第152話



 さて、麻耶たちが攻略する迷宮だが……非常に迷っていた。

 迷宮のランクはどの程度がいいのか? どんな迷宮がいいのか……。


 前提として、通常迷宮攻略では大人数で行うことが多い。

 転移石が設置されている迷宮なら問題ないが、ない場合は一階層ずつ下りていく必要がある。


 戦闘と休憩を簡単に言えば二班から三班程度に分けて行うため、それだけ人数が必要になる。

 ただ、今回は四人だからなぁ。


 できれば、転移石がある迷宮がいいのだが……そもそも依頼に出されるような迷宮というのは面倒なものが多い。


 転移石がある迷宮の攻略依頼なんて、緊急事態くらいだ。


 次の日。俺はいつものように【ブルーバリア】が管理している訓練場へと来て、シバシバと模擬戦を行っていた。


 シバシバが身体能力を高め、刀を振りぬいてくる。

 すべて見切れてはいるが……確実に速度と正確さが上がっている。

 何より……ここ一番の一撃に関しては恐ろしいまでのキレがある。


 ――来る。


 シバシバの集中力が増した瞬間、彼女が一気に地面を踏みつけて迫ってきた。

 魔力を爆発させ、一気に加速した彼女の刀が俺の眼前へと迫り……その刀を掴んで受けとめた。


「あ、相変わらずお兄様は凄いわね……っ」

「シバシバも、かなり上達してるぞ」


 俺としても、最近では見切るためのいい訓練になっていた。

 彼女の刀から手を離すと、シバシバは一度深呼吸をしてから刀を構えなおした。

 そして、訓練再開。


 シバシバが刀を振り下ろす。

 もちろん俺は余裕をもってかわすのだが、すぐに再び刃が迫ってくる。


 まるで磁石のように俺を追尾してくる正確で鋭い一撃。

 それらをかわしきった俺は、シバシバに拳を振りぬいた。

 しかし、俺の一撃はかわされる。回避と同時にシバシバが刀を振りおろしてくる。


 ……一進一退の攻防は続いていく。

 俺は多少能力を押さえているとはいえ、シバシバももうここまでついて来れるようになったか。


 俺と戦い続けているため、俺との戦いに慣れて対応がうまくなっている、というのもあるかもしれないが、それでも彼女の能力が向上しているのは確かだ。


 しかし、連続で攻撃していたシバシバの表情が段々と険しくなっていく。

 そろそろ、限界か。


 今のシバシバは体の限界を伸ばすため、追い込みをかけているところだ。

 限界を超えるほどの身体強化を常に使用し続け、魔力と肉体の両方を鍛えていけるが、やっていることは呼吸を止めて全力疾走をし続けているようなものだ。


 そりゃあ、限界が来ればどんどん体のキレが悪くなっていく。

 それまでの疲労が一気に襲い掛かってきたかのように呼吸を乱していく。


「お、お兄様そろそろ限界が――」

「まだいけるだろ?」

「い、いけますぅ……っ」


 なぜか恍惚とした表情で彼女はさらに身体強化で肉体を痛めつけていく。

 時々不気味になるシバシバだが、この訓練は今のところうまく行っているな。

 俺は笑みを返しつつ、適度に攻撃を加えていく。

 俺の攻撃をシバシバは刀で受け止め、後退する。


 気を抜こうとした彼女へ、さらに追撃を仕掛けていく。

 どんどん顔色は悪くなっていくが、それに比例してどこか恍惚度がましているような……。


 追い込みでは、本当に限界まで追い込むことが大事となってくる。そのほうがより成長するのは俺自身で体験済みだ。

 俺も、限界の戦いを何度も乗り越えてきたからな……。


 だからこそ、ぎりぎりまで攻撃を続け、そして……シバシバはその場で倒れた。

 ぷるぷると体を震わせている彼女を見て、限界まで追い込めたことを確認した俺は攻撃を中断した。

 俺の攻撃が止まったのを見て、シバシバは思い出したように荒い呼吸を行っていく。


「大丈夫か?」

「お、お兄様……ドSよ」

「いつも言ってるだろ。そこまで追い込んだほうが効率いいからな。大丈夫、そうだな?」

「いつも言っているでしょ? お兄様に限界まで痛めつけられて、今最高に興奮してるわ」


 ぐっと親指を立てるシバシバ。




―――――――――――

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