデルで活動中であり、冒険者界隈しか知らない三人よりも一般人の注目を集めやすい。


 もちろんやばそうな奴は見つけ次第俺がお話してやるが、俺の仕事が増えるだけだ。

 なので【ブルーバリア】に協力をお願いできれば色々と俺にとっても都合が良かった。


―――――――――――

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