第68話

 ……まあ、迷宮の食材に慣れていない人からすればそうなるか。

 そうして、すべての肉を焼き終えたところで、スタッフの人たちが紙皿に用意していたご飯をよそってくれる。

 そこに、肉を載せただけの料理。料理とも言えないその代物だったが、香り立つ匂いに皆が興奮しているのが分かる。


「よし、食うか」

「い、いただきます!」


 スタッフたち含め、皆が手を合わせてそのステーキにかぶりつき、そして――身もだえていた。


「う、うまい……っ。美味しい……え、やばい……え、美味しい……」


 流花が完全に語彙力を失ったようで、ただただ壊れたように呟き、パクパクと食べていく。

 ……物凄い勢いである。持っている箸が止まらないという様子なので、俺も追加で肉をどんどん焼いていく。


〈……マジでうまそうだ……〉

〈やめろ……腹が減る……〉

〈いいなぁ……めっちゃ食べてみたいぃぃぃ……〉

〈スタッフさんたちもめっちゃ幸せそうな表情してんじゃねぇか……っ〉

〈今頃他のスタッフたちやばいんじゃないかこれw〉

〈今日参加できなかったスタッフの人たち、マジで嫉妬してそうだよな〉

〈会社のバーベキューとか俺絶対嫌だけどこれなら参加してぇ……〉

〈休みあけの事務所で血を見ることになるかもなw〉


 俺も焼きながら肉と米を口に運ぶ。肉は……しっかりとした触感を持ちながら、柔らかいのだ。

 おかしな感覚。だが、最高に美味しい。

 スタッフたちは無心で食べていたのだが、慌てた様子で気づいた。


「流花、どうだ?」

「……美味しすぎる。って、ごめん、お兄さん。私があとは料理するから……っ」

「いいって、気にすんな。麻耶とバーベキューするときはだいたいいつもそんな感じだから」

「……いやいや、今日はお礼だし……」


 ……そうか?

 誰かが食事しているのを見るほうが好きな俺としては、このまま焼きながら食べるくらいでちょうどいいのだが。

 それでも、あまり俺がやりすぎても流花の心情的にもよくないか。


「お、お兄さん。オレたちも焼きますからっ」

「そうですそうです。任せてください」

〈草〉

〈この人たちが仕事を忘れるほどの味ってことだよなぁ……〉

〈やばいだろ……羨ましすぎるぅ……〉


 肉を焼いてくれるということで、俺はスタッフの人たちにそれをお任せして食事させてもらおうか。

 もちろん、焼く前に魔力の膜と鎧の破壊が必要なので、そこだけは俺が手伝い、どんどん焼いていく。

 流花の魔力でも十分突破できるので、少し指導をしながら焼肉を続け、雑談配信していると……その匂いで人も集まってくる。

 ここでは他にもバーベキューをしている人たちであふれているのだが、グラントレックスの肉はそれらを超えるほどの旨味だ。


「え? も、もしかしてお兄さんですか!?」

「ん? おまえの兄になったつもりないぞ?」

「あっ、やっぱりお兄さんだ! 今日ここで配信してたんですか!?」


 ファンもいたようだ。

 ぞろぞろと集まってきた人たちに、俺が近づく。


「今配信中だから、顔映っちゃうぞ?」

「あっ、大丈夫ですよ!」

「気にしませんよ今の時代」


 ……最近の若者はそういうものなのだろうか?

 まあ、よほど変なことしなければ大丈夫という感覚なのかもしれない。


「ていうか、滅茶苦茶いい匂いしてましたけど……何焼いているんですか?」

「『美食の森』のボスモンスターの肉だ」

「ええ!? それってじゃあAランクボスってことですよね!?」

「そうなるな。そうだ。一般人の意見として一口食ってみるか?」

「い、いいんですか……!?」

「ああ、別に。またとってくればいいし」


 せっかく来てくれたんだからな。

 それに、ここで肉を与えることでマヤチャンネルに登録させることもできるかもしれないしな……っ!

 ひそかに画策しながら、俺は肉をトングで掴み、もう片方の手にもったナイフで捌く。

 一口サイズに切り分けたステーキたちを紙皿にのせ、近くにきた人たちに渡した。


「ほら、一人一切れ。食ってみるか?」

「い、いいんですか!? あ、ありがとうございます! ……はっ!?」

「え? 何これうま!? うますぎない!?」

「おう、うまいんだよ。あっ、ちなみにこの肉が食える店もあるらしいから、今度金貯めていってみるといいぞ? あっ、マヤチャンネルの登録も頼むな」

〈草〉

〈試食してる人たち皆幸せそうな顔してんな……〉

〈これが迷宮食材の力なんだよなぁ……。これまで美味しいと言われていた食べ物たちが逆立ちしても勝てないんだよな……っ〉

〈現地楽しそうだな……おい……行きてぇ〉


 俺は用意していたビプスを装備し、宣伝をしていく。

 ……だが、肉の魅力にやられて試食にきた人たちはこっちを見てない!

 完全に昇天してしまっている彼らに、近くでこちらを見ていた人たちも集まってくる。


「お、お兄さんですよね!? 配信見てて近くに来ました!」

「おう、マジで? ほらマヤチャンネルだ。ちゃんと登録しろ」

「あっ、これが……もう登録しちゃってるんですよね……」

「んじゃあ肉食ってけ」

「い、いいんですか……?」

「またとってくればいいからな。よし、おまえらじゃんじゃん食ってけ! あっ、悪い! 流花! ちょっとまた迷宮潜ってくる」


 まだ麻耶を知らない人たちへのいい宣伝になると思った俺は、食材を餌に人を集めようと考えて走り出そうとして、流花も席を立つ。


「お、お兄さん……っ!? わ、私も手伝う」

「よし、んじゃあちょっと肉食ってろおまえら! あっ、マネージャー、あと任せます」

「はいぃ!? コラボ配信でメインの二人がいなくなるとか前代未聞ですよ!?」

「る、ルカちゃん!? ちょ、ちょっと待って!」

「任せる」


 流花がぐっと親指を立て、俺の隣に並ぶ。

 俺たちのマネージャーが叫んでいたが、俺と流花は迷宮へと向かう。


―――――――――――

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